田舎のBlues
Bluesが生まれて来た、黒人達の存在の社会背景
彼らは奴隷解放後も抑圧され続けてきた。
教育の平等、選挙の平等、住居の自由、職の平等、その他モロモロ……
特に第二次世界大戦以後を見ると、南部連合地域に住んでいた黒人達は、まず住居地域を指定され(分離)、常に働くにも不便な地域に押し込められていた。だから、ちょっとした職に在り付けても遠くから通わなければならなかった。交通手段も自家用車がなければ公営のバスに頼らなければならなかったし、そのバスも黒人用の席は指定され、白人の客の為に席を譲らなければならなかった。
学校も、黒人地域に対する予算は少なく、その子供達でさえ親の働きを助ける為に年少の頃から働かされていて、教育も不充分のまま育ってきた。だから読み書きも不充分で世の中の仕組みや社会の在り方について学ぶ機会もなく、それより毎日をどうやりくりするかだけにエネルギーを消耗して生きて来た。たとえ努力して教養を身に付けても、結局その若者は白人社会から危険分子として傷めつけられ脅されて、反抗の芽を摘まれてしまう。そんな中で生きてゆくには『諦め』の中でしか生きるすべはなくなる。
反抗すればするほど抑圧されてくるので、反抗の態度を白人に見せない様にしなければ生きてゆけない。白人に服従する姿勢を見せなければ暴力から逃れられない❗️
悔しい思いで生きてゆかねばならない。でも生きてゆく中で、小さな幸せを求めるだけで満足しなければならない。
1940~1950年代、1960年代のかけての南部黒人のBluesにそれが、よく現れている。
大多数の黒人達は奴隷時代とかが分からない状況、仕事は農業が殆んど。安月給で働かされてはいても農業は、ある程度の収入が確保できるので放浪生活よりはマシだと言える。
Bluesの歌詞を見ると、黒人対白人をテーマにしたものは一つもない。と言い切れる。
彼ら黒人達の社会の出来事がテーマになっている。
彼らの社会においても互い不平等や仕事の奪い合い、騙し合い、果ては強奪などにいつも注意を払う必要があった。全ては貧困のなせる技であり、貧困は白人の差別から生まれる。
田舎(南部)では、Bluesの歌詞内容は白人からの差別などは歌われていない。
主なテーマは異性(特にBluesの歌い手は男が多いので…)との愛と別れである。
そして人生の哀しさが殆んどをしめる。
僕がBluesに引き込まれてゆくその原因の中の一つに『Big Maceo』の”Worried Life Blues” がある。
この曲は第一次大戦と第二次大戦の間にシカゴで録音されたものだが、色濃く田舎のBluesの特徴を持っている。それはPianoとGuiterのDuoである。ちなみにGuiterは『Tampa Red』『Blue Bird Best』と呼ばれる一時代を築いた名演の一つだと思う。
また、この頃はBassやDrumがリズムを刻む以前の『Juke Joint』での演奏をほうふつさせるものである。
8小節のBlues
この曲は、ある男のせつなく哀しい人生を歌っているにも関わらず何故か”Someday Baby”……と呟くその理由が、この曲を聴き始めた当時の僕には理解出来なかった。が、その”Someday”の呟きが僕の心をとらえて離さなかった。
あぁ、失意の中でも微かな希望を失わない、この人達の生命力の強さに惹かれたのである。
(1)二人は何故離れ離れにならなければ、ならなかった。
(2)どこに居ても女の事が忘れられなく、今も愛している。
(3)女が居なくなって、(何故?)我が人生には苦悩と、生きてゆけない苦しみが覆い尽くす…
(4)これが俺の言いたい事だ、お前が何をしようが、好きにやってくれ!
※いつかきっと、俺の人生にも心配事が無くなる日がやって来る。
何故(1)~(4)の事柄が起こって、Someday… になるのか? これが理解に苦しむ事だった。が、今になって妹尾にも理解が出来る。
それは……
(1)離れ離れになる原因は、男に定住できない事情がある……
田舎では、なかなか定職に就けない。
男たちは定職(たぶん農夫として働く)を求めて競争が激しく、季節労働くらいしか仕事に就けない。
次に、いつ仕事に有りつけるか分からないから、愛する女と一緒に居られないのだ。
必然、男は職を求めて、各地に出掛け放浪する事になる。
(2)だから、何処へ行っても寂しく、女の事を思い出して、俺も頑張らなきゃ❗️と一層、愛おしく女を想う。
(3)ところが、女の方は定職の仕事(ベビーシッターや洗濯やまかないなど)に従事していて、家を借りて住んでいる。
男の帰りを待っていても、男からの連絡が暫くなければ寂しさに耐えかねて、新しい男を迎え入れてしまう。
この曲の歌い手も、元々そうして女の家に迎えられた一人であろう。
女の為にも頑張ろうとして、女を信じているこの主人公にしてみれば、あっという間に時間が過ぎていってしまうのに気が付かないでいると、女には新しい男が出来る。そして、女は別れを告げる。
(4)男は想う「そうか、無理もないなぁ。だから、お前が何をしようが無理強いはできないな」決して女を憎んではいない。その点が、特に妹尾には理解できなかったが、今では、その気持ちは大いに理解できる。
僕たち普通の日本人の感覚から「俺は女の不実をなじりたくなる。」実際この歌詞は女をなじって”I don’t care what you do”と言っているのかと初めは思っていた。
※そして、”Someday” である。”Someday” である限り、保証されていない未来のいつの日か、はかない希望を抱いて生きてゆこうとする男の心情が僕には切なく哀しい。
Weeping Harp Senoh:Worried Life Blues