2005年ブルース研究

ブルース歌詞と対訳

妹尾隆一郎は、ブルースの歌詞についても纏めてみたいと思っていました。

この文章は2005年に書いたものです。


『ブルース研究』コーナー

ブルースの歌詞と対訳

BLUES が好きになり、長く演奏したり、研究したりして来て、以前に増して歌詞の意味が気になり、又やりたい曲の歌詞が見つからなくて、自分で研究したり、たまたま知り合った外人に訊ねてみたり、自分で辞書をひいてみたり、何をどう云っているのか、何度も聴いて聴き取る作業で何日も徹夜したり、やっと歌詞カードを見つけてみたものの、どう聴いても、歌詞カードと違っていたり、辞書をひくにも、スペルが判らなかったり、辞書に無かったりしながらも、今年 2005 年でもう 37 年近く興味を持ち続けて、こんにちまで来ましたが、やっと最近になって、歌詞の中身が、紙芝居のストーリーの様に見えて来る様になって来ました。

今でも、BLUES が好きで、バンドでやりたいと思っている人も多く居ますし、好きで、聴きたい、楽しみたいと思っている人も多い事でしょう、僕なりに、見えてきた部分を、ライブで解説をして演奏すると、皆から、ブルースってこんなに面白いんだと、喜ばれて、もっと好きになって欲しいと思う様になり、自分なりに理解して来た事を皆さんに公開しようと決心して、この項目を WEB で公開する事にしました。

でも僕は英語の達人でもないし、アメリカ社会の研究家でも有りませんが、ある程度の確かさを持っている部分だけを公表して行きたいと思っています。

ですので、僕の公表して行くこれからの内容の中で間違っている部分があるかも知れません、もし、その事に気付いた方がいらっしゃいましたら、どうぞ、妹尾まで、遠慮なくご意見をお聞かせ下さい。間違った情報を流す事が、社会にとって、どれ程の害悪をもたらすかは、関東大震災に於ける朝鮮人民虐殺事件や、日中関係の外交問題をこじらせたりの事を観ても判るように、間違った情報のもたらす悪影響は、後から修正の効かない事実として誤用されてしまうのは、避けたいとの思いで、これまで公表しないで来ましたが、多くの人達との交流で、より真実にちかいブルース像を求めてこのコーナーを始める事にしました。

僕の大好きになった、ブルースと云う音楽をより一層深く理解して愛して貰えるように努力をしたいと思っていますので、皆さんの協力を仰ぐ目的もあって各々の方面からの積極的な投稿をお待ちしています。

妹尾隆一郎、通称:ウイーピング・ハープ・セノオ



I'm Your Hoochie Coochie Man

A Gypsy Woman told my mother

とあるジプシー女が、お袋に云うたそうな

Before I was born

俺が生まれる前になぁ

I golla(gotta) boy child comin'

お腹の子は男の子

He's gonna be a Son of the Gun

その子はきっと凄い男に成るって

He's gonna make pretty womens

そこら中のおなごを

Jump & Shout

驚喜させて

Then the whole world gonna know

世界中の人々が知るだろう

What it's all abou'

どんな男が生まれたか

(裏ではキリストの様な意味を暗示)


(refrain)

Don't You know I'm here

その俺が、此処に

Everybody knows that I'm here

皆が知っている

Well You know I'm a Hoochie Coochie Man

俺がフーチークーチーマン

Everybody knows that I'm here

誰もがみんな、知っている


Golla(gotta) Black Cat Bone

黒猫のあばら骨と

I golla Mojo Tooth

モージョーの歯

Golla John the Conqueror root

ジョン&カンカラーの根(蔓や蔦の一種、杉や松の大木を締め上げて枯らし成長する生命力の強い植物)

I'm gonna mess with you

この三種の神器を備えた俺には逆らえないぜ

Gonna make you, Girls!

特に女達は

Lead me by the hand

俺の手を取り、誘い

then the whole world gonna know

皆にも直ぐに判るだろう

Hoochie Coochie Man!

誰がフーチークーチーマンなのか!

(refrain)


On the 7th hour

7つ目の時間の

On the 7th day

7つ目の日の

On the 7th months

7つ目の月に

Seven doctor say

7人の学者達が云ったとさ

(7の連続は神の天地創造を暗喩)

I's born a Good Luck

俺は幸運の星のもとに生まれたって

(ベツレヘムでのイエスの誕生を暗喩)

That you'll see

そうだろう?皆も観ての通り

I golla seven hundred dollers

俺は今キャッシュで700ドルも持ってる

(1940年代の700ドルは大金!今でもシカゴでは一か月の平均的黒人の家賃)

Don't you mess with me

この俺に手をだすな!


(refrain)



『チェックポイント』

この曲はアメリカが第二次世界大戦に勝利した直後の北部中央の五大湖近辺の機械工業の盛んな(戦争前後に於ける工業の隆盛で南部からの黒人労働者の流入がコミュニティーの形成と戦争を通じて、差別の表面的な部分が薄れている様な世相の中で、黒人の中から、救世主が出て来て、幸せな未来に夢を持ち始めた時代でもあるが、北部では最初から比較的表面では、差別感は薄い)地域に生活の向上を求めていた人達に、スーパーマンが現れて救ってくれる事を期待する空気が生まれ始めていたと云える、事実50年代からの、黒人の人権闘争の始まり(マーチン・ルーサー・キング・ジュニア等)の時期にも相当していて、自分達がアメリカという国家の市民としての自信を持ち始めた頃でもある。


事実、多くの黒人達は給料の出る仕事として戦争の一員として入隊した面もあるが、多くの黒人兵が経験した事の中に、軍隊に於いては、肌の色だけでは差別の対象にならず、(勿論高級将校になるには、軍の大学を卒業の必要もあり、入学の時点では難関もあるが)ある意味で、アメリカの良い面を経験した兵卒が多かったと云われており、この経験も多くの黒人に、期待を抱かせる基になったと思われる。


特に工場労働者にとっては、南部での農場での仕事しか無かった下層階級の黒人にしてみれば、北部の工場でのサラリーは(特にブルーカラーの下級労働者のサラリーは、週給で支払われ、北部では南部に比べ7倍近いサラリーが支払われていた)将来の人生に夢を持って行ける幻想を生み出すだけの収入を期待させるに充分なものを手にいれる事が出来た。


そんな時代だから、こんな歌詞が黒人達に熱狂的に支持された事だろう。その上アメリカ社会に於いて生活に欠かせない要素として、コミュニティーの中での生活を拒否する事は、日本で云う「村八分」の要素を持っている、毎週日曜日の教会のミサに出席する事が、仕事のうえでも、近所付き合いでも欠かせないものが有り、聖書の言葉や、牧師の説教は、生活の深部にまで強い影響力を持っていただろう事は、我々日本人の想像以上だったろう。


しかも、直接的な言葉を避けて白人社会に刺激的な歌詞ではなく、そんな期待感を持っている黒人の人々だけに想像できる比喩を使っているのも、この曲が存在して来た理由と思われる。それは、


Sun of a Gun と云う言葉を使って居る事。

白人にとって Sun of a Gun とは、「ならず者」「はぐれ者」「ぐうたら」等の社会にとって悪い者、のニュアンスが根本にある言葉だが、黒人やギャングにとっては、カッコイイ響きを持っている面があり、これは日本人でもよく使われる用法の一つなので、(例えば、悪党という言葉は中世の日本では、単に世の中のルールの外に居る人々という意味に過ぎなかったのが、今では、犯罪者という意味だけに使われている)我々にも理解し安いと思う。


もう一つには、Hoochie Coochie Man と云う、英語としては意味の通じない言葉を使って白人を煙に巻いていて、彼等からの攻撃をうまく避けている事。


その上、昔から黒人達の使ってきた英語が、まともな英語では無く、ハッキリ云ってブロウクン・イングリッシュであり、わざと、ブロウクンなまま、歌う事で仲間に同志である事を訴え、同時にブロウクンである故、学問のない、無知な人間のたわごとを装う事で、白人からの迫害を逃れてきた彼等の知恵でもある、それがこの曲の内容をより一層、黒人達に訴える曲にしていると思います。


『ブロウクンな部分の具体例』

歌詞の三段目:I golla boy child comin'

歌う本人が、「私に男の子が出来る」と云ってるのが、文脈に合わないし、「golla」「gotta」「gonna」であって、これは、英語では、下品で普通の白人でも余程節度を無くして、一人前の人間である事を放棄した時位しか使わない、特に無知で下品な黒人の使う言葉として、白人には捉えられる用法だし、

歌詞の五段目:He's gonna make pretty womens

の「womens」は、複数形の「women」に重複して、複数を表す「s」を重ねているし、

歌詞の三番目では:

天地創造の数の「7」を使って聖書の最初の部分を比喩にうまく纏めてみたものの、ベツレヘムの学者の数は、3人の筈だし、700ドル位の金額で偉そうにしているくらいなら、この男は世の中の事やアメリカの政治の事等、全く知らない、おやまの大将、井の中の蛙.......と白人には思わせるだろうな、と僕は、深読みをします。


大きく云って、ジプシーに頼ったり、ブロウクン・イングリッシュだったり、聖書をちょっとかじった程度の黒人の夢が、女に強い男だったり、700程度の小金持ちに成りたい、程度のものとして、白人には響いても、黒人にとっては、イエス・キリストに勝る新しい救世主、しかも、黒人の! という願望の表現だろうなぁ~と、僕には思えます。皆さんはどう感じたでしょうか?




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