1994年に発売したグヤトーンのハープ専用アンプ『HP-300』Harpist =『妹尾アンプ』と思ってきました。
しかし何年か前、ある雑誌のブルースハープ特集で、このアンプに関しての短い記載の中に
間違っていると思える部分が有ったので、私は編集者に指摘しました。
でも、なかなか私の話は信じて貰えませんでした。
その時、このアンプに関して、特に開発について間違った情報がある事に気付きました。
インターネット情報が溢れる現在は何に関しても間違った情報や嘘の情報が一杯です。
仕方ない事と諦めていましたが、
今年(2013年)の1月にグヤトーンが営業停止したと知り
やはり、『妹尾隆一郎公認サイト』としては『HP-300』Harpist が、どの様に出来たのかを
記しておくべきと考えました。
妹尾隆一郎がブルースハープ奏者としての経験と力を注いだアンプです。
世界で初めてのハープ専用アンプでもあり、みなさんに誇れるアンプです。
妹尾隆一郎の音楽人生にとっても重要な功績であると確信しています。
_:ハープ専用アンプを作ろうという話はグヤトーンの方からきたんですか?
妹尾:そうそう。
ハープアンプを作る前に、伸ちゃん(塩次伸二)のギターアンプをグヤトーンが製作してて
で、伸ちゃんのアンプが殆ど完成した位かな、
そのあたりに「妹尾さんのハープ用アンプもいかがかな」という話が有って。
で、僕がグヤトーンの会社に行って話をして「では、やってみましょうか」という事に成ったの。
ハーモニカ専用アンプを作るなら、僕のハーモニカ経験からこういう風なアンプがいいなあ。という話をして。
普通ギターアンプはギターの電気を増幅するだけの物だけど、ハーモニカ用のアンプはマイクを使うから、
マイクの回路みたいのを、少しきちっと設計した方がいい。と言って
僕がプリアンプの簡単な設計図をその場で書いたの。
プリアンプっていうのは、アンプの入り口に差し込んで入力の音をある程度大きくする。
音を大きくして出力アンプに持っていくと。
出力アンプに関しては、僕は設計思想を持ってないからグヤトーンの専門の方にお任せして。
なんせ、プリアンプだけでもこういう風にしたら、ハーモニカプレーヤーにとって、やり易い様な音になるだろうと
いう事で、「こんな風な感じでどう?」って軽く設計図を書いて提出して、専門家の人にも見て貰って決まったの。
だから、グヤトーンと最初話をしたのは、ハープ奏者の中では俺だけなの。
_:プリアンプの設計の他にも何かありますか?
妹尾:アンプのデザインもそう。
箱の形、色、鉄わく、あれも全部そうだね。
ちょっと変わったデザインなんで、ちょっとお金が掛かったって言われたけどね。
_:それと真空管を使ったんですよね。
妹尾:プリアンプに真空管を2本使った。
本当は、僕はオール真空管でいきたかったけど、グヤの人が、「デザインにもお金掛かってるし、
オール真空管にすると原価が結構高くなるので、出力アンプのメインアンプはトランジスタでどうでしょうか?」
と言ってきたの「じゃあ一応トランジスタで作ってみて」と言って。
「ただし、プリアンプは真空管じゃないと駄目だ!」って言って真空管にして貰ったの。
それで、メインアンプはトランジスタで試作品を作ってもらって、試してみたらいい感じだったので、僕はOKだしたのね。
その後、面白いのは、「スピーカーが2種類有るんですが、どちらがいいですか?」って言うんで
それぞれのスピーカーを試した結果、僕が「こっちがいい!」って言ったスピーカーが高い方のスピーカーだったの。
_:やっぱりねぇ~
妹尾:やっぱりね。
「そうですか、値段的にもあれですけど、でもまあね」ってグヤの人が言ってくれてね、
高い方のスピーカー使う事に成ったの。
それから、あとで調整できる様にしたアンプの試作品を何台か作って、いろんなハーモニカプレーヤーに
会社に来て貰って、テストして貰ったの。
_:どんな人達にテストして貰ったんですか?
妹尾:その頃『はもにか道場』で一緒に演ってた、石川二三夫、八木くん(八木のぶお)、続木くん(続木力)と俺。
他には、西村ヒロ、それに、太郎(千賀太郎)も来たなあ、親父(千賀明三)と一緒に。
_:そうですか、この辺が、間違った情報の元かもしれませんね。
妹尾:でも、みんなには僕が声を掛けたからね。「アンプのテストに協力してくれ」と。
使い勝手とか、音の感じとか。
回路を少し変更する位で改善の余地はあるから。
_:おおきな変更はあったんですか?
妹尾:いや、なかった。
そうやって最終的に決まって売り出す時に、テストに手伝ってくれた人達に贈呈したの。
ー:グヤトーンがアンプのお披露目を兼ねたコンサートの費用を出すからと言うのを妹尾さんは断ったそうですね。
妹尾:どっかの区民ホールみたいな所で、アンプのお披露目を兼ね『はもにか道場』のコンサートをする費用は出さない
でいいから、その代わりに、出来るだけ沢山のハーピスト達にアンプをタダでやってくれと。
まあ、そういう事で、グヤトーンの方が金を出すと云うのを、俺はいらんと云うたの。
ー:プリアンプの設計したり、開発に加わったんですから、その分のお金は当然貰ったんでしょう?
妹尾:俺、一銭も貰ってないよ。
グヤトーンはくれるって言ったけど、俺いらんって言ったの。
_:そのお金で、みんなにアンプを配って欲しいと言ったんですか?
妹尾:そうそうそう。
_:小さい方のアンプ『HP-150』は何故作られたか教えて下さい。
妹尾:『ハーピスト300』が売り出されて、ちょっとした頃だったかな。
グヤトーンの方から、「出力30Wのアンプにしては値段が高くて…」という話があって。
当時、プリアンプが真空管で有ろうが、出力30Wの小さめのアンプは定価がだいたい3万円くらい。
『ハーピスト300』は5万8千円だったかな?
小さめのアンプはアマチュアがちょっとした練習に買う程度だったから、ね。
そういうのも有って、ちょっと売るのに苦慮が有ったんだろうね。
だから「『ハーピスト300』の縮小版出していいですか」って言われてさ。
値段が高くて売り難いんだったら仕方ないかなあ、とか思って。
で、「オールトランジスタに成るんですけど」って言う訳。
うう~ん、って思ったけど、苦労掛けるなと思ったから「いいですよ」って承諾したの。
で、まあ、オールトランジスタだから、やっぱり音は良くない。
真空管のプリアンプを使っている意味がひじょうに大きいというのが、僕にはよく解る。
小さい方のアンプはオールトランジスタだから、正式版の『ハーピスト300』に比べて音がいい訳がない。
特に僕がこだわった、プリアンプに真空管を使うというのは、ハーモニカの音の根本的な良い所を活かす為、
真空管を使うしかなかった。
トランジスタだと、ギスギスした音に成るのね。只の雑音に成るの、割れる音が、音の割れ方が。
_:ああ、私の嫌いな音ね。いやーな音。
妹尾:うん。それは、もう音感的にも質感的にも、よく解るな。
只、ギーーーーって音がするのね。
で、真空管だと、ギュワャ~~ゥンという、なんかホワャ~~ンという音がするの。
一言でいうと暖かみが出る。
トランジスタだと音は割れ易いんだけど、音は良くない。
真空管だと音は割れ難いんだけども、ちょっと柔らかく暖かな音に包まれた割れ方に成るの。自然な感じ。
_:ああ、だから、小さい方のアンプ『HP-150』が家に有るのに、ライブに持って行かないのは、そういう訳でしたか。
妹尾:そうなの。
まあ、使うマイクに依っても違うけどね。
_:相性があるからね。
妹尾:小さい方のアンプは、スピーカーも小ちゃくて再生能力も低いし、だから、しょうがないよね。
でも、便利なとこがあるの。実は乾電池を入れて路上で使える。
それを活用させて貰ったのは、太郎と親父と俺と三人で小さい方のアンプ『HP-150』を三台持って
大阪で、チョコチョコね、路上で演ったりしてた。
太郎は小学生に成ってたと思うけど。
_:太郎くんのお父さんのギターにも、このアンプ使ったんですね。
妹尾:ハーピストのアンプはギターに繋いでも、なかなかいい音するんだよ。
大阪の三角公園とかね。あの有名なアメリカ村で演奏したり。
コロコロに載せて引っぱりながら… 一カ所で音出してると文句言われるから。
商店街をコロコロ引っぱりながら歩いて演奏してね。いろいろしたもんだ。遊びでね。
商店街のおっちゃんに叱られたけど。
_:うるさい!って。
妹尾:そうそう。
結構な音するんだよ。
ちっこいけど、結構うるさい音がするんだよ。
まあ、こんなとこかな。
2013年8月2日