第11回新産業酵母研究会講演会
日時:平成28年5月20日(金)(14:00から)
会場:産総研:臨海副都心センター
別館(バイオ・IT融合研究棟)11階 11205会議室
〒135-0064 東京都江東区青海2-4-7 電話:03-3599-8001
プログラム
14:00~15:00
「油脂酵母Lipomyces starkeyiにおける形質転換系の確立と油脂生産メカニズム解析への応用」
高久洋暁、小黒芳史、山崎晴丈、高木正道 (新潟薬科大学 応用生命科学部)
世界的な人口増加に伴う油脂の需要増加、さらにバイオ燃料原料としての新需要が油脂資源争奪戦、価格の乱高下を引き起こしている。日本の油脂は輸入に大きく依存しており、油脂自給率の向上は急務課題である。環境保護や日本の国土を考えると広大な農地を開拓し、油糧作物の生産拡大は望ましくなく、陸上植物への依存だけでなく、幅広く油脂資源を確保しておくことが必要である。特に国土の狭い日本にあった独自の油脂資源の確保法が求められる。本研究では、その一つの方法として様々なバイオマス由来の糖を資化して細胞内に油脂を蓄積する油脂酵母による油脂生産に注目した。油脂酵母L. starkeyiは、細胞内に油脂を75%以上蓄積できるユニークな酵母であり、油脂合成・分解、蓄積という学術的及び産業的価値を有する。しかしながら、産業利用へ展開するためには、油脂合成・分解メカニズムの解明とその知見の利用による油脂高生産変異株の育種が必須である。本講演では、油脂生産メカニズム解明、さらには油脂高生産変異株育種に貢献できる遺伝子組換え系及びその応用事例について概説する。
15:00~16:00
「コエンザイムQ10の酵母による生産」
川向 誠 (島根大学生物資源科学部)
コエンザイムQ(CoQ,、ユビキノン)はエネルギー産生と抗酸化に関わることを背景に、食品サプリメントとして広く知れ渡っている。CoQ10は10単位のイソプレン側鎖を有するキノンの一種で、広く生物界に分布している。出芽酵母はCoQ6、ラットやイネはCoQ9を有するのに対して、分裂酵母(S. pombe)はCoQ10を合成することから、CoQ10生産に有用な微生物である。
CoQの生合成経路は一番解析が進んでいる出芽酵母においても、まだ完全には解明されていない[1]。9種の遺伝子がCoQの合成に関わることが判明しているが、Coq4やCoq9タンパク質の機能が不明である。酵母のCOQ遺伝子と相同性の高いヒトの遺伝子を分裂酵母内で発現させると、ほぼ全ての遺伝子が相補的に働くことから、酵母内でのCoQ合成を完全解明していくことが重要である。
分裂酵母内でCoQ10の合成を高生産させることを検討したところ、個々のCoQ合成酵素遺伝子を単独あるいは複数で発現させても生産性の上昇には結びつかなかったが、上流の経路を増強すると生産性の上昇が見られた。
[1] Kawamukai M. Biosynthesis of coenzyme Q in eukaryotes. Biosci. Biotechnol. Biochem. 80:23-33(2016)
休 憩
MINCYサロン
16:20~17:05
「多様な真核微生物約120株のドラフトゲノム情報の公開とJCMオンラインカタログの利便性向上」
遠藤 力也1),眞鍋 理一郎2),金城 幸宏1) 3),鈴 幸二1),髙島 昌子1),大熊 盛也1)
1) 国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(理研BRC-JCM)
2) 国立研究開発法人理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター機能性ゲノム解析部門(理研CLST DGT)
3) 東京工業大学大学院生命理工学研究科生体システム専攻
いわゆる次世代シーケンサーの普及により、微生物ゲノムの解読は格段に容易になった。しかし真核微生物のゲノムは原核生物に比べて解読が進んでおらず、特に非モデル生物の酵母Non-conventional yeastsでゲノム情報が整備されている種は限られている。理研BRC-JCMでは、文部科学省が主導するナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)のゲノム情報等整備プログラムの支援を受けて、酵母約80株、糸状菌約40株のドラフトゲノムの解読を実施した。これらの真核微生物株は、未利用バイオマスの活用、環境保全・浄化や物質循環、発酵食品、進化・生態等、多岐に亘る分野の研究で活用されることが期待される。また、ゲノム解読に供試したゲノムDNAも、理化学研究所バイオリソースセンター遺伝子材料開発室から公開し、菌株と併せて提供可能な状態となっている。さらに、ゲノム情報を含めた菌株の付随情報を理研BRC-JCMのHPおよびオンラインカタログ上に掲示し、多様な真核微生物株の付加価値と利便性を向上させた。本発表では以上の成果を概説し、Non-conventional yeastsとその菌株付随情報を用いた研究のさらなる発展のために今後何をすべきか、議論を深めたい。
17:05~17:50
「食品真菌検査の変遷と展望」
千葉 隆司 (東京都健康安全研究センター 微生物部)
食品の安全性を微生物学的側面から確保するには、製造、流通、販売・保管、消費の各段階での衛生管理が必要であり、これらの管理は各過程で行われる検査によって評価されます。現在、食品を対象にした微生物検査では、告示や通知に記載された方法(公定法)が利用されている場合がほとんどです。これらの検査について、我が国における物流状況や異常発見からの対応に鑑みれば、可能な限り迅速かつ簡便な微生物検出法が求められます。しかし、公定法の多くは培養検査が基本となっているため、結果を得るまでに数日、場合によっては数週間を要することがあります。
近年、分子生物学的な検出・解析手法を中心に迅速な微生物検査法が多く開発され、このような課題を解決する方法として期待されています。今回は食品のカビ・酵母検査について、これまで利用されてきた方法の変遷と共に今後の展望についても考えてみたいと思います。
17:50~18:10 総会
講演会参加費: 会員無料
非会員 一般2000円、学生1000円 (当日会員登録された方は無料)
講演会終了後、同会場において意見交換会を開催いたします(参加費:2000円)
*参加申し込みの際に、意見交換会の参加の有無も連絡いただきますよう、お願いいたします。
連絡先:農業環境技術研究所 北本宏子・産業技術総合研究所(産総研) 森田友岳
mincy-ml@ml.affrc.go.jp 電話 029-838-8355
(メールにて参加申し込みして頂きたくお願いします。)
入構登録のため〆切り2016年5月16日(月)正午厳守