第10回新産業酵母研究会講演会

第10回新産業酵母研究会講演会

日時:平成27年11月6日(金)(14:30から)

会場:産総研:臨海副都心センター 

別館(バイオ・IT融合研究棟)11階 11205会議室

〒135-0064 東京都江東区青海2-4-7 電話:03-3599-8001

プログラム

14:30~15:30

「人新世(アントロポーセン)と菌類」

細矢 剛(国立科学博物館・植物研究部)

人新世(アントロポーセンAnthropocene)は、人類が優占する新たな地質年代として最近提唱された言葉である。ヒトの存在は、地球環境に様々な影響を及ぼしてきた。大気組成の変化・温暖化・生物の大量絶滅などの問題がよく知られている。

ヒトと菌類のかかわりを見るとどうだろうか。酵母やコウジカビはヒトが”育てた”菌類としてよく知られている。また多くのカビの代謝物が利用されている。しかし、移入種や絶滅危惧種の増加などの問題もある。たとえば、南米で多くの両生類を絶滅させたカエルツボカビや、現在欧州で猛威を振るっているトネリコの立ち枯れ病などはヒトの移動に伴ったものと考えられる。多くの菌類が未知あるいは未記載とされる中で、絶滅危惧種や固有種などの保全生物学的に重要な菌類の評価は、困難を伴う。本講演では、菌学の視点から人新世の諸相を紹介し、菌類にとってのヒトの存在を考える契機としたい。

15:30~16:30

Pseudozyma属酵母のゲノム解析と最近の研究展開」

森田 友岳 (産業技術総合研究所)

担子菌類に分類されるPseudozyma 属酵母は、リパーゼやキシラナーゼ、プラスチック分解酵素など様々な酵素を分泌し、また植物油から大量の糖脂質(マンノシルエリスリトールリピッド、MEL)を生産することから、新たな産業酵母として研究が進められている。Pseudozyma属酵母は非モデル生物であるため、特に遺伝子レベルでの研究報告は少ないが、2013年にはP. antarcticaのゲノム情報が公開され、遺伝子組換えの基盤技術も整備されつつある。また、Pseudozyma属酵母のような非モデル生物に対しても、次世代シーケンサーによるde novoゲノムシーケンスやRNA-seq解析などが可能になっている。本講演では、2005年以降、MEL生産技術の高度化を目標に取り組んできた、P. antarcticaの遺伝子組換え技術やゲノム解読、遺伝子発現プロファイルの解析について紹介する。

休 憩

MINCYサロン

16:45~17:30

Lipomyces属酵母による油脂生産技術開発」

黒川 博史(ライオン(株))

脂肪酸メチルエステル(FAME)は、バイオディーゼル燃料や界面活性剤などの工業用の基幹原料として広く利用されている。現在、FAMEはパーム油、ヤシ油、菜種油などの食用油を原料としているが、世界人口増加による食料問題を背景に、工業用途には代替となる油脂資源の確保が求められている。

一方、FAMEの生産ではいずれの油脂を用いても約10%のグリセロールが副生する。バイオディーゼル燃料の生産量は年々増加していることから、今後ますます余剰グリセロールの有効利用技術の確立が求められる。

そこで我々は、発酵によりグリセロールを油脂に再変換し、工業用油脂原料として活用するスキームを考案した。キーとなる培養検討では、山梨大学が保有する油脂酵母(Lipomyces属)ライブラリーを活用して、発酵による油脂への変換を検討した。本研究は山梨大学 長沼孝文先生との共同研究の成果であり、(独) 科学技術振興機構 「研究成果最適展開プログラム A-STEPハイリスク挑戦タイプ」の委託研究として実施した。

17:30~18:15

「生物多様性条約や名古屋議定書が生物工学の研究に及ぼす影響」

川崎 浩子 (製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター)

海外の生物遺伝資源を利用する研究者にとって、大きな関心事として、生物多様性条約(CBD)における遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS)について規定した名古屋議定書の発効があるだろう。研究者の中には、本条約をよく知らずにトラブルを起こすケースがある一方、ただただ不安で海外生物資源を利用すること自体をリスクと捉えている人もいるように感じる。名古屋議定書において規定されている内容には、国際ルールにおいて守るべき内容と各国に委ねられている裁量の部分があるので、それらを理解することが必要である。本講演では、生物遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する国際ルールを理解し、生物工学の研究において注意すべき点を整理したい。その上で、生物遺伝資源のABSと国境を超える生物遺伝資源の移転を確実に実施し、研究活動をより発展させていただきたい。加えて、海外の規制情報や利用国としての法令(欧州連合規則)、海外生物遺伝資源へのアクセス方法の手続きや、生物遺伝資源センターを利用したアクセス方法についても紹介する。

講演会参加費: 会員無料

             非会員 一般2000円、学生1000円 (当日会員登録された方は無料)

講演会終了後、同会場において意見交換会を開催いたします(参加費:2000円)

*参加申し込みの際に、意見交換会の参加の有無も連絡いただきますよう、お願いいたします。

連絡先:農業環境技術研究所 北本宏子・産業技術総合研究所(産総研) 森田友岳

mincy-ml@ml.affrc.go.jp 電話 029-838-8355

(メールにて参加申し込みして頂きたくお願いします。受付〆切は11月2日正午です。)