第18回新産業酵母研究会講演会

第18回新産業酵母研究会講演会

日時:2019年11月8日(金) (14:00から)

会場:産総研:臨海副都心センター

別館(バイオ・IT総合研究棟)11階 会議室

〒135‐0064 東京都江東区青海2‐4-7 電話:03‐3599‐8001

プログラム

14:00~15:00

「C1酵母の葉面での生存戦略とメタノール感知機構」

由里本 博也(京都大学大学院農学研究科)

C1化合物であるメタノールを単一炭素源・エネルギー源として生育可能なメタノール資化性酵母(C1酵母)では、強力なメタノール誘導性プロモーターを利用した異種遺伝子発現系が開発され、異種タンパク質の高生産宿主として広く利用されている。近年、この強力なメタノール誘導性遺伝子発現の分子機構についての理解が進んできたが、特にメタノール感知からシグナル伝達に関しては未解明な点が多く残されている。一方、C1酵母は、植物から放出されるメタノールを利用して葉面で増殖・生存できるが、メタノール濃度が日周変動する生育環境に適応するためにも、メタノール感知機構は重要な細胞機能である。本講演では、C1酵母の葉面での生存戦略に関わる代謝生理機能と、メタノール感知機構とその利用に関する最近の研究成果を紹介する。

Survival strategy of C1-yeasts in the phyllosphere and methanol-sensing machinery

Hiroya Yurimoto  (Graduate School of Agriculture, Kyoto University)

15:00~16:00

「身近な水圏に生息する新奇な酵母の探索」

浦野 直人(東京海洋大学海洋環境科学部門 名誉教授・博士研究員)

演者は約25年に渡り身近な水圏(海沿岸、湖沼、河川、廃水路、水再生センター等)由来の特殊微生物を探索しバイオエネルギー変換やバイオレメディエーションへの利用研究を行ってきた。それらの中で新奇な性質を持つ酵母または酵母様微細藻が発見された例を紹介する。

1.酵母様微細藻

伊豆蓮台寺温泉の排水路から酵母様微細藻類プロトテカを単離した。プロトテカはクロレラが変異して従属栄養化し、低温下でヘテロ乳酸発酵、高温下でエタノール発酵した。温泉排水路由来RND16株は耐熱性および炭化水素資化分解能が強かった。プロトテカは18S rDNAの塩基配列が不安定であるため、進化途上生物の可能性が示唆された。

2. pH耐性酵母

群馬県・吾妻川上流は強酸性水圏で、細菌がほとんど生息せず主微生物相は酵母である。生息する耐酸性酵母は、酸性下にてアミノ酸のアミノ基を脱離してアンモニウムイオンを生成して環境を中和していた。次に関東周辺の塩基性水圏から、塩基性下では有機酸を生成して生息する耐アルカリ酵母を発見した。耐酸性酵母と耐アルカリ性酵母は属種が類似しており、広域pHで増殖するpH耐性酵母であった。

3. 耐塩性高発酵酵母

水圏に繁茂する未利用バイオマスを原料とするバイオエタノール生産では、発酵原料が保持する高塩分のストレスに耐えて高発酵できる酵母を選抜する必要がある。そこで東京湾沿岸から、耐塩性高発酵酵母の単離を試みたところ、Saccharomyces cerevisiaeとそれ以外の新奇酵母を単離した。

Survey of Novel Yeasts from Aquatic Environments in the Suburbs of Tokyo

Naoto Urano(Department of Marine Environmental Science Honorary Professor, Postdoctoral Fellow,Tokyo University of Marine Science and Technology)

休憩 (16:00~16:15)

MINCYサロン

16:15~17:00

「睡眠の質改善素材「清酒酵母」を用いた機能性表示食品の開発」

物井 則幸(ライオン(株)研究開発本部 ウェルネス研究所)

近年、多くの研究により睡眠と全身健康が密接に関わっていることが明らかになっている。本邦の睡眠問題に起因する社会的経済損失は、年15兆円と試算されており、睡眠問題を改善することの社会的意義は大きい。このような背景から、睡眠不具合の解決に向け、睡眠の質を向上する食品開発を行った。まず我々は、深い睡眠を誘導するための重要な因子であるアデノシンA2A受容体の活性化に着目し、同受容体の活性能を評価指標とした食品素材の探索をin vitroで実施した。その結果、清酒酵母GSP6が最も高い活性化能を示すことを見出した。続いて、清酒酵母GSP6のヒトにおける睡眠の質向上機能について検証した結果、深睡眠の指標である睡眠時の脳波デルタ波パワー値の上昇、起床時の尿中成長ホルモン分泌量の増加および主観評価における睡眠感の改善が認められた。本報では、清酒酵母GSP6の「睡眠の質を向上する機能性表示食品」への応用についても報告する。

Development of Sleep Improving Food Material “Japanese Sake Yeast”. 

Noriyuki Monoi(Wellness Research Laboratories, Research & Development Headquarters, LION Corporation)

17:00~17:45 

「バイオ化学品開発の光と影 -研究と事業のはざまで-」

佐野 浩(三菱ケミカル(株)高機能ポリマー企画部)

三菱ケミカルグループは、「人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくこと」を目指す”KAITEKI実現”をビジョンに掲げ、10年、20年後の社会を見据え環境負荷低減や天然資源枯渇の問題への対応策として、植物由来原料やバイオテクノロジーの知見を組合わせて開発した商品を市場に送り出してきた。振り返れば、実際には研究から事業に至る道のりで紆余曲折があり、事業化を果たせたことは実に幸運であった。本講演では、酵母に関わることを中心に、この10年余で遭遇した明暗さまざまな出来事と、これからケミカルやポリマーが進んでいく方向についての考えを、経験談を交えご紹介する。

What is the factor that leads to the business? -Chemical development by biotechnology

Hiroshi Sano(Advanced Polymers Planning Department, Mitsubishi Chemical Corporation)

講演会参加費:会員無料

非会員 一般2000円、学生1000円 (当日会員登録された方は無料)

総会終了後、同会場にて情報交換会を開催いたします(参加費2000円)。

連絡先:農研機構 北本宏子・産総研 森田友岳 mincy-ml@ml.affrc.go.jp

電話 029-838-8355(メールにて参加申し込みして頂きたくお願いします)

入構登録のため〆切り 2019 年 11月 1 日(金)正午厳守