位相空間のホモトピー論における,ある種の組み合わせ的記述を定式化したものが単体的集合と呼ばれるものである.単体的集合というのは,一言で言えば有限全順序集合と順序を保つ写像の圏から,集合の圏への半変関手である.言い換えれば,非負整数で添え字付けられた集合と,退化写像と面写像というそれぞれ次数を+1,-1変化させる写像が与えられ,それらに関して条件を満たすものと考えても良い.これらは,単体の面の張り合わせ状況を,頂点に番号付けをして記述したものである.基本的なことは【May93】や【Cur71】を見るといい.Web上では【Rie08】などや,図を交えて解説してある【Frie08】もある.
位相空間の特異ホモロジーを考える際に,特異chain complexを構成したが,その構成の中で自由加群の生成系には単体からの連続写像の集合を考えていた.これは特異単体的集合とよばれ,重要な例の一つである.一般には単体的集合からのホモロジーの構成を学び,単体的アーベル群とchain complexが同値(Dold-Kan対応)であること,そして単体的アーベル群はKan complexであり,そのホモトピー群が対応するchain complexのホモロジー群と一致することを理解すべきである【May93】.また,【DLW09】では,そのdendroidal setでのversionを考えている.Nonabelianのversionもあるらしい【Ant10】.
単体的集合と位相空間の関係で重要なのは,特異単体的集合と,その随伴関係にある幾何学的実現である.単体的集合よりも一般的に,単体的空間の実現で考えた方がいいのかもしれない【西田85】.しかし,重要な事実としては,単体的集合の幾何学的実現はCW複体になる.しかし,退化な単体が多くでてきて面倒なので,【Dus02】ではcollapsing shemeというものを考えて,非退化な単体をさらに3種類に分けて特徴づけをしている.幾何学的実現は直積を保つのは重要である.空間のjoinに対応するように単体的集合のjoinがある【EP99】.単体的集合と位相空間は,この幾何学的実現と特異単体的集合によって行き来がしやすい.例えば,ある空間でその空間の弱ホモトピー型を変えずにCW複体を構成したいときは,特異単体的集合の幾何学的実現を考えればよい.これはCW近似などと呼ばれるが,この方法以外にも【May99】にCW近似の方法が載っている.
特別な単体的集合としては,以下のようなものがある.
Kan複体【May93】,【GJ99】,【Jar】
最小複体【May93】
Quasi category【Joy08】,【Lur08】,【Tei06】
単体的集合でのホモトピー論を行うときにはKan複体を仮定することが多い.例えば,任意の空間の特異単体的集合や,単体的(アーベル)群,亜群の脈体などがある.Quasi categoryはKan複体と小圏の脈体の双方の性質を満たすものである.Lurieはこれが高次の圏としての性質を持っていると考えている.そのため,ω-categoryや∞-categoryと呼ばれることもある.
単体的集合のモデル構造は幾何学的実現をとって弱ホモトピー同値になるものを弱同値,Kanファイブレーションをファイブレーション,各次元での単射をコファイブレーションに指定したものが古典的な例としてよく知られている【Ho98】.このモデル構造ではすべての対象はコファイブラントで,Kan complexがファイブラント対象と一致する.特異単体と幾何学的実現の関手は,単体的集合と位相空間にそれぞれのQuikken型のモデル構造を考えた際に,Quillen同値になっている.Quillen関手の性質から幾何学的実現はコファイブレーションを,特異単体はファイブレーションを保つ事はすぐにわかるが,Quillenは【Qui68】で幾何学的実現がファイブレーションを保つ事も示した.
もうひとつ単体的集合のモデル構造を挙げると,ファイブラント対象がquasi categoryになる構造である.【Joy08】,【Rie08】などを見るといい.【Lur08】,【Mina08】ではそのQuasi categoryを高次の圏として考えている.Boyarchenkoのlectureも読みやすい【Boy07】.
単体的集合は単体複体と同様に(重心)細分を取る操作ができる.単体的集合でも2回重心細分を施すと,単体複体に近いもの(半順序集合の脈体)になる.また,重心細分の随伴というのも重要であり,Ex functorと呼ばれていてKan複体を作り出すのに有効である【Gui06】.
空間と同様に群作用をもつ単体的集合なども考えられている【Raf02】.これは結局,群という1つの対象から単体的集合の圏への関手と考えるべきで,それらとコンマ圏の関係は【Ste00】で小圏とも関連づけて考えられている.
単体的空間(集合)と幾何学的実現
Kan複体
単体的集合のホモトピー群