滑らかな多様体の構造を知るために,多様体上の実数値関数を考え,その臨界点の振る舞いから元の多様体の構造を調べようというのがMorse理論である.特に,関数が滑らかで,臨界点が全て非退化なときをMorse関数と呼ぶ.非退化ということは臨界点は孤立して存在していて,元の多様体がコンパクトなら臨界点は有限個しかない.臨界点の周囲での状況や,ハンドル分解といった多様体の具体的な構造を考察できるのがMorse理論の強みである.Milnorの本が有名であるが,日本語では【松本05】や【横田78】がわかりやすい.M.Guestの【Gue01】には歴史的な背景も含めて,Morse関数の話が詳しく載っている.
Morse関数の勾配ベクトル場に着目する事が多い.特に,(負の)勾配とその速度微分が一致している滑らかな曲線を勾配フローと呼ぶが,これはつまり,多様体上を勾配フローの逆向きに沿って進む曲線,つまり臨界値が減少する方へ流れる曲線である.勾配フローは定義域の開区間の両端を見ると,その像としては臨界点に近づいていく.任意の多様体上の点を取ると,常微分方程式の解と一意性からそこを通過する勾配フローが唯一存在する.このとき,ある臨界点から出発する勾配フローの像を集めてくることにより部分多様体ができる.これを非安定多様体,逆に臨界点に向かう勾配フローから得られるものを安定多様体という.これらは,開円盤と微分同相である.任意の2つの臨界点に対し,その安定多様体と非安定多様体がある種の交差性を満たすとき,Morse-Smale関数と呼ぶ.Morse理論ではこの交差性が重要になってくる事が多い.
代数的トポロジーで基本的な事柄は,Morse関数の臨界点の個数とBetti数の評価式である.これはMorse不等式と呼ばれている.また,Euler標数は臨界点の個数の交互和で求まる.曲面上のMorse関数のホモトピー次元も考えられている【Mak07】.
Morse関数からはMorse複体というchain complexが作れる.これは,k-次元には,指数kの臨界点の集合から生成される自由加群をおき,微分には勾配フローを用いる【深谷95】.Morse-Bott関数からホモロジーを考える事もできるらしい【BH06】.無論,元の多様体の特異ホモロジーとMorseホモロジーは一致するらしい.
Cohen, Jones, SegalらはMorse関数に対し,ある種の位相圏を対応させ,その分類空間がもとの多様体とホモトピー同値になるものを構成している.Morse-Smale条件を満たすものならば,より強く同相までいえるということも述べられている.
Morse関数
Morse理論