我々が数学で扱うのは例えば,集合であり,位相空間であり,群であり,加群であり,chain complexであり…と多岐にわたる.共通しているのは,それらの間の関係を表すものとして写像(連続,準同型等を含めて)があり,それによって比較が可能となる.
こうした対象と関係が与えられた1つの枠組みを圏とよび,さらにその圏同士を関連づけるのが関手である.今まで議論してきたホモロジー群,ホモトピー群はいづれも空間に対し群を対応させ,連続写像からそれらの群の間の準同型を誘導するものであった.これらは位相空間の圏から群の圏への関手と考えられる.圏と関手の代表的な教科書はMac-Laneの「Categories for the working mathematician」【Ma98】である.大体の事柄はこの一冊でまかなえ,最近では日本語訳版【Ma05】もある.
2つの圏の間の関手によって,圏を「同じ」と考えたい場合,どのような見方があるだろうか.ひとつには同型という概念がある.つまり,逆向きの関手が存在して,合成したら恒等関手となるものである.しかし,これよりも弱い同値という概念のほうがホモトピー論ではよく登場する.また,2つの関手に対して,随伴という概念も重要である.随伴は(余)単位射という,自然変換のモナドの性質としても特徴づけられる【Ell05】.例えば位相空間と単体複体の圏において、特異単体の関手と幾何学的実現の関手が随伴になっているが,より基本的なものとして忘却関手と自由関手の関係がある.例えば,アーベル群から集合への忘却関手の左随伴はその集合から生成される自由アーベル群を対応させる関手であるし,位相空間から集合への忘却関手の左随伴は離散位相を入れた空間を対応させるもの,逆に右随伴は密着位相を入れる関手である.随伴の例は【Mac98】に豊富にある.
随伴や(余)極限,逆射など圏論の基礎には一意的な射の存在がある.その一意性を考慮しない状況はホモトピー論の議論に近い【LR10】.
圏・関手・自然返還
圏の同値と関手の随伴