組合せ論的な手法を用いたホモトピー論というのは,ここでは有限単体複体のホモトピー論に代表される連続写像に依存しない離散的操作に基づいた空間の変形である.もっと有名なのは,Whiteheadによる単純ホモトピー論だろう.これは,単体複体において,単体σが単体τを面に持つ唯一の単体だった場合,このσとτを取り除く操作が,ホモトピー型を変えないという事実に着目したものである.このような単体と面の組を逐次取り除くことにより,ホモトピー型を変えずに単体を小さく押し潰すことができる.この操作にも基づいたホモトピー論は単純ホモトピー論と呼ばれる.単純ホモトピーで同値な単体複体同士は当然ホモトピー同値であるが,逆は成り立たない.この逆の命題の成立を阻む障害はWhitehead torsionと呼ばれる基本群の元である.単連結な空間同士ならば,ホモトピー同値と単純ホモトピー同値は同値といえる.
単体複体のホモトピー論では,単体写像のcontiguous relationに基づいた強ホモトピー論も重要である.これは,上記の単純ホモトピー論の特別な場合であるが,単体の組を除去する単純ホモトピー論に対し,頂点とそれに付随する単体をすべて一気に除去してしまうのが強ホモトピー論である.強ホモトピーによる単体の押し潰しは必ずこれ以上潰せない最小モデルが同型を除いて一意的に存在する.
通常の連続なホモトピーとの関連で欠かせないのが,「単体近似定理」である.大雑把に言うと,すべての連続写像は単体写像にcontiguousを除いて一意的に近似できるというものである.この定理のおかげで,位相空間の連続的なホモトピー論は単体複体の組合せ論的な操作で近似できる場合が多い.