D. Quillenは位相空間以外の圏においてもホモトピー論を展開する上で,モデル構造というものを【Qui67】で提唱した.これは圏に3種類のクラスが指定され,様々な条件を満たすものである.Quillenのオリジナルの論文は現在の定義と少し異なる部分があるので,入門的な論文としてDwyerとSpalinskiによる【DS95】がある.(余)極限の話から始まって証明も丁寧で読みやすい.より一般的で幅広い内容を扱った教科書は【Hov98】や【Hir02】がある.モデル圏において一番の胆となるのは持ち上げ公理と分解公理である.現在ではfunctorial factorizationで分解公理をよりスマートに述べ,さらに持ち上げ性質とも絡めた(weak)factorization systemの文脈でモデル圏の言葉は整備されている.
もちろん,モデル圏の一番の例は位相空間である.弱(ホモトピー)同値, コファイブレーション,ファイブレーションなどの単語は位相空間ではなじみが深いが,この3種類だけでホモトピー論を展開できるというのがモデル圏の特徴である.モデル圏を理解するには位相空間のホモトピー論,そしてホモロジー代数や,単体的集合のホモトピー論に触れていると,その共通性が見えてくる.
一般の小圏からモデル圏を構成する方法が【Dug00】で述べられている.その小圏から一般のモデル圏への関手を一意的に分解するという普遍性をもつ.具体的にはその小圏上のpresheafの圏を考えるようであるが.
Quillenのモデル圏の定義以外にも,微妙に違うThomasonモデル圏という定義もある【We01】.Quillenモデル圏ならば,Thomasonモデル圏ではあるのだが,逆が成り立たない例として,例えばchain complexの圏において弱同値を擬同値,ファイブレーションを単射的を持つ全射,コファイブレーションを射影的な余核をもつ単射と指定する例があるらしい.
モデル圏の定義と基本性質