ホモロジー群の場合,空間の直和(ウェッジ和)はホモロジー群の直和として分解してくれる.では空間の直積の場合はどうだろうか.同様にしてホモロジー群の直積に分解してくれれば話は早いがそうも行かない.群の直和と直積は,有限個の場合には同じであり,位相空間の直和と直積のような関係性にはない.
ここでは加群のテンソル積という概念を考え,直積のホモロジー群がホモロジー群のテンソル積に分解されるための条件を考察する.一般的には,ホモロジー群にねじれが生じない場合には,直積のホモロジー群はホモロジー群のテンソル積で記述できる.
加群のテンソル積に関しては,双線形形式からの一意性を用いて定義する方法が本質をついているが,抽象的でわかりづらいかもしれない.これに関しては【岩佐02】を見るといい.空間の直積の特異鎖複体と,それぞれの複体のテンソル積を比べるための写像がAlexander-Whitney写像であり,それがホモトピー同値というのがEilenberg-Zilberの結果である.
さらに複体のテンソル積と,ホモロジー群のテンソル積について言及したのがKunnethの公式である.これらをまとめると,ねじれのない空間の直積のホモロジー群は,それぞれのホモロジー群のテンソル積に分解できる。
通常これら普遍係数定理,およびKunnethの公式は一般の加群を係数に持つホモロジー群で考えるのが一般的である. ここでは整数環という性質の良い係数で考えているので, 普遍係数定理やKunnethの公式も安易な形になっている. 【中岡99】 ではこのような整数係数に限定された議論がされている.もっと一般の係数での話を知りたいのなら,【May99】などが良いだろう。Kunnethの公式によりトーラスのホモロジー群や,より一般に積球面のホモロジー群などは簡単に求める事ができる.
テンソル積
積空間の特異単体
積空間のホモロジー