ホモロジー群の構成方法は多くあるが,位相空間の情報から鎖複体(chain complex)と呼ばれる代数対象を作り,そこからホモロジー群を定義するのが一般的である.ここでは,まず鎖複体から次数付きのアーベル群(R加群)としてホモロジー群を導入する方法を紹介する.鎖複体とは次数付き加群と準同型の列で2回合成したら0写像になるものである.加群全体を(直和して)考え,次数-1の自己準同型で2回合成して0と定義してある本も多い.これは境界作用素と呼ばれたり単に微分とよばれる.また,このことから鎖複体のことをDGM(Differential Graded Module)と呼ぶこともある.
似た概念に「完全列」と言うものがある.完全列は鎖複体の特別な場合で,その差を測るのがホモロジーと考えてよい.鎖複体は純粋に代数の話である.本では【加藤88】が丁寧であり,【中岡99】は余鎖複体とも並行して書かれている.鎖複体の圏では様々な操作ができる.例えば,次数がついていることから,次数をシフトするという操作があり,これが三角圏として構造のシフト関手になるし,擬同型,鎖ホモトピー同値を弱同値としたモデル構造も入る.鎖複体におけるホモトピー引き戻し,押し出しについては【Won82】にある.
鎖複体は2回合成して0となる加群列だが,n回合成して0となる加群列をn-複体と【Kap96】でよばれている.
鎖複体からホモロジー群が定義されるので,次は位相空間が与えられたときに,そこから鎖複体を構成する方法を考える.位相空間の特異鎖複体は,「空間のn単体(三角形)」から生成される自由アーベル群を考え,その境界を考えることにより境界準同型が定まる.このようにして構成された特異鎖複体のホモロジー群が位相空間の特異ホモロジーと呼ばれる.このことから位相空間のホモロジー群は,よく空間の「穴」を生成元とした群あるいはベクトル空間と紹介されることがある.整数を係数としたホモロジー群なら【加藤88】か【中岡99】が読みやすい.
問題は「空間のn単体」とは何なのかということである.もともと三角形に分割されている単体複体ならばその意味も分かるが,一般的な位相空間に適用しようとすると難しい.ただホモロジーの情報は単体分割には依存しないということを踏まえれば,特定の単体分割にこだわる必要はない.特異ホモロジーはある種,考えうるすべての単体を取るというアイデアである.単体を連続写像として扱えば,単体分割に縛られない.
特異ホモロジーは一般的な位相空間に適用できる幅広い構成法であるが計算は容易ではない.そのための有効な手法が色々開発されている.
鎖複体(chain complex)
特異ホモロジー