ファイブレーション(fibration)をさらに弱めた準ファイバー空間(quasi-fibration)という概念がある.ファイブレーションやファイバー束の広域的な解釈が「押しつぶす」のニュアンスなら,その枠組みに一番適しているのは準ファイバー空間である.例えば,L字型の空間を底辺に押し潰す写像は準ファイバー空間であるが,ファイブレーションではない.
単純に言えば,準ファイバー空間はファイブレーションの弱同値バージョンである。また,ホモロジー同値バージョンがhomology fibrationと呼ばれ,【MS75】などでtopological group completionなんかに用いられる.このようなファイブレーションの亜種の性質を調べているのは【Vok10】である。
もちろん別の定義もある.ファイバー束が局所自明化、ファイブレーションがホモトピー持ち上げ性質を核としたもので,ここからさらに情報を抽出するとしたら一体何を残すべきか.準ファイバー空間はホモトピー群の完全列に着目したものである.F → E → B からホモトピー群の長い完全列が誘導される,あるいはホモトピーファイバーと純粋なファイバーが自然に弱同値になると言い換えることもである.重要な性質はAllen Hatcherの「Algebraic topology」の後半、Dold-Thomの定理の周辺に書かれている.
ただ,一つ注意したいのは準ファイバー空間はpullbackで保存されない.Pullbackが利用できないと,準ファイバー空間から新たな準ファイバー空間を作る方法というのは限られてしまうように思えるが,有名なものの中ではDold-Thomの構成法がある.Topological group(monoid)から,主束(準ファイバー空間)を構成するのに用いられる.ファイバー束なら「ファイバー束とホモトピー」,topological monoidに関しては【西田85】に詳細が載っている.
Simplicial setにおいてKan fibrationの実現がSerre fibrationであったように,simplicial spaceにおける単体写像の実現がSerre fibrationあるいは,準ファイバー空間になるのかというのは自然な疑問である.Mayは【May72】の中でsimplicial Hurewiz fibrationというものを提示している.
Dold-Lashoffはある条件を満たすH-空間をファイバーに持つような準ファイバー空間で全空間が弱可縮なものを構成している.これはMilnorによる空間のjoinを用いたtopological groupをファイバーにもつ普遍束の構成と似ている.これを構成するなかで,連結なH-空間に対して、X → X*X → SX という準ファイバー空間ができる。これを球面のうちH-空間であるS^{d-1},ただしd=1,2,4,8に適用すれば,有名なHopf fibrationが誕生する.これは球面のホモトピー群を求める際の有力なツールになる.