(余)極限の概念は抽象的ではあるが,数学の議論には欠かせない.直積や直和,押し出しや引き戻し,(コ)イコライザーなどの基本的な概念はすべて圏における図式の(余)極限として定義される.また,トポロジーでは無限次元のCW複体において,骨格フィルターの余極限として元のCW複体を考える場面は多い.
一般の圏における(余)極限は,圏における図式(つまり,ある小圏からの関手)に対して定義され,射(あるいは自然変換射)の一意性により定式化されている.任意の小圏からの関手に対して(余)極限が存在する場合,(余)極限で閉じている,あるいは(余)完備と呼ばれる.公理的なホモトピー論の枠組みであるモデル圏も,完備かつ余完備な圏において議論されるため,ホモトピー論においても(余)極限は重要な役割を果たす.モデル圏の文献である【DS95】の序論では(余)極限について扱っていてわかりやすい.日本語だと【Ma05】か【西田85】などを見るとよい.
極限と余極限の関係は,もちろん双対という言葉でくくってしまうのが一番明快だが,これらは関手圏C^Dから元の圏Cへの関手として捉えることができる.逆に圏Cから関手圏C^Dへは,定値関手を与える関手が考えられるが,余極限はその左随伴,極限はその右随伴である.
一般の圏での話は抽象的なので,(余)極限の理解には具体例を多く知っておくのが良いだろう.集合や位相空間はもちろんのこと,代数的な群や加群,代数などの極限の具体的構成を知っておくとイメージがわきやすい.加群などの場合には,有限ならば直和も直積も同じなのでわかりやすい.一般的に,直和と直積が同じになる条件を考えている人がいる【Iov06】.