位相空間Xから自分自身への連続写像に対し,f(x)=x となる点を不動点と呼ぶ.不動点に関する研究は古くからおこなわれていて,不動点を持つのか,また持つとしたらどれぐらい持つのか,具体的な不動点を求めるアルゴリズム,連続写像の変形で不動点はどう変化するかなど様々なテーマが考えられてきた.
このうち,最も基本的な問題は,任意の連続写像が不動点を持つ(不動点性質とばれる)ような位相空間の特徴づけである.例えば,球体やあるいは単体はこの不動点性質を持つというのが,Brouwerの不動点定理である.より一般にはコンパクトな凸空間がこの性質を満たす.Lefschetzはホモロジーを用いた写像のLefschetz数(トレース)によって,不動点の存在を探る方法を提唱した.この結果を用いると,有理ホモロジー群が自明であるようなコンパクトな多面体(ENR)は不動点性質を持つことがわかる.
組合せ論的には,束(ラティス)に対するTarskiの不動点定理が有名である.完備束においては,すべての順序を保つ写像が不動点を持つというのが,Tarskiの不動点定理である.完備という条件が重要であり,束が不動点性質を持つ必要十分条件が完備であることらしい.
特に経済学の分野への応用として,角谷の不動点定理が有名である.これは,空間からの部分集合への対応(multi-valued map)に対する不動点定理であるが,経済学における(ナッシュ)均衡,安定マッチング,最適反応戦略など合理的選択の概念が不動点で説明できる.
不動点定理