評価の高いコーヒーとは

コーヒーの味の評価

カッピングとフレバーホイール

おいしいコーヒーとはどんなコーヒーか? それは人それぞれだし,それでいいはずなのですが,コーヒーで商売されている方々はそれでは済まされません。風味の特徴をしっかり捉え,それを言葉で表現して伝えないと,納得した取引はできないし価格付けもできません。

風味の捉え方として,コーヒーの場合はカッピングというのをやるようです。業者さんたちがたくさんのサンプルについてドリップして味を確かめるのはたいへんなので,挽いた豆をカップに入れて,お湯を注いで,スプーンですくって味を確認するようです。細かい作法があるようですが,そのあたりは他の方の解説を参照してください。

カッピングの結果はカッピングフォームという採点表に記入します。Cup of Excellence のカッピングフォームは,カップのきれいさ,甘味,酸味,口当たり,フレバー,後味,バランス,全体評価の8つの項目を0~8点で採点し,8× 8の64点に定数 36 を足して100点満点で採点します。ただし,欠点があると,欠点の強度(最大3)に欠点があったカップの数(最大4)にさらに4を掛けた値が合計点から差し引かれます。(2つのカップに強い欠点があったら3×2×4=24点減点です。Cup of Excellence は国内の審査員による事前選好から始まる3回戦のカッピングで86点以上獲得したものだけが参加できます.しかも参加数が多い場合はトップ40位以内のものに限られます.そして,本選では,国際審査員の3回のカッピングにより,上位30,上位10,最終スコアと順位が決定されます.(COE Rules & Protocols

Cup of Excellence のカッピングフォームをそのまま下に貼り付けたかったですが,著作権がうるさそうなので,簡略化したものを載せておきます。正確には本物を見てください。

このカッピングスコアをみればどの程度高い評価の豆かを判断することができます。ただし,コーヒーの風味は多様で,同じ86点の豆でも全く傾向の異なるものもあります。その場合,どんな風味の豆なのか,言葉で表す必要があります。

風味を言葉で表すのはなかなか難しいのですが,アメリカスペシャルティ協会(SCAA,現SCA)が提唱したCoffee Taster's Flavor Wheel が業界標準となっているようです。

1995年版 SCA フレバーホイール

右側のWheel はTaste(味)とAloma(香り)に分かれて,Taste(味)の方が,Sour(酸味),Sweet(酸味),Salt(塩味),Bitter(苦味)に分かれているようです。Aloma(香り)の方は,Enzymatic(酵素関連の香り?),Sugar Browning(糖の褐化,カラメル化反応関連の香りのことか?),Dry Distillation(分解蒸留,いわゆる熱分解反応),難しい表現ですね。

左側のWheelには,土臭さとか,獣臭とか,焦げとか,欠点と言えるような表現が並んでいます。

なんというか,コーヒーの風味を直接表現するというよりも,どちらかと言うと焙煎士寄りの表現のような気がします。このSCAのフレバーホイールは,2016年に新しいものに改訂されました。もうちょっとコーヒーの風味寄りに改訂されていますが,これはこれで,いまひとつ使い勝手がよくないという意見もあるようです。風味を共通言語で表現するのは難しいですね。

2016年版 SCA フレバーホイール

いずれにしても,これらは国際的な共通言語で取引されるお商売の方々の表現であって,さらにこれを日本語に訳すとするとまたそれも難しいです。直訳しても日本人のイメージにそのまま落ちるとは限らないでしょうしね。旦部(2016)によると,日本人がよく使う「香ばしい」という表現は英語にはないそうで,Bitterという表現も日本語の「苦い」よりもかなりネガティブなイメージがあり使いたがらないとか。日本コーヒー協会が日本語のコーヒーテイスティングの評価用語を提案しています。

CoEのカッピング評価

それでどんな風味のコーヒーが高く評価されているかが気になるところです。Cup of Excellence は出品された豆について,カッピングのスコアだけでなく,ロットごとの詳細情報と,オークションの結果を公表してくれています.

例えば,2022年のエルサルバドルのCoEで91.82の高得点を取り1位となった El Conacaste 農園から出品された豆については,その農園の標高や認証の有無,出品された豆の品種,調製の情報とともに,カッピングの点数と以下のような詳細情報が掲載されています.

Overall

Juicy, bright, balanced, smooth silky tropcial fruits, Sweet, Floral, delicate, unique, exotic but balanced, clear, Perfume, Peach, Sweet, Floral, Exotic

Aroma / Flavor

Bergamott, sweet lemon tea, floral, jasmine,papaya, Violet jam, Lavender, Prune, blueberries, Rose, tropical fruit, citrus, caramel, sugarcane, peach, vanilla, sugarcane, Lemon grass, whitegrape, lychee, mango,nectarine,plum, sweet orange, butter,red apple, Passion fruit, Coffee blossom

Acidity

bright, citric, malic, complex, pointed, structured, transparent, refined, structured, lemon lime

このデータを使えば,どんなコーヒーが人気があるかを統計的に測ることが可能で,実際に測った人が何人かいます。

その一番新しい推定の試みは,Traore et al (2018) のようです。2005年から2015年の11年間のCoEのカッピングとオークションの結果のデータを用いて,評価ノートに記載されたどんな特性がカッピングのスコアを左右するか,また,オークションの落札価格に影響するかを推定しました.

推定の結果は次の図です.

ブラジルブルボンウォッシュトで,風味等については何も記載されていない評価ゼロのロットを基準としています.CoEに出品された豆でそんなものは無いはずなのですが,計算上,それをプレーンなものと考えて,それにいろいろな属性の評価が加わって評点されると考えるわけです.例えば,Traore らの計算によると,この基準となる豆はスコアがほぼ80点です.実際には,そんな豆は出品されていません。なぜなら,CoEに出られるのは86点以上だけですから。これに「Furuity」の評価が加わっているロットは,3.19ポイント評価が高くなり,83.19ポイントとなる...という具合です.

評価に幅があるのは,統計的なばらつきがあるので,本当の評価はこれだとは言えないけれど,90%の確率で本当の評価をその範囲に含むと理解してください。色が変わっているところが期待値で,この範囲の平均値ぐらいに思って結構です.期待値は,縦軸の横に数値として示しています.

CoEカッピングの規定要因(2005~2015年)

出所:Traore et al (2018)

注:ブラジル・ブルボンのウォッシュトを基準としたCoEカッピング評価スコアを被説明変数とした切断回帰の結果.定数項は78.89.審査員(バイヤー)の出身国および年も説明変数に入っているが,上図からは省いている.

フルーティさでカッピング高評価

推定の結果は以下の通りです.

風味・質感・口当たり

  • 風味で評価を最も左右するのはFruity(フルーティ,果実のような香り)かどうか。Fruityであると評価された豆は,そうでない豆に比べてスコアが3点ほど高くなっています。

  • 続いて,Floral(フローラル,花のような香り),Sour acid(酸っぱさ),Sweet(甘さ」)が続きます。それぞれ各1点というところでです。

  • 次が,Juicy mouthfeel。ジューシーな口当たりということでしょうか。これで0.7点

  • Green/Vegetative。どちらも生焼け,焙煎不足による青臭さ的なイメージですが,ここではそうではなく,新しいACAフレバーホイールに分類されている干し草やハーブ,生鮮野菜といったポジティブは感じの風味なんだと思います。これも0.7点

  • Clean and clear.雑味がなく,豆の個性がはっきり出ていることだと思います.これが0.6点

  • Transparent cup. 透明性ということで,色がついていないという訳ではなく,透き通っているということかと思います.これも約0.6点

  • 以下,Spices(スパイス),Smooth mouthfeel(なめらかな口当たり),Buttery mouthfeel(バターのような口当たり),Balance cup(バランスの良さ),Long aftertaste(長い余韻)と続き,0.5点0.3点が付きます.

Rainforest Alianceの高地栽培パカマラのカッピング評価が高い

調製

基準のウォッシュト(Wet processing)に対して,ナチュラル(Dry processing)の評価が特に高いというわけではありません.その他(ほとんどがセミウォッシュトと思われます)もお同じようなものです。

品種

品種としては,ブルボンに対してパカマラの評価が1.3点ほど高いです.あとは微妙です.

標高

論文では,標高が1m高くなるに応じてスコアも0.29点高くなるとしていますが,これだと標高1200mでとんでもないスコアになり,軽く100点満点を超えてしまいます.おそらく,単位を修正しないといけないなど,何かの間違いかと思います.(要検討)

認証

Organic認証ははっきりとした高評価にはつながっていないようです.ただし,Rainforest Aliance認証1.5点ほどの高評価となっています.

なお,CoEのカッピングはブラインドで行われます.調製の方法も,品種も,標高も,認証もカッパー(審査員)には知らされていません.つまり,環境によいと言われるRainforest Aliance認証の農園で栽培された豆は,認証されていることを知らされていなくても審査員は品質が高いと評価したことになります.

ブラジルのカッピング評価は高い

国別

国別では,いずれの国もマイナス評価となっています.基準となったブラジルの方が,比べられたその他の国よりも0.8~2点ほど評価が高いということです.

ただし,CoEは国ごとに開催されますので,出品された豆がどこの国の豆かは自明で,これは審査員も知っています.ブラインド情報ではありません.ブラジルのレベルが高いのか,ブラジルでCoEを開催すると評価が高めに出るのか,判別はできません.しかし,審査はカッピングのプロである国際審査員によって行われるので,おそらく前者なんだろうと思います.

ブラジル以外の国間では,期待値としてはニカラグアが高く,メキシコ,エルサルバドル,ボリビアと続きますが,もっともも低いブルンジとの比較でも,明確な優劣は確認できません.

CoEオークションの結果

Traore et al (2018) はカッピング評価の規定要因だけでなく,同時に行われるCoEオークションの結果を左右する規定要因も推定しています.

CoEオークション結果の規定要因(2005~2015年)

出所:Traore et al (2018)

注:ブラジル・ブルボンのウォッシュトを基準としたCoEオークションの結果(US$/lb.の対数値)を被説明変数とした切断回帰の結果.定数項は1.6838.バイヤーの出身国および年も説明変数に入っているが,上図からは省いている.

被説明変数に,オークション価格(US$/lb.)の対数値がとられているので結果の解釈はややしにくいです。推定した期間のオークションの最低額が12US$/lbで最高額が80.2US$/lb.でした(2010年物価指数でデフレート).。これを対数にすると2.48~4.38となります。

説明変数は,Altitide(標高)とLN(lot size)(ロットサイズの対数値)以外はブラジル・ブルボンのウォッシュトを基準とした0,1のダミー変数です。

カッピング評価上位の豆は高値落札

コンペティションランキング

CoEコンペティションで各国3位までに評価された豆は,極端に高い価格で落札されています。1位というだけで対数価格が1.47高くなります。...と言われてもピンとこないですね.対数値はどこを基準とするかで値が変わってしまうので,オークションの最低価格12US$/lb.の豆を基準として考えましょう.1位となった豆が,この最低価格の豆とその他は全く同じだったとしたら...,つまり最低価格の豆が1位となったら(そんなことはないかもしれませんが),これに+40.2US$/lb.が加わって52.2US$/lb.が付けられることを意味します。これでなんとなくイメージできますかね.以下同様に評価します.

2位だったら,対数価格が0.92なので,最低価格12US$/lb.で40.0US$/lb.3位だったら35.2US$/lb.,4位だったら32.5US$/lb.で落札される計算となります。

小ロットの豆が高落札

ロットサイズ

推定期間のオークションでは,70kg bagで 8~145俵の様々なロットサイズの出品があったようですが,ロットサイズが少ない方が高落札されています。説明変数としてはロットサイズだけ対数表記なので,その係数はパーセント評価ができます。つまり,ロットサイズが100%大きいと(ロットサイズが2倍になると,ということですね),落札価格は56%下がるようです。

CoEは,世界のコーヒー豆の取引量から比べたら大海の一滴です。確かに驚くほど高いの落札価格が付けられますが,それはあくまで話題性を伴う希少性によるものです。特定の農園のロットがCoEで最高値で落札されたからといって,全てのロットがその値段で売れるというわけではないようです。それでも,通常のコモディティコーヒーの相場が高騰した時でもだいたい2US$/lb.前後であるのに比べると,オークションは最低価格でも12US$/lb.なので十分に高値と言えば高値なのですが)

いずれにせよ,推定としては,このCoEのお祭り的な値付けを,このカッピングのランキングとロットの小ささで差し引いておけば,本当に欲しい品質属性の評価はある程度適正に測れることになります。

やはりFruityな豆は高い

風味・質感・口当たり

カッピングの評価同様,Fruity(果実味)が評価された豆は対数価格が0.359高くなります。これは,最低価格12US$/lb.の豆にこれが加わったことで+5.2US$/lb.の17.2US$/lb.で落札されることを意味します。

続いて,Sweet (甘味)。上と同様に換算すると+1.3US$/lb.の13.3US$/lb.Floral(花のような香り)が13.1US$/lb.Transparent(透明性)が13.1US$/lb.Creamy bodyが(クリーミーな質感)13.0US$/lb.で,いずれも+1US$/lb.程度の加算です。

さらに,Round body(丸い質感)が12.8US$/lb.Sour acid (酸味),Spices(スパイシーさ),Smooth mouthfeel(なめらかな口当たり),Balance(バランス)がいずれも12.7US$/lb.で,+0.8~0.7US$/lb.

Fruityを除くと高く評価されている風味等が,カッピングのスコアと微妙に異なっています。カッピングは個々の風味等を個別に評価して合計します。単純に足し算してしまうと,例えばフレバー重視のバイヤーの評価とは総合評価が異なってくる訳です。ですから,市場のニーズからすると,こちらの方が風味等のそれぞれの要素を的確に捉えているとみることもできます。

セミウォッシュトが高値

調製

値付けにおいてもウォッシュト(Wet processing)に対するナチュラル(Dry processing)の優位性は確認できないようです。しかし,Other processingは有意に高い値付けとなっています。上と同様,その他の属性が最低価格(12US$/lb.)の豆と同等である場合,Other processingだと+1.5US$/lb.の13.5US$/lb.と期待されます。Other processingは,そのほとんどがセミウォッシュト(半水洗式)ということでしょう。ただし,セミウォッシュトは,その方法が多彩です。水もあまり使わなくて環境にもやさしいし,ナチュラルよりも選別がやりやすいし,ミューシレージをどの程度残すか等で豆の個性を出しやすいし,時代はセミウォッシュトなのでしょうか。

他にもスマトラ式というのもあるようですが,これは少ないかと思います。

パカマラとカツーラが高値

品種

パカマラはコンペティションでも高評価でしたが,オークションも高値がついています。上記と同じく最低価格12S$/lb.を基準とすると,+1.6US$/lb.13.6US$/lb.。他には,カツーラが+1.1US$/lb.の13.1US$/lb.です。

コンペティションでは,品種名は覆面でした。ですから,純粋に風味等だけで評価されていましたが,オークションではこれらは明記されます。なので,オークションには品種のブランド評価が加わっていることになります。ということは,パカマラは品質相応にオークションで値付けされていますが,品質では他の品種と大差なかったカツーラは,品質だけから言うとやや割高に評価されているということになります。

グアテマラとエルサルバドルは割高?

CoEオークションでの国別のカッピング評価は,ブラジルがダントツに高く,その他の国はどっこいどっこいでした。しかし値付けとなると,グアテマラとエルサルバドルがブラジルを有意に上回ります。最低価格12US$/lb.を基準とすると,グアテマラが+3.4US$/lb.の15.4US$/lb.エルサルバドルが+2.2US$/lb.の14.2US$/lb.いう計算になります。

ブルンジとルワンダを除く他の国もブラジルと同じかやや高い傾向にあり,ブラジルは品質評価からするとCoEオークションではお得感があるようです。

オーガニックは強い?

かつては少なかったCoE出品豆のオーガニック認証も,この推定期間には全ロットの16.4%にまで増えました。これに対して,オークションでは高値が付けられ,最低価格12US$/lb.基準で+1.9US$/lb.の13.9US$/lbの値付けの計算となります。オーガニックかどうかは味とは直接関係がないので,これはこれでよいのでしょう。

ところが一方で,Rainforest alliance認証については,推定期間全体で10.6%にまで割合が増えているのに,有意に高い値付けは確認できませんでした。カッピングではブラインドであるにも関わらず,高い評価が出ているので,もう少し認証数が増えれば推定結果が安定して高い値付けが確認できるのか,それとも,そもそもRainfrest allianceでは市場評価につながらないのか,世はSDGsで動き出して,評価は変わりつつあるのか,その後の動きを確認する必要がありそうです。


▼引用文献

Traore, T. M., Wilson, N. L., & Fields, D. (2018). What explains specialty coffee quality scores and prices: A case study from the cup of excellence program. Journal of Agricultural and Applied Economics, 50(3), 349-368.

Wilson, A. P., & Wilson, N. L. (2014). The economics of quality in the specialty coffee industry: insights from the Cup of Excellence auction programs. Agricultural Economics, 45(S1), 91-105.

旦部幸博(2016)コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス) 新書, 講談社