三原麗珠; 経済分析; 2008年度

シラバス

経済分析 (Economic Analysis)

香川大学大学院地域マネジメント研究科 2008 年度

分析基礎科目; 2単位; 後期後半 開講取り消し

三原麗珠

市場を分析する科学である〈ミクロ経済学〉をあつかう.しばしば「マクロ経済学は全体を分析し,ミクロ経済学は個々の主体を分析する」という言い方がされる.より的確には「古いマクロ経済学は個々の主体の分析をスキップしたうえで全体を分析する」「ミクロ経済学は個々の主体の分析もするが,より重要なことには,個々の主体の分析に基づいたうえで市場という全体を分析する」と言うべきだろう.社会はそれじたい意思を持つわけではないので,社会のなかで実際に選択 (行動) を行う単位は〈社会〉ではなく〈個人〉である.ミクロ経済学やゲーム理論に代表される〈経済理論〉は,個人の選択にまでさかのぼって現象を説明しようとする,確固とした基礎付けを持つ社会理論である.

経済理論に特徴的なのは,ミクロレベルでの仮定である〈個人の合理的選択〉(個人は目的を持ちその目的を達成するのに最適な方法を選ぶ,という仮定) から出発する方法論である.この方法はきわめて強力であり,(マクロ経済学・公共経済学・産業組織論・法と経済学・貨幣経済学・組織と制度の経済学など) あらゆる応用分野が,経済理論を基礎として再構築 (あるいは新たに構築) されつつある.また,政治学や社会学などの周辺分野にも大きな影響を与えている.

ミクロ経済学が個人レベルの分析を基礎にするということは,家計やビジネスの「現場」に近い視点を持つということでもある (ただし現場特有の泥臭い具体性は削ぎ落としたうえで).分析のための仮定である〈個人の合理的選択〉をそのまま規範として採用するべきではないが,現場の意思決定のためのヒントになる概念は多い (補完財,限界費用,操業停止点,限界収入,差別化,逆選択,モラルハザード,シグナリングなど).正確に知っておけば政策担当者にとって役立つ概念も多い (完全競争市場,余剰,効率性,外部効果,公共財,ただ乗りなど).後者はビジネスの現場に直接は役立たないかもしれないが,政策の意図を理解して対策を考えるために参考になるだろう.

用語をかなり列挙したので,それらを覚えさえすればいいと思ったひともいるかもしれない.だが,そのていどのことならネットを検索すれば済むので,なにも大学でやる意味はない.(現実にはそういう科目が大学には溢れおり,それらを受講しても忘れてしまえばなにも残らない.どの科目かは言わないことにする.個々の受講者の学習能力にもよるので.) この科目では,大学で受講でもしなければ実行する機会がなかったであろう基礎的訓練を重視する.そのため,簡単な数学をもちいて経済理論の論理構造と意味を明らかにしていく.あるていどエクササイズをこなしつつ (単なる知識とか断片としてでなく) 論理的・体系的に学ぶことなくしては,いくら経済理論を学んでも自らの問題解決に役立つような思考力は体得できないことを理解して欲しい.

前提科目・関連科目

多和田の 1.3 節に載っている程度の微分にかんする知識を前提とする.高校レベルの微積分をやったことがあるならば数十分から数時間でマスターできるだろう.不安があるばあいは「微分積分と線形代数」の該当部分を聴講しておくといい.関連科目は多い.「ゲーム理論」はこの科目同様に経済学の基礎である.その他「費用便益分析」「地域経済分析」「都市開発論」「資源配分の公平」「配分ルールと厚生」「オペレーションズ・リサーチ」などが関連する.

授業の目的・達成目標

    • 市場の働きを理解する.(経営学のように個々の企業を見ていても「神の見えざる手」の導く先は見えない.それが見えるようになるのがミクロ経済学だ!)

    • 社会現象を分析する方法 (現実から本質的な要素を取り出してモデルを作り,そのモデルから演繹的に導かれる結論によって現実を説明しようとする科学的方法など) を身につける.

    • 政策担当者や経営者向けに書かれた,ミクロ経済学にもとづく文献を正しく理解して利用できるようになる.

講義の進め方・成績評価

テキストに沿って講義形式ですすめる.学生の理解しにくい部分を重点的に取り上げ,「読めばわかる」部分についてはごく簡単に済ませる.プレゼンテーション用ソフトウエアを利用する予定.受講者全員の積極的な質問やコメントを歓迎する.(互いに発言の自由を尊重してもらう.詳しくは別掲のガイドラインを参照.) 理論体系の全体像を短期間で高速につかんでもらうことを重視する.受講者は授業内容や教材を参考にしながら与えられた練習問題を自習していく.

単位認定は,最終試験・宿題 (いちぶの練習問題など)・授業への貢献度などにもとづく.最終試験のほとんどの問題は練習問題の類題を予定.内容が濃密なので,週8時間以上の自習時間を確保できないひとにはすすめない (毎週2コマでやることに注意).

必読文献・参考文献

1. 必読文献

    • 嶋村絋輝, 横山将義. 図解雑学 ミクロ経済学. 図解雑学シリーズ. ナツメ社, 2003. 授業開始前に読んでおけば,理解のスピードがかなり上がるはずだ.

    • 多和田眞. コア・テキスト ミクロ経済学. 新世社, 2005. メインのテキスト.第1章は配布するのであらかじめ読んでおくこと (24-25ページの「多変数の関数の2階微分」は省略可).

    • 講義スライド・演習問題.アクセス方法は授業開始までに連絡する.

    • 伊藤元重. ビジネス・エコノミクス. 日本経済新聞社, 2004. すぐ読める啓蒙書.「ゲーム理論」の履修と同時に読むのもいいだろう.以下のような課題を考えている (未定): ビジネススクールの学生として同級生にも知っておいてもらいたいと思う議論・概念を該当項目とともに挙げよ.2-7 章の全体から10個から18個,各章から最低1個.その結果を見て試験問題を決める? 試験は穴埋めなどか? 10-20点程度? あるいはそのうち数個について実例を挙げて説明してもらう?

注意 .生協に入荷したテキストは,入荷後2ヶ月ていどで出版社に返品される.よって,授業開始時にはすでに返品されている可能性が高い.早目に購入のこと.

2. 参考文献

2.1. テキストと演習書

ミクロ経済学書としては,テキストの文献案内にあるもののほかに以下も検討に値する.最初の二冊はこの科目のテキストとして採用する可能性が高かったものであり,数学的難易度は嶋村・横山と多和田のあいだに位置する.神戸ほかはトピックを絞って解説を丁寧にする一方で,演習問題を多く載せている.無料でダウンロードできるMcAfeeは抽象度はそれほど高くないが,積分をふくめた計算力を要求する.林と塩澤ほかはより高いレベルのテキストである.

    • 金谷貞男, 吉田真理子. グラフィック ミクロ経済学. 新世社, 1999.

    • 神戸伸輔, 寳多康弘, 濱田弘潤. ミクロ経済学をつかむ. 有斐閣, 2006.

    • McAfee, R. Preston. Introduction to Economic Analysis, 2006. http://www.introecon.com/

    • 林貴志. ミクロ経済学. ミネルヴァ書房, 2007.

    • 塩澤修平, 石橋孝次, 玉田康成 (編). 現代ミクロ経済学: 中級コース. 有斐閣, 2006.

    • 田中靖人.ミクロ経済学演習問題, 2007. http://www1.doshisha.ac.jp/~yatanaka/#text

2.2. 組織の経済学

この科目では企業をひとつの意思決定主体とみなす.しかし,じっさいの企業はさまざまな個人の集まりである.もし〈個人の合理的選択〉によるアプローチを徹底するならば,企業内の個々人の相互作用を分析することになる.そのような分野としては〈組織の経済学〉とか〈経営の経済学〉がある.ゲーム理論やミクロ経済学の応用分野でもある.ビジネススクールには不可欠な科目だが,残念ながらわが研究科では提供されていない. ビジネススクール向けのテキストも出ているので,興味あるひとは調べてみるといい.

2.3. 一般書・啓蒙書

経済学的思考を学ぶための一般書・啓蒙書としては,スティーヴン・ランズバーグ,ロバート・バロー,ゲーリー・ベッカー,ミルトン・フリードマン,デイビッド フリードマン,マーク・ラムザイヤー,竹内靖雄,八田達夫などによるものをすすめる.

授業計画

括弧内に講義回数目安とテキストの該当部分をしめす:

    • ミクロ経済学とは何か,需要と供給,完全競争市場と効率性 (1回; 嶋村・横山 1-3章; 多和田 1.1-1.2 はカバーしたことにする; 多和田 4.1-4.5 は参考)

    • 分析のための数学 (0回; 多和田 1.3)

    • 消費者の行動 (2回; 多和田2章; 嶋村・横山5章参考)

    • 企業の行動 (2回; 多和田3章; 嶋村・横山6章参考)

    • 市場の均衡 (2回; 多和田4章; 嶋村・横山2-3章カバー済み)

    • 不完全競争 (1回; 多和田5章; 嶋村・横山7章参考)

    • 市場の失敗 (2回; 多和田6章; 嶋村・横山4章参考)

    • 不確実性と情報の不完全性 (2回; 多和田7章; 嶋村・横山11章参考)

    • ビジネス・エコノミクス (0回; 伊藤 序章-7章から)

講義開始前のお知らせ

2008年4月10日メール

GSM (マネジメント研) 学生のみなさん,

「組織的犯罪を告発したが故に逆に犯罪者に仕立て上げられる.」GSM のケース教材にも出てきそうなそんな悪夢から抜けきれないまま,私の新年度は始まりました.落ち込んだ気分で長崎の鼻を目指すと,いやに天気がよかったり,途中,屋島の東岸で潮干狩りをする人々に見とれたりして予定が変わってしまう,そんな季節です.みなさまお元気でしょうか.

このメールは,みなさんの意思決定を支援するに (不十分だろうが)必要な情報を提供するつもりで,GSM 唯一の経済学者 (より正確には唯一の経済学 PhD) である三原麗珠が配信しています.(貴重な授業時間をこの種の説明に費やしたくないという事情もある.) ここで案内する科目は後期開講です.合理的意思決定ができるみなさんは,修了までのすべての履修計画を念頭におきつつ,今学期の登録をするはずです.その決定の参考にしてください.

質問があればいつでもメールをください.はじめての方からのメールはスパムに分類されることが多いため,たまに見過ごすことがあります.しつこく送ってくれれば気づきます.そのほかSkype を通した相談にも対応できます.

■三原麗珠の担当科目「配分ルールと厚生」について

[省略]

■三原麗珠の担当科目「経済分析」について

ビジネススクールには欠かせない経済理論の科目.(個人的にはこの科目より「配分ルールと厚生」のほうをすすめたいが)この科目の重要性は否定しようがない.詳しくは以下の web ページ参照:

http://www5.atwiki.jp/reiju/pages/21.html [移動]

アクセス制限ページへのアクセス法は [省略]

    • 講義開始は12月ころを予定.

    • テキストは後期に生協で販売する.生協に入荷したテキストは,入荷後2ヶ月ていどで出版社に返品される.よって,授業開始時にはすでに返品されている可能性がある.早目に購入のこと.

    • 「微分積分と線形代数」のシラバスに「本講義の内容は後期に開講する「経済分析」の前提になっている」とあるのはまちがい.(前年度の記述がそのままになっているだけ.) 微分積分のごく一部のみがこの科目の前提となるにすぎない.

    • 多和田の第1章はあらかじめ読んでおくこと.特に「微分積分と線形代数」の該当部分だけを要領よく聴講するつもりのひとはいますぐ読むべし.

    • 今学期ゲーム理論を履修するひとは,それにあわせて伊藤『ビジネス・エコノミックス』を読むのも効果的.

    • 講義スライド・演習問題については,秋にアナウンス予定.

■おまけ

香川大学大学院地域マネジメント研究科ガイド

http://www5.atwiki.jp/reiju/pages/32.html [失効; こちらに保管]

特に,「大切なこと」は大切なこと.

三原麗珠