三原麗珠; ゲーム理論; 2009年度

目次

    • シラバス

        • 授業の概要

        • 関連科目・履修推奨科目

        • 到達目標

        • 授業および学習の方法

        • 成績評価の方法と基準

        • 授業計画

        • 必読文献・参考文献

            • 必読文献

            • 参考文献

        • オフィスアワーズ

        • 履修上の注意

        • シラバス「確定」後の変更

    • 課題

    • テキストへの訂正・コメントなど

        • 渡辺 (2004)

        • 三原 (2004) 補助教材

    • 試験前情報

        • 試験形式など

        • 出題ポイント

        • 過去問題および勉強法

    • 試験問題と正解

    • 成績

    • コメントフォーム

    • ゲーム理論の授業記録

シラバス

香川大学全学共通科目 2009 年度

数学 B (Mathematics B); 共通科目 (授業コード: 030102)

ゲーム理論 (Game Theory)

三原麗珠 (香川大学図書館)

2単位, 第1学期, 火曜 2 時限目 (1030-1200), 422教室

授業の概要

ゲーム理論 〉という言葉を聞いたことがあるだろうか.チェスとか将棋の必勝法を研究する数学理論だとか,ビジネスや恋愛に成功する〈戦略〉を伝授するインチキ科学だと思っていた人もいるかもしれない.しかし本当のところをいえば,ゲーム理論はノーベル経済学賞をとったこともある,れっきとした社会科学理論である. 経済学はもちろん,政治学・経営学・社会学・法学・生物学・情報科学などの分野にもインパクトを与えてきた, ボーダーレスな数理的理論だ.

いまや ゲーム理論はこれらの分野を学ぶにあたって欠かせない基礎 と言える.じっさい,ゲーム理論の知識なしでは読めない文献は多い.しかし香川大学の関連分野の教育プログラムの多くはこの (特に最新でもない) 傾向に対応できておらず,世界水準の学問の進展から取り残されてしまっている.大学憲章に唱われた「世界水準の教育研究活動」からも「幅広い基礎力」からもかけ離れた現実がそこにある.

この科目は,香川大学のこの 後進的な状況 を (打開とは言わないまでも) 改善するために開講する.一教員としてできることは限られてはいるが,それぞれの学生が各自の専門分野でこの大学の学問的後進性を克服して行くことを手助けしようと思う.ただしこの科目自体は幅広い受講者に向けたものであるため,特別な専門知識は要求しない. 中学生でも分かるレベルの政治・経済現象への応用例を通して, 政治分析や経済分析に不可欠な〈非協力ゲーム理論〉の考え方を学んで行く.

ゲーム理論は互いに影響をおよぼしあう複数のひとびとの意思決定をあつかう.そういう状況でうまく自分の目標を達成するためには, 相手がどう出てくるかを考えながらこちらの戦略を立てていく必要がある. もちろん相手のほうもこちらの戦略を考えながら行動するだろうから,こちらは相手のその思考も考慮にいれなければならない.「それじゃあ原因も結果もごちゃごちゃの循環論法だ! けっきょく何も言えないのでは?」と思うひともいるかもしれない.しかしそういう〈ゲーム的状況〉について,かなりのことが---しかも厳密に---言えてしまうのがゲーム理論だ.

関連科目・履修推奨科目

この科目を履修する上で必要となる科目は一切ない.数学的・分析的な思考力は要求するが,高校数学の知識はほとんど必要ない.

数理的能力をさらに高めたければ,数学ほか「論理学」や「情報科学」と名乗る科目を検討するといい.ゲーム理論以外の経済理論を学びたければ「ミクロ経済学」をすすめる.

大学では研究,つまり新たな知識を作り出すことが重視される. (社会現象など) 特定の研究対象にかんする知識を作り出すためには,対象を分析するための理論や統計学・データ処理などの実証的方法あるいはスキルが必要になる.(理論自体を研究対象にするなら,数学などが必要なスキルとなる.) 研究対象にかんする既存の知識を学ぶだけでなく,それらの理論やスキルもしっかり学んでおくことが,大学生にふさわしい研究成果を産み出すことにつながる.

到達目標

この科目を履修した後には,各自がそれぞれの専門分野でゲーム理論を用いた文献を利用できるようになってもらいたい.そのため具体的には

  • 与えられたゲームを (支配戦略均衡,ナッシュ均衡,部分ゲーム完全均衡,完全ベイジアン均衡という) 各種の均衡概念にしたがって解けるようになる

ことをこの科目の「 公式の目標 」とする.これができないと文献の理解が表面的なものに留まるし,単位も取れないだろう.

これ以上の目標は,講師よりもむしろ各受講者が設定すべきだろう.曖昧なため到達目標に並べるのが躊躇されるものや,ひとつの科目だけで達成するのは困難なものをふくめて,いくつか例を挙げておく:

    • 数理的・論理的思考に慣れる.

    • 社会理論を構築するための「経済学特有の」方法論を理解する.

    • 自分の関心のある問題をゲームとして表現できるようになる.(そのためにはゲーム理論自体というよりも,対象にたいする知識や当事者の立場にたいする想像力が必要.)

    • コミットメント,インセンティブ,オークション,チキンゲーム,囚人のジレンマ,戦略的投票,繰り返しゲーム,混合戦略,リスク,モラルハザード,プリンシパル・エージェント理論,逆選択,シグナリング などの現代用語 (ビジネス用語?) を,ゲーム理論をもちいて説明できるようになる.

授業および学習の方法

渡辺のテキストに沿って (おそらく板書で) 進めつつ,適当なところで理論を補足したり演習問題 (宿題) を与える.学生は授業内容を参考にしながら必読文献・参考文献を読んだうえで,演習問題を自習していく.

学生が発言する機会は限定されているが,別掲のガイドラインに準じて互いに発言の自由を尊重してもらう.最終的なコントロール権は講師が保持する.

(数理的能力が例外的に高くはない) 典型的な学生のばあい,講義を聴いたりテキストを読むだけでは,(分かった気分にはなれるかもしれないが) ゲームを解けるようにはならない.つまり試験で合格点を取ることはできない.ゲーム理論を習得したと言えるためには,自分で分析できるようになることが要求される.そのためには, 自分の手を動かして問題を解く という作業が不可欠であることに留意してもらいたい.

この科目の進度は,講師の担当科目のなかでは遅い方だ.それでも高校生気分でのんきに構えていたら,たちまち振り落とされてしまうだろう.一方,きちんと勉強すれば試験で容易に高得点を取れるはずだ.(前回 2004年に教えたときは,期末試験受験者 60名のうち不可が 23名,90点以上が 16名,うち100点が 7名だった.受験者の4分の1以上が90点は取れたことになる.)

成績評価の方法と基準

期末試験を重視する (ウェイトは70パーセント).ほとんどの問題は演習問題 (宿題) の類題を予定.残りの30パーセントは小テスト (quiz)による.

小テスト について

    • 3回以上6回以下の範囲で行う.初回は2回目の授業.

    • 3回分については一週間前までに予告する.その他については突然行うかもしれない.

    • 配点の合計は最低36点.ただし30点を超えた部分は最終評価では無視する.つまり x を粗の合計点とすると,最終評価でカウントする小テスト点は min{x, 30}点.欠席にたいする配慮はこれ以外にはしない.

    • [あとで連絡] 点数が正確に記録されていることを学生が確認するシステムが必要.暗号化学籍番号で掲示?

授業計画

渡辺のテキストに沿って進め,三原の補助教材や武藤の本で補足する.残った時間で演習問題の解答を解説する.渡辺の目次は見にくいので,以下では適当に再構成した:

科目案内 (第1回20分)

第1章 なぜ今「ゲーム理論」が注目されているのか (第1回20分)

第2章 ゲーム理論の基本---同時ゲームと交互ゲーム (第1回50分; 第2回60分)

    • 同時ゲームと交互ゲーム (34頁)

    • 支配戦略均衡 (38頁)

    • 支配される戦略の除去 (46頁)

    • ナッシュ均衡 (52頁)

    • 展開形ゲーム (60頁)

    • 補足: 戦略形・支配・ナッシュ均衡のフォーマルな定義 (三原2節; 第2回30分)

第3章 基本で読み解くゲーム理論のキーワード (第3-4回)

    • コミットメント (76頁)

    • インセンティブ (86頁)

    • 交渉 (92頁)

    • オークション (102頁)

    • 囚人のジレンマ (114頁)

第4章 少し高度なゲーム理論の戦略的思考法 (第5-7回)

    • 部分ゲーム完全均衡 (122頁)

    • 補足: 展開形,情報集合,部分ゲーム完全均衡 (武藤71-93頁)

    • 投票 (128頁)

    • 割引率と交渉力 (134頁)

    • 繰り返しゲーム (140頁)

    • 混合戦略 (154頁; 160-163頁は省略)

    • 補足: 混合戦略均衡の求め方 (武藤45-53頁)

第5章 不確実性と情報をゲーム理論で考察する (第8-11回)

    • 期待利得とリスク回避 (168頁)

    • モラルハザード,プリンシパルとエージェントの理論 (176頁)

    • 逆選択,不完備情報ゲーム,完全ベイジアン均衡 (188頁)

    • シグナリング (200頁)

    • まとめ (210頁)

第6章 大きく広がるゲーム理論---最新研究トピックス (第12回30分)

補足: 問題演習 (第12回60分,第13-14回)

必読文献・参考文献

書籍については,カッコ内に香川大学図書館での請求記号と中央館での (研究室を除く) 所蔵状況およびリザーブ扱い (館外持ち出し不可) 部数をしめした.

文書やいちぶの書籍の一部分についてはファイル置き場から入手できる.カッコ内にファイル名を示した.パスワードが必要なファイルについては,隠し講義ページにパスワードを載せた.隠し講義ページ自体のパスワードは掲示と第2回授業で案内する.

必読文献

渡辺 (2004)と武藤 (2001) は もっともやさしいゲーム理論のテキスト. ゲーム理論をもちいた文献を読めるようになるには,ある程度フォーマルなあつかいも知っておかないとギャップが大きいだろう.三原 (2004) でそのギャップを少し埋めることにする.

    • 渡辺隆裕. 図解雑学ゲーム理論. ナツメ社, 2004. (1470円, 生協書籍部で販売; 331.19/W46; 2冊あり; ?冊リザーブ) 160-163頁以外.例もおもしろいし,ひじょうによく書けている.

    • 武藤滋夫. ゲーム理論入門. 日本経済新聞社, 2001. (903円, 生協書籍部で販売; 331.19/Mu93; 6冊あり; ?冊リザーブ) 混合戦略による均衡の求め方にかかわる45-53頁と展開形,情報集合,部分ゲーム完全均衡にかかわる71-93頁ほか,演習問題など.I-IV 章でこれら以外は参考.

    • 三原麗珠. ゲーム理論: 補助教材 2004 (game04notes.pdf). 第1節以外.(game09notes.pdf はこの教材の一部分の改訂途上版であり,何回か更新する予定.旧バージョンよりも説明が親切になっている.)

    • 三原麗珠. 演習問題の正解 (game04ans.pdf).

    • 梶井厚志, 松井彰彦. ミクロ経済学: 戦略的アプローチ. 日本評論社, 2000. (331/Ka22; 7冊あり; ?冊リザーブ)以下が必読で,それ以外は参考:

        • ホテリングモデルにかかわる部分 (238-242頁,251頁,305頁) (kajii-m00p239.pdf)と補助ノート(kajii-m00p239notes.pdf).

        • [追加するかもしれない]

参考文献

0. 数学の補足

    • 茨木俊秀. 情報学のための離散数学. 昭晃堂, 2004. 第1章 (ibaraki04ch1.pdf).集合の記号に慣れていない学生は,1-6頁 (1.1節 集合; 1.2節 写像 (関数)) を三原の2節を読む前に読むといい.

1. テキスト

大学1年生がすぐに読み始められる入門レベルで,特に薦められるものを挙げる:

    • 奥野正寛. ミクロ経済学. 東京大学出版会, 2008. (331/O56; 0冊) 第4章 (okuno08ch4.pdf).特に190-196頁は三原の2節と同時に読むといい.

    • 渡辺隆裕. ゼミナール ゲーム理論入門. 日本経済新聞出版社, 2008. (331.19/W46; 0冊)

2. 講義ノートなどの教材

3. 読みもの

4. その他

関連分野名をいくつか挙げるので,興味がある人は調べてみるといい: メカニズムデザイン (メカニズムデザインの入門的話題をあつかったビデオはこちら),契約理論,組織の経済学,情報の経済学,協力ゲーム理論,社会選択理論 (社会選択入門ビデオはこちら).

オフィスアワーズ

火曜 1230-1400 ならいつでも可.火曜 1400-1700 は約束はしないが可能なら対応.

オフィスは図書館 4 階なので,気軽に遊びに来てくれていい.(質問のある学生が優先.お茶とかお菓子とかの飲食物は出さないので,欲しけりゃ自分で持って来るように.) 図書館内の写真を多く掲載した三原麗珠オフィスへの道案内を用意したので,参考にするといい.

メールによる質問やコメントも受け付ける.ただし回答は原則として授業中ということにする.(サブジェクトに「ゲーム理論」という言葉を入れ,氏名,学籍番号を明示することを推奨する.メールで回答しない場合も受領の確認は出す.48時間以内に確認が届かないときは,メールが届いてないと推定したほうがいい.)

履修上の注意

    • 具体的な社会現象の起きている状況を〈ゲーム〉とよばれる数学的対象に置き換えたうえで,分析的で緻密な議論を進めていく.〈パズル〉のイメージに近いかもしれない.数学的・分析的な思考法の好きな学生にこの科目をすすめる.

    • 講義中に分からないことがあったら,すぐに質問して欲しい.そうしないと,それからあとの説明がすべて無駄になってしまうおそれがある.その時点で分からなくてもよい質問であれば,そう答えて先に進むので,気にせずどしどし質問してもらいたい.

    • 前項の特殊ケースとも言えるが,たとえば講師が教材提示装置を使っているときにモニターに教材がきちんと映っていなかったら,直ちに指摘してもらいたい.見えているはずのものが見えないままで説明を続けるのは無意味だから. (表情で気づくとは限らないので,指し示すなり野次を飛ばすなりしてもらいたい.だれも指摘しない場合は全員「不可」にしたいところだ.)

    • より一般的には,苦情や要望などがあればすべて日本語または英語で表現してもらいたい.書かれも発音もされない思いは存在しないに等しい.大学教員にたいして,「表情や身ぶりで分かるだろう」などという過剰な期待を抱いてはならない. みなさんは獣やベビーよりは言語能力の高い学生なのだから,言葉を使おう.

    • 2004年に開講した「ゲーム理論」は,この科目にひじょうに近い.試験問題や試験結果などの情報が満載されているので,チェックするといい.

シラバス「確定」後の変更

正式な「シラバス」はここまで.その内容はいったん4月14日に「確定」した.それ以後の主な変更を以下に載せる.

    • 4/15. 最終的にカウントされる小テスト点が max{x, 30}点とあった誤りを min{x, 30}点に修正.

    • 4/23. 茨木 (2004) を参考文献 0 節「数学の補足」に追加.

    • 4/23. 補助教材の改訂途上版の一部である game09notes.pdf の存在を追加.

課題

授業の進行順にあわせて以下に課題を挙げる.正解は補助教材または「演習問題の正解」(game04ans.pdf) に載っている.特に断らないかぎり提出は不要.一定の期日までに取り組むべきものは授業記録にもしめした.

    • 補助教材 (三原) 演習2.4, 2.6, 2.8 (似た問題をふくめると演習2.1-2.8)

    • 補助教材改訂途上版 演習 5.1–5.5

    • 補助教材 演習 2.9, 2.10 (この2題はやや発展的)

    • 補助教材 演習 3.12

    • 補助教材 演習 3.1-3.4

    • 武藤 114-115頁 練習問題 1-5

    • 補助教材 演習 3.13, 3.6, 3.8, 5.6

    • 武藤 68頁,練習問題1 (マックスミニ戦略とマックスミニ値は除外.)

    • 補助教材 演習 5.7 (本年度は説明する時間がとれないため除外), 5.8

    • 補助教材 演習 4.3-4.7, 5.9, 5.10

    • 武藤 135 頁 練習問題 1, 2

    • 補助教材 演習3.10 [梶井・松井練習問題13.1, 13.2]

テキストへの訂正・コメントなど

以下の訂正やコメントは三原の持つ版と「刷」にたいするもの (渡辺初版など).最近の「刷」では修正されていることがある.

渡辺 (2004)

    • 45頁.2つ目の「文春が「疑惑」を選択すると?」は「文春が「金融」を選択すると?」が正しい.

    • 67頁,下から4-5行目の右の薄青箱.「自分の利得は30」が正しい.

    • 85頁.下のゲームで「小ビル」「大ビル」と利得のところにあるのは「先手」「後手」が正しい.

    • 89頁.著者の利益は10パーセントの印税契約の場合,(発行部数ではなく) 売上額×10パーセント-努力費用としたほうがいい.

    • 100頁.余剰の再分配の話は,土地を1600万円で売り買いする契約 (99頁上図) を結んだところに A というひとが現れた状況を考えるといい.要するに全員にとって現状よりも余剰が増えるような変化が望ましい.A に土地が行くという変化それ自体は全員の余剰を 99頁上の状況から増やすわけではないが,A に土地が行くことによって増える家主と A の余剰の一部を W に再分配する可能性まで考えれば,全員の余剰を増やす余地がある.そういう余地がある変化は望ましいということ.

    • 106頁.突然劣位な戦略 (弱支配された戦略) を削除する話になっている.これはナッシュ均衡だけを考えると,均衡が多すぎて結果が絞りきれないから,もっと強い均衡概念を考えているわけである.

    • 113頁.利得行列の中で戦略プロファイル (1800, 1700) に対応する利得は (−100, 0) ではなくて (0, 0) が正しい.

    • 113頁下半分.セカンドプライスオークションでは自分の評価額をそのまま入札するのが弱支配戦略になっている.その説明がやや分かりにくい.相手の入札額 b で場合分けした方がいいだろう.

        • b > 1700 のばあい,たとえば b = 1800 としよう.このときは土地をゲットしたら W は 100 万円分の損だから,ゲットしないのがベスト.これは 1700 万円を入札すれば実現する.

        • b < 1700 のばあい,たとえば b = 1600 としよう.このときは土地をゲットしたら W は (自分の入札額にかかわらず) 100 万円分の利益があるから,ゲットするのがベスト.これは 1700 万円を入札すれば実現する.

    • 118頁下から7-6行目.「両方が安値をつければ双方が高値のときよりも獲得できる客数は多少増えるものの利益は減少してしまう」とする.ミクロ経済学の言葉を使えば,需要弾力性が十分小さくて,値段を下げた効果を上回るほどには需要量が増えない状況を考えている.

    • 129頁.図のキャプションは「J国の国会審議」だろうな.そうするとどこの国かバレバレだけど.

    • 132-133 頁.すべての党が先読みできているような説明になっているが,実際は K 党はできていなかったはず.K 党にかぎれば先読みをしてもしなくてもたまたま行動は一致しているから,結論には影響ない.

    • 144頁,下から6-5行目.「D=0.1のとき」とあるのは「D=0.2のとき」が正しい.

    • 176頁.大学生を対象とする保険はモラルハザードの例としてはあまりよくない.むしろ逆選択の例と考えられる.188頁を参照.

    • 183頁.上のゲームの木で上から3番目の著者の利得を計算する式は

    • ではなくて,が正しい.

    • 183頁.上のゲームの木における著者の数字は期待利得そのものではなくて,期待利得による大小関係を保つような数値 (具体的には確実性同値額) である.仮に x 万円の利得を u(x) と書いて,0 万円の利得を 0 と,50万円の利得を 50 と決めたとする (すなわち u(0)=0, u(50)=50).すると x が 0 と 50 のあいだのとき危険回避の仮定より x 万円の利得 u(x) は x よりも大きくなるはずである (上に凸なグラフを考えよ).ところがこの図では u(5), u(35), u(40) などと書くべきところを 5, 35, 40 などとと書いている.つまりこれらの数値は特定の期待利得 u(x) を与えるような金額 x を書いたもの (金額やくじの期待利得を u の逆関数で写像した確実性同値の額) である.どうしてこれで問題ないのかは授業中に図で説明するが,要するに比較したいものは 5, 10, 35, 40, 42, 50 万円,そして「確率0.8で50万円,確率0.2で10万円となるくじ」であり,それらを順序づけることができればよい.金額にかんする順序付けはもちろん明らかなので,けっきょくはこのくじがどこに来るかを明らかにすればよい.テキストでは 40 万円よりも先にくじが来ている (くじの期待利得は u(42-r) で,42-r < 40 となっている).

    • 193頁.このゲームでは,金太郎はホヤに移ったときの賃金を知らずに移るかどうかを決めることになっている.移ったという前提の情報集合では,(金太郎が辞める可能性を考えないならば) ホヤにとって安い賃金を提示するのがマシなのは当たり前であり,つまらないゲームになっている.もちろんホヤが先に金太郎に賃金を提示し,その後に金太郎が移るかどうかを決めるゲームを考えることはできる.しかしそのゲームは (ホヤの情報集合における信念が金太郎の行動の影響を受けないなどのため) ベイジアン均衡の説明には適さないものになってしまう.よって,この授業では渡辺にしたがって,ホヤに移ったときの賃金を知らずに金太郎が移るかどうかを決めることとして分析を続ける.202頁の最後の段落括弧内も参照.

    • 197頁.ゲームの木で金太郎のいちばん下の利得が700 とあるのは 800 が正しい.また青丸はその上の数値 900 を囲むべき.

    • 198頁.ここでいう「ベイジアンナッシュ均衡」は武藤の本では「完全ベイジアン均衡」にあたる.授業では「完全ベイジアン均衡」あるいは「完全ベイズ均衡」と呼ぶことにする

    • 198頁.「ホヤ商事は,高い賃金を払っても高い能力の者を雇いたいという希望が満たされない」とあるが,このゲームの利得にかんする限りでは,そういう希望にはなっていない.ここではこのゲーム自体の解釈というよりは,もっと一般的な議論を行っていると考えるとよい.

    • 199頁.ゲームの木で金太郎のいちばん下の利得が700 とあるのは 800 が正しい.

    • 203頁.資格を取得してもホヤ商事にとっての価値は変わっていないことに注意.つまり資格取得は能力を高めないとほぼ仮定している. この仮定は資格のシグナリングやスクリーニングの機能に絞って分析するための仮定 であり,資格が本当に能力を高めないのかどうかはここでは問題にしていない.このように経済学では分析の目的によってはやや不自然な仮定を置くことがある.

    • 205頁.いちばん下の点が「有低」とあるのは「無低」のあやまり.

    • 209頁.能力が高い金太郎が900万円を提示されたときの利得がこれまでと違っている.これまで同様ナマコ建設に残るとすれば,金太郎の利得は上から順に,1050, 950, 1100, 1000 となるはず.

    • 210頁下から10-9行目.「論理的を明らかにしてくれます」でなくて,「論理的に明らかにしてくれます」

三原 (2004) 補助教材

    • 2頁下から11行目.「マスターしておかなければ」

    • 5頁「ノーテーション」2行目に余計な右括弧がある.

試験前情報

試験形式など

    • 過去問題よりは記述式が多くなりそう.(今回は過去とちがってマークカードを使わないため.) 出題形式は小テストと大差ない.

    • 以下のような問題がそのまま出題されることは (追試験や再試験を除いて) ない:「自分が好きなゲームを10個挙げ,それぞれについて適当な解概念を定義し,その解を求めよ.ただし,戦略形ゲーム,展開形ゲーム,不完備情報ゲームのそれぞれを最低1つはふくめること.また,解概念としては,支配戦略均衡,ナッシュ均衡,部分ゲーム完全均衡,完全ベイジアン均衡をすべてふくめること.」ただしこの一問には出題ポイントの大部分がふくまれているので,参考にするといい.

試験問題冊子に載っている「注意」

    • 問題冊子4 枚 (?),計算用紙1枚が綴じてある.解答は問題冊子に直接記入して提出すること.計算用紙は提出しなくてよい.

    • 配点はそれぞれの問題のところにしめしている.合計で74点分 (あるいはそれ以上?) あるが,獲得点のうち70点までを期末試験の点数としてカウントする.[補足.30点分ある小テスト点と合計で 60点取れば「可」はもらえる.高得点を目指して欲しい.特に総合的な成績の指標である GPA (Grade Point Average) が適用される学部に属する学生は, 「不可」および「登録期間後の辞退」をふくむすべての登録科目の得点が,累積 GPA にのちのちまで響くことに注意. 研究室配属や奨学金その他進級条件などでGPAに一定の基準を設けていることがある.]

    • 問題 9 以外は純粋戦略の範囲で考えよ.

    • 展開形ゲームの情報集合の表し方がテキストとちがっていることに注意.各意思決定点を点線で結んで表している.

    • 問題中に誤りを発見したばあい,試験中または試験直後に三原まで申し出ること.ボーナス点を与えることがある.

    • 試験中に問題修正をすることがある.その際,すでに退室した受験者が不利益を被る可能性がある. 途中退室した受験者は,退室することによる不利益を了解した上で退室したものとみなされる.

    • 答案用紙の一枚目上部にはっきりと「辞退」と書いて,全体に大きくバツ印をつけてくれれば成績をつけない.(ただし「不可の場合は辞退」などと条件をつけないこと.)「成績がつかない」ということは,登録自体が取り消されることとはちがう.総合的な成績の指標であるGPAの計算上は「不可」と同じ零点あつかいになる.

試験問題冊子に「注意」として載っていないもの

    • 試験正解,結果,講評などは Web 上の講義ページ (ここ) に掲載する.

    • 期末試験の結果 (得点・順位) および総合評価はメールで各自に知らせる.

    • 追試験と再試験について: 記述式の筆記試験を予定.場合によっては口述試験を組み合わせる.定められた要件を満たす受験希望者は,期日内に修学支援グループに受験願を提出すること.

辞退のあつかいは科目によりまちまちなので注意

    • この科目では,期末試験を受験せずかつ追試験も再試験も願い出ないばあい,成績をつけない.(これは「登録した科目はすべて成績が出る」という原則に反するあつかいである.他の科目では非受験は自動的に「不可」となることがあるので注意.)

    • この科目では期末試験を受験したばあいでも,答案用紙の一枚目上部にはっきりと「辞退」と書いて,全体に大きくバツ印をつけてくれれば成績をつけない.(答案を提出せずに逃げる者を防ぐ意味もある.他の科目ではいったん受験した場合「辞退」は認められないのが普通なので注意.)

        • ただし「不可の場合は辞退」「優以上でなければ辞退」などと条件をつけるのはダメ.条件をつけたばあいは無視して成績をつける.

    • 「成績がつかない」ということは,登録自体が取り消されることとはちがう.総合的な成績の指標であるGPAの計算上は「不可」と同じ零点あつかいになる. ただ,就職活動で提出したりする成績表上には数学Bの科目自体が現れないことになるそうだ.辞退するかどうかの判断は,自学部で総合成績がどのていど重視されるのかがカギになるだろう.

卒業要件を越えた履修は問題ない

    • この科目が 卒業要件として認められない場合でも,ちゃんと単位は出るし成績表にも載る からなんの心配ない.要件というのは最低基準であって,それを越えて履修した科目で良い成績を出せば,意欲ある学生であることをしめせる.安心して期末試験を受験していい.

        • 卒業要件として認められない例を挙げておこう.たとえば共通科目の数学科目は2科目まで卒業要件として認められる.工学部の知能機械システム工学科のように数学 C, D を必修としている学科では数学 B は全学共通科目の卒業要件としてカウントされないことになる.(工学部のばあい学部開設科目の卒業要件としてもカウントしない.) 純粋に要件外で取った科目と見なされる.

出題ポイント

最後の2回の授業 (Classes 13, 14) であつかった課題および小テストを復習しておけば,期末試験の大部分をカバーできる. くどいが小テストの正解例には絶対目を通しておいた方がいい. 対応する小テストの問題ができれば必ずできるはずの試験問題にかなりの配点がある.

以下に問題のタイプとおよその配点,そして参考になる類題を挙げる.「演習」とは補助教材 (2009年7月3日のバージョン) のものを指す,「武藤III.5」とは武藤 III 章練習問題5を指す.

    • 支配あるいは弱支配の定義; ナッシュ均衡あるいは最適反応の定義.8-10点

        • 補助教材の定義2.1, 2.2, 2.3, 2.4 とその周辺のリマークなど.

        • 演習2.4, Quiz 2 問題2, Quiz 3 問題1, 2, 2004年問題1,

    • 支配・弱支配の有無,支配戦略,最適反応,ナッシュ均衡を求める問題.6-8点

        • 演習2.6,Quiz 1, Quiz 3 問題1.

    • 戦略形ゲームの諸概念にかんする真偽判定.5-8点

        • 演習2.8, 2004年問題5.

    • 展開形を戦略形になおしてナッシュ均衡や部分ゲーム完全均衡を求める問題.10点

        • 演習5.1, Quiz 4 問題3.

    • 中央値による室温設定ゲーム. 5-8点

        • 演習2.9, 2004年問題8

    • 複数段階投票手続と戦略的投票. 0-6点

        • 演習 3.12, 2002年「特別講義: ゲーム理論と政治」問題 10.

    • 交渉ゲーム.0-6 点

        • 演習 3.13.

    • 情報集合の意味. 5-8点

        • 演習3.4, Quiz 4 問題 1, 武藤 III.5

    • 部分ゲーム完全均衡・完全ベイジアン均衡を求める問題.10点

        • 武藤 III.2, III.4, IV.1, IV.2, Quiz 5 問題 2.

    • 繰り返し囚人のジレンマ.0-6点

        • 演習3.8, 5.6

    • 混合戦略によるナッシュ均衡を求める問題.0-6点

        • 武藤II.1, Quiz 5 問題1.

    • 完全ベイジアン均衡.6-8点

        • 演習4.4-4.7, Quiz 5 問題3,(演習 5.9, 5.10 は Quiz 5 問題3のような穴埋め形式での出題に答えられるていどに理解しておけばよい.)

    • その他

過去問題および勉強法

過去問題はチェックしておこう.多くの問題は共通なので,まずは2004年度の問題をぜひチェックすべし.余裕があれば,2004年度分でカバーされていない分を2002年度の三科目の試験問題から拾って行くとよい:

「2002年度前期ゲーム理論関連科目の試験情報」ページの 「ごあいさつ」の最初の四段落に効果的な勉強法などが載っている. 参考にして欲しい. (ただし4段落目以降に出て来る学部開講科目や三原の演習にかんする情報は古い.いまはゲーム理論を専門とする経済学部教員は天谷研一だけになってしまった.)

試験問題と正解

小テストを置いたフォルダにあるファイル babygames09final.pdf を参照.小問の配点や採点基準も載っている.

成績

小テスト,期末試験,総合点の平均点,中央値,得点分布および成績評価 (秀はS, 優は A, 良は B, 可は C, 不可は X, 該当せずは n.a.) の分布: babygames09record.pdf

    • 小テストの点数による順位と期末試験の点数による順位は大幅に入れ替わるケースが少なくなかった.

    • 獲得点と失点をそれぞれもとめた上で,両方の和が74点になることを確認した.採点に誤りはないと思う.

    • 期末試験の中央値は74点中54点 (平均は低い点数に引っ張られて48.8点).受験者の半数が失点20点以内だったということになる.さすがに試験直前は勉強したということだろう.出題ポイントの予告も具体的だったので,対策していたひとにとっては簡単だったはずだ.以下,総合点で分けた各グループにたいしてアドバイス:

        • 90点以上.ゲームを解くことにかんしては経済学大学院レベルに近いところまで到達しています.理論を専門とする大学院生にとっては「ゲームを解く」というのははじまりに過ぎないのですが,応用を専門とする大学院生や研究者にとっては「ゲームを解く」ところまで行けばかなりのことができます.学問の先端もそう遠くはないです.

        • 60点以上.少なくとも期末試験直前には勉強したようですね.ただ,小テストの最高点が45点中30点だったことから判断するに,普段の勉強はまだまだです.2単位科目は予習・復習・課題などの自主学習に60時間 (週4時間) かけるのが標準であることを忘れないように.このグループには S から C までふくまれますが,そんなに大きな差があるわけではありません.どうせ C をとれるくらい勉強するなら S を狙ったらいいんじゃないでしょうか.つまらないミスで失点した人,さっさと退室せずに良く見直しておけばよかったですね.

            • [追記] 重要なことを言い忘れてました.大学では独力で勉強する能力が問われます.数理的な科目の演習問題は本来講義であつかう性質のものではありません.講義の主たる目的は理論を解説することにあります.この科目では最後の数回を演習問題に費やしましたが,本当は演習問題は自力でマスターすべきものです.

        • 58-59点.ラッキーでしたね.

        • 45-53点.ある程度努力はしたのでしょうが,およびませんでしたね.高校時代の感覚で「このくらい取っていれば単位は取れる」と思っていたかもしれませんが,ちょっと甘いです.大学で単位を取るためには6割は確保していないと危ういということを意識して,こんご他の科目では失敗しないようにしてください.

        • 45点未満.この科目をあまり重視しなかったようですね.ほかの科目あるいは大学以外のことを重視しているのでしょう.あるいはなにか事情があったのかもしれませんね.もし大学以外で熱中できることがあるなら,退学するのもひとつの手です.香川大学を卒業したという事実自体はおそらくマイナスにはならないでしょうが,それほどプラスになるわけでもありません.卒業までのコストも考えて判断するといいでしょう.中退して自分にあった仕事に就くのもよし,専門学校や他大学に入り直すもよし.さらには韓国に留学するなんて選択肢もあるので,よく考えて自分の可能性を広げてみてください.

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ゲーム理論の授業記録

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三原麗珠