マネジメント研究科科目受講ガイドライン

発言の自由の確保について

ビジネススクールの学生のみなさんは,熱い議論のバトルを戦わせときには煽り合ったり,さらには勢い余って喧嘩が始まりケガ人続出といったような授業が理想だと思っているかもしれない.(井原研究科長の挨拶にも「日々熱気ある授業風景が繰りひろげられています」とあるとおり.もちろんこの「理想」を文字通り実行している授業は存在しないはずだ.文字通りやると危ないので,願望に留めておいてもらいたい.) 終始リラックスした感じで和やかに進みがちな三原の科目は,この種の期待にはほとんど応えられないと思う.それでも,自由な議論を確保するための配慮はするつもりだ.以下はその点がどうしても気になる方向けの説明.ぎりぎりを追求するつもりのない方は,私的会話のマナーを守るつもりでいればだいじょうぶだと思う.ただし 敵対的な発言を許す用意,他の受講生の自由を確保する用意は必要.

授業中の発言の自由を最大限尊重する.ただし (あたりまえだが) 最終的なコントロール権は講師が保持する. 物理的実力行使を予告する脅し発言などはやめてもらう.特定の人にたいする回復不能な名誉毀損はできるだけ避けてもらう.(もしそのような発言と認められるばあい,それに公然性を持たせないため,外部にたいしてそれを秘密にすることを出席者に要求する.教室内での発言の自由を守るための例外的措置と考えてもらいたい.) 授業と無関係な発言,単なる侮辱 (真実かどうか決めようのない「きちがい」といった意見・判断の類い)・差別表現・卑猥な表現などは 問題視しない. ただし,それらの発言が授業内容の理解の促進や進行の助けにならないと講師が判断するときは適当にコントロールさせてもらう.(現実には,授業を妨害されたと感じたことは過去一度もなかった.他の教員に言わせれば手に負えない学生でも,さいわい私の授業では有意義に利用させてもらった.コントロールの仕方としては,以熱治熱で暴言に対しては数倍にして暴言で返す意気込みはあるのだが,残念ながら暴言を吐く学生はいなかったので実現していない.現実には発言者を非難することはまずなく,テキトーにあしらうことを多用してきた.)

授業中の発言の自由を確保するために授業外での発言の自由を犠牲にするやり方 (授業中発言を外部に対して秘密にしてもらうこと) は最小限に留める. 自由な引用や批判を認める自由学術の基本を守るため だ.(副産物として,外部でできないような無責任発言を抑制する効果もある.ただ,授業中の発言について対外的な責任を要求すると学生も息が詰まると思うので,そういう効果は最小限に留めたい.むずかしいな.) しかし,勤務先の事情などどうしても口外してもらいたくないような発言をしたいばあいもあるかもしれない.そのような 外部に伝わるとどうしても困るような発言を行うときは,そのことを明示してもらいたい .一方で,授業で知ったことについて外部で書いたり話したりするときは,前述の名誉毀損にかかわる秘密保持に注意したうえで最低限のプライバシーを尊重してくれれば完璧だろう.(たとえば文章の種類によっては,発言者を明示しなければ信憑性が失われる.その際はあらためて発言者に取材するなどしたほうがよい.)

秘密保持を求めることを例外にするほうがいいのか,原則にするほうがいいのかについては,科目にもよるかもしれない.一般論として議論の余地がまったくないとは言わない.(機密保持を求めるのを原則にするような科目の存在自体が学術の場にふさわしいかどうかも議論の余地があるだろう.) すでにどこかで発表された研究成果や一般的な議論をあつかう授業については,議論の余地はあまりないと思う.

むしろ学生が発言を躊躇するのはここに挙げたような理由よりも,言いたいことがうまく表現できないという理由が大きいのではないか.斬新な概念に遭遇した直後に,うまくその概念を表現できなかったり,言いたい例をその概念にうまく関連づけることができなかったり (関連性は分かっていても,それをうまく表現できなかったり) するのは仕方ないだろう.斬新な概念というのは人々がじゅうぶん言語化して考えてこなかったからこそ斬新だという面もある.うまく表現できないことをあまり気にしないで発言してくれたらいい.

三原麗珠