ドリップの基礎 〜ペーパー・ネル共通〜

使用する豆と粉

ペーパードリップとネルドリップはコーヒーの抽出法のなかで、もっとも淹れる時の自由度が高く、淹れ方一つで色々な味が表現できます。ですから、豆の種類、焙煎の深浅、 粉の粒度 を比較的選びません。 求める味に合った豆、粉を用意しさえすれば結構です。

とはいっても初心者の方には、どうしていいのかわからないでしょうから、一応の目安を示します。

    • あっさりした(酸味を活かした)ものが好みなら

      • ブレンド豆(アメリカンブレンドなどの名称で売られている一般的なもの)中挽き、一人分 12g

      • ストレート豆(キリマンジャロのミディアムローストなど)中〜中粗挽き、一人分 13g

    • 濃い(苦味を活かした)ものが好みなら

      • ブレンド豆(ストロングブレンドなどの名称で売られている一般的なもの)中挽き、一人分 14g

      • ストレート豆(モカのフルシティーローストなど)中〜中細挽き、一人分15 g

    • 中庸が好みなら

      • ブレンド豆(マイルドブレンドなどの名称で売られている一般的なもの)中挽き、一人分 13g

      • ストレート豆(コロンビアのシティーローストなど)中挽き、一人分14 g

このように、例を挙げればきりがありません。

また濃いほうが好みの方には、挽き方を粗目にして粉の量を1〜2割多くするのもお薦めします。

ドリップポットの選択

詳細は こちら を御覧ください。

色々なメーカーが販売しており、ドリップポットもしくはコーヒーポットという名称で売られているものなら(中にはサーバーをコーヒーポットと呼ぶ場合もあります)まず安心して使えます。ネルドリップとペーパードリップで基本的にポットに区別はありません。

およそドリップするうえで、もっとも重要なのがポットの選び方だと言えるでしょう。

ド リップでは湯を細く、静かに注ぐのが基本です。そのためには 注ぎ口が十分に細くなくてはいけません 。もしくは鶴口状になっているものを用います。ある程度は「慣れ」でカバー出来ないこともありませんが、ヤカンなどでは(いくら自分で気を付けているつも りでも)「円を描くように」とか「湯を乗せるように」などという細かな動きは出来ません。もっとも、大人数分を入れる場合には、あまり口が細すぎても抽出 速度が遅くなりすぎますから、人数分に合ったものを用いるのが大事ですが(写真はせいぜい3人分までのものです)

専用のポットは比較的高価なもの ですから初心者のうちは買うのをためらうかもしれませんが、注ぎやすいポットを使うことがドリップ上達の早道ですから、初心者にこそお薦めします。僕は写 真のポットを使うようになって、ようやく一人分でも納得できる味が出せるようになりました。

またポットは 直接火にかけない ほうが良いです。ポットを直接火にかけると、どうしてもポット自体の温度(特に湯の届かないところ)が湯温よりも高くなり、注ぐときに突沸してしまいがちです。

初めて使う時には、もちろんきれいに洗ってから使います(他の食器と変わりません)。

使用時には十分高温のお湯を多めに入れて、 あらかじめポットを温めておきます 。でないと抽出用の湯を移したときに湯温が下がり、思った温度で抽出しつづけることが難しくなります。抽出に用いるお湯を、温度を高めに、かつ量を多く入れておくのでもかまいません。

また抽出する直前に、中の湯を少し流しや別のカップなどに注いで捨てることで、注ぎ口の部分まで温めるようにしておくと、抽出ごとのばらつきを減らす助けになります。

お湯(水)の選択、沸かし方と温度

まず、抽出に使うのとは 別に熱いお湯を多めに沸かしておきます 。これは器具を温めるためなので、沸騰させる、させないはもとより、ガス自動湯沸かしの湯などでも一向にかまいません。品質もさほど上等の水でなくてもかまいませんが、異臭のあるものは器具を介して珈琲に匂いが移るもとになるので気を付けましょう。

もちろん抽出用の水を大量に沸かし、器具を温めるのに使っても何の問題もありません。 品質上はむしろこちらの方が望ましいといえます。

淹れるのに使う水についての詳細は以下に示した専用の項で説明します。

    • コーヒーに使う水について

      • 水の条件

      • 種類

      • 抽出法と水

        • ペーパードリップ・ネルドリップ

湯を沸かすのには、ドリップポットとは別のポット(ヤカン)を用います。少し前までは電気湯沸器では十分に沸騰させることができませんでしたが、最近ではかなり高性能のものもあるようですので、そういうものならばかまわないと思います。

お湯を一度沸騰させるかどうかについては諸説あるようです。ですが、結局のところカルキが十分に抜ければよいわけですから、カルキのもとから少ない水やミネラルウォーターなどでは、必ずしも沸騰させる必要はありません。とはいえ、その場合でもドリップポットに湯を移し替えることも考えると、ほとんど 沸騰直前(大きめの気泡が絶え間なく出始めるぐらい)まで沸かした方がよい でしょう。

お湯を沸かしたら、あらかじめ温めておいたドリップポットに移し替えます。このときの湯温の低下は気温やポットの材質、ポットの温まり具合に依存しますが、大体ポットの中の温度が90℃〜95℃程度になっていると考えればよいでしょう。大体このあたりが「やや高めの湯温での抽出」の温度です。

ドリップでは 湯温は味の決定に非常に深く関与します 。

同じ抽出速度下では、高温の方が抽出される成分量が多くなり、その結果味全体が強くなりますが、それぞれの味の構成要素ごとにその温度−抽出曲線は異なります。

左図には苦味と酸味(良質な味)、渋味(雑味)だけを描いていますが、これに示すように、苦味が比較的低温から抽出されるのに比べ、酸味は高温になってようやく十分に抽出されます。

ですから 苦味だけを活かしたいなら低温で、酸味を活かすなら高温で、 というのが温度の基本になります。

ただし酸味を活かそうとして、高温で抽出すると渋味や苦味も一緒に抽出されてきてしまいます。逆に低温で苦味だけを抽出しようとしても、十分な抽出ができないこともままあります。

湯温は味を決める大切なファクターですが、それだけでは完全には味を支配できません。抽出時間と同時に考えてはじめて味のコントロールが自由自在になります。

温度が高すぎる場合は少し冷ましてから注湯します。このとき空冷でもかまいませんが、 水や氷のかけらを足す のも一つの手です。

低すぎると思ったら沸かしなおすしかありませんが、何度も火にかけると水の本来の味は落ちてしまうと言われているので、注意したほうがよいでしょう。

注ぎ方(1)蒸らし

さて、ここから実際にお湯を注いでいくわけですが、まず最初は少量の湯を粉全体に染み込ませて、しばらく待つのが重要です。これは 「蒸らし」 と呼ばれます。

この「蒸らし」の最大の目的は「湯の通り道を粉全体に確保する」ことにあります。

湯が十分染み込むことで元々多孔質の粉は膨張し「開いた」状態となって粉の内部にまで湯が通り、同時に予熱されます。これによって効率のよい抽出が初めて可能になるわけです。

ところがもしこの時、コーヒーの粉にお湯を注ぎ続けてしまうと、お湯が最初にフィルターに接するまでに通った道程が、周りに比べてお湯の流れやすい「通り道」になります。注がれるお湯は主にこの道を通りますから、この付近の粉からはどんどん成分が抽出されていきますが、ここ以外の部分からはほとんど抽出されない、いわゆる「抽出ムラ」が生じます。こうなるとどれだけ湯温や注湯スピードに気を使ってみたところで、均一な抽出は望めませんし、ひいては良い味の珈琲も得られません。そこで あらかじめ少量の湯を粉全体に染み込ませることで、湯の通り道がどこかに片寄ったりしないようにします 。

蒸らしの別の目的として、いわば「予抽出」が挙げられます。蒸らしの状態では粉に対して最小量の湯が接している訳ですから、各成分濃度の高い抽出液が得られます。蒸らしのために注いだお湯は粉に熱を奪われてやや低温になっていますから、主に苦味を中心とした味がこの予抽出時に出てきます。ですから苦味の強いもの、こくのあるものを望むなら蒸らし時間を十分に長くとるのがひとつの方法です。

蒸らしのときの湯の注ぎ方の最大のポイントは 「粉に注ぐのではなく粉の上に乗せる」 の一言に尽きるといって過言ではありません。

この「粉の上にお湯が乗った」状態が成り立つのは、湯の染み込んでいく勢い(毛細管現象による浸透+重力+注湯の勢いなど)よりも、粉からの反作用(表面張力+粉の膨張+発生する炭酸ガス圧など)の方が大きいことを意味します。この状態ならお湯は乗せた地点からほぼ均一に拡散し、粉全体にまんべんなくいきわたります。

ですが、逆にもし上からの力が粉の反作用を上回ると、片寄った湯の通り道が出来てしまいますし、さらに粉の表面がへこんでしまうこともあります。これはまず何よりも、注湯の勢いが強すぎることがいちばんよくみられる原因です。上でも述べましたが、ここで ドリップポット の口の細さが重要になります。口の太いものでは湯の勢いが強くなりますから、お湯を乗せるのは無理だと考えていいでしょう。

また古くなった粉を使った場合にも、粉の膨張やガスの発生が少ないためによく見られます。

ここの注湯は少人数分を淹れるときほど調節が難しい操作です。1〜2人分を淹れる場合などは、 湯をぽたぽたと滴らせる ようにやると比較的失敗が少ないようです。

実際の蒸らし方の手順を示しますと

    1. ドリッパー内の粉を均し、表面を平らにします。

    2. 粉の中央部に少量のお湯を静かに乗せます。

    3. 乗せるお湯の量は珈琲の種類にも寄りますが、ほんの少量で十分です。大体の目安は一人分の粉に10cc足らずぐらいです。お湯が上手く粉の上に乗ると粉の表面だけで広がっていきますが、これがフィルターに接しないように注意します(湯量とタイミングで調節します)。ここでは別に渦巻き状に注湯する必要はありません。

    4. 粉が膨張してきますので、膨らみ終わるまで待ちます。

    5. 膨らみ終わるまでは30秒から1分程度です。このころには、表面にひびわれも見られます。

    6. 膨らみ終わったら、タイミングを見計らって本格的な注湯にかかります。

    7. ごくあっさりしたものを望むなら膨らみ終わる前でも結構です。通常は10〜20秒、こくのあるものが欲しいときは1分半から2分ほど待ってもかまいませんが、ドリッパー内の温度が下がることも考慮に入れておきましょう(特に気温の低いときなど)。一度膨らんだ粉がしぼみはじめたら、どれだけ長くともそれから30秒以内には注湯にかかったほうがよいようです。

膨らみ終わった時点で ドリッパーから2〜3滴、抽出液が滴るぐらいが最適 です。

注ぎ方(2)注湯時の注意

蒸らしが終わったら、本格的な注湯にはいります。

いうまでもなく、この操作が珈琲の味を決めるうえで最も重要な段階です。いくら他の段階で気を使ってみたところで、ここで手を抜いてしまうと、それなりのものしか出来上がりません。ただ、この操作には気を付けるべき点が何箇所もありますので、順を追って説明します。

    1. お湯は粉に近い高さからできるかぎり静かに注ぐ。

    2. 蒸らしのときみたいに滴らせる必要はありません(抽出時間をコントロールするためにも)が、粉に当たる湯の勢いを最小限に抑えます。

    3. 強く注ぐと、その勢いでドリッパー内の粉の層(以下濾過層)がへこんでしまい湯が通る距離が短くなるため、十分な抽出がなされなくなります。また最悪の場合、フィルターを剥き出しにしてしまうことすらあります(「3.フィルターにお湯を直接当てない」を参照)。

    4. お湯を注ぐ位置を常に移動させる。

    5. もし完全に湯が粉に当たる力を完全に殺すことができるなら、粉の中央に注ぎ続けさえすれば、完璧な注湯ができるはずですが、実際にはどれほど静かに注いだとしても、湯の勢いを完全に無くすことは不可能です。一点に集中して注ぎ続けると「点滴石を穿つ」の例え通り、いずれは注いだ地点が窪んできます。ですからお湯を注ぐ位置は、常に変化させつつ、なおかつ抽出ムラを作らないために偏らないようにする必要があります。

    6. そのためには 渦巻き状に注湯する ことをお薦めします。

    7. 粉の中央から静かに湯を注ぎはじめ、湯が粉に当たる軌跡が渦巻きを描くように外周へ向けて進めます。ある程度まで縁(フィルターと粉の接するところ)に近づいたら、回転方向はそのままで、今度は中央に向けて渦巻きを描くように注ぎます。

    8. このとき、 中央部はできるだけ入念に、外周部は素早く 通過するようにして、中央部に行くにしたがって、注ぐ湯の量が多くなるように調節します。これは外周部に多くの湯を注ぎ過ぎると、その部分の濾過層が薄いぶん抽出が不完全になるためです。

    9. 状態(特に鮮度)がよい豆なら、湯が注がれた点から盛り上がるように白い(時間がたつと褐変します)泡が生じますので、これを目印に、生じた泡の外縁をなぞるように注ぐのがベストです。

    10. フィルターにお湯を直接当てない

    11. フィルターに直接当たったお湯は、成分を抽出することなくそのまま抽出液に入ります。このため抽出が不十分になることは言うまでもないでしょう。またさらに悪いことに、濾過層の上に浮いているアク(次項参照)も一緒に抽出液に入ってしまいますので、出来上がった珈琲に雑味が出る元になります。

    12. ドリッパー内の湯を涸らさない

    13. ドリップ式やサイフォンで珈琲を抽出する場合、珈琲の粉と湯を混ぜると水面に泡が生じることは一度でもやったことのある人ならご存じでしょう。この泡は珈琲に含まれる渋味などの雑味を吸着している、いわゆる「アク」にあたります。珈琲の抽出とは「すべての成分を余さず抽出すること」などでは決してなく、極論すれば「雑味を含まない良質の成分だけを抽出する」ことに尽きるといってもいいでしょう。

    14. ドリップ式の場合は、このアクを常に泡に吸着させておき、抽出液に流れ込まないようにすることで、良質の成分だけを得ようとしています。もし、ドリッパー内のお湯が極端に少なくなり涸れてしまった場合、せっかく浮かせておいたアクが抽出液に流れ込んでしまいます。

    15. ですから 途中で湯を足すときはドリッパーに湯が残っているうちに行い、抽出完了時もまだ湯が残っているうちにドリッパーを外すようにします 。

    16. 注湯スピードで味を変化させる。

    17. 湯温のところでも述べましたが、抽出時間は温度と同じく珈琲の味を支配する要素の一つです。

    18. この、抽出にかかる時間はドリッパーから抽出液が出てくるスピードに依存することは言うまでもありません。ですが、このスピードもいくつかの要素に依存しています。

    19. 一つは粉の粒度です。細挽きの粉ほど抵抗が大きく流速は遅くなり、粗挽きではこの反対になります。

    20. ドリッパー内の湯の容積も流速に影響します。ドリッパーに一回に入れる湯の量を増やすと、フィルターの最下端での水圧の増加とフィルターと湯の接触面積の増加のため流速が上がります。一般に蒸らし以後の注湯は、目的の抽出液を得るまでに、2〜4回に分けて行いますが、一回当たりの湯の量を変化させることで味のコントロールが可能です。

    21. ただし、ここで湯温のことを忘れるわけにはいきません。 抽出時間は抽出される成分の「量」を決定し、湯温は成分の「質」を主に決定します 。

大体の感覚としては、

苦味を活かすには低温でゆっくり

酸味を活かすには高温で素早く

というのが基本ですが、これを完全に理解したうえで意図したとおりの味を作り上げるのが、ドリップの最大の醍醐味だと言ってもいいでしょう。

保温法

ドリップ式で淹れた珈琲は、他の方法で淹れたものにくらべて冷めてしまいます。これを防ぐ方法の一つとして、サーバーをホットプレートに乗せて温めながら抽出することが挙げられます。

また、抽出した後で温め直すのもよく行われますが、この時 決して直火にかけてはいけません 。直火にかけると成分が変性してしまい、せっかく上手に淹れた珈琲も台なしになります。温め直す場合はホットプレートを使うか、湯煎にするのがよいようです。電子レンジも短時間なら有効です。

ただし、温め直しは珈琲の香りや味を落としてしまうことは頭にいれておいてください。確かに「舌を火傷するくらい熱くなければ珈琲じゃない」という主張はありますが、実際問題としてあまり温度が高いと味をみることはできません。十分に器具を温めておいた上で淹れてすぐ飲むのならば、特に温め直す必要はないと思いますが。