Silvarolla2004

Silvarolla MB, Mazzafera P, Fazuoli LC.

A naturally decaffeinated arabica coffee.

Nature: 429:826(2004 Jun)

カフェイン含量のきわめて低いコーヒーノキの品種作出に成功した報告。1987年からの交配による古典的な品種改良によってカフェイン含量が 0.076%(生豆乾重量:従来の品種では1.2%)というきわめて少ない、アラビカコーヒーノキの品種が得られた(約3000株のスクリーニングから3 株)この含量はヨーロッパにおけるデカフェの基準値(0.1%)をほぼ満たすものと考えられ、商用利用への応用が期待される。

これまで植物体のレベルでのカフェインレスに成功した例は、2004年に奈良先端大の佐野教授らのグループが遺伝子組換え技術を用いて作出した報告のみである。今回、古典的な交配によって作出できたことは世界初のことであり驚きを禁じ得ない。また、遺伝子組換えカフェインレスには、(1)カフェイン含量が従来の3分の1程度と、減ってはいたもののヨーロッパ基準を満たさない、(2)商業的価値の低いカネフォーラ種(ロブスタ)である、(3)遺伝子組換えであることに対する消費者の反発や耕地の問題、などの問題点があるのに対して今回の品種は優れていると言える。

ただし、今回の品種には一つだけ、しかし非常に致命的な問題点があった。それはカフェイン含量が減っている代わりに、カフェインの生合成前駆体にあたるテオブロミンが蓄積しているということである。つまりこのコーヒーは「カフェインレスだがテオブロミンリッチ」ということ。テオブロミンもまたカフェインと同じメチルキサンチン類化合物であり、カフェインときわめてよく似た薬理活性を示す化合物であるため、このコーヒーノキから得られたコーヒーを飲んだ場合にも、通常のものと同様の生理作用が現れる可能性がある。従って、医療上の問題からカフェインを避けるべき人はこのコーヒーも避けるべきとなる可能性が高い。前述の佐野教授らの遺伝子組換え植物は、この問題を避けるためテオブロミンの合成を阻害することで、カフェイン、テオブロミンを含むすべてのメチルキサンチン類の合成を抑制している。

今回の研究成果はこの点で実用に耐えないものである可能性が高い(むしろ「カフェインレス」という言葉のみが一人歩きしないよう流通させるべきではないと考える)が、育種によるカフェインレスの可能性を示した点で興味深い。次はメチルキサンチン類すべての含量が少ないコーヒーノキの作出に大いに期待したい。

農学/育種学:交配による品種改良:カフェインレスのコーヒーノキ(アラビカ種)の作出(重要度★★★★★)