コーヒーノキ属に含まれる種のリスト

Coffea属の植物学的な分類は、最近まで A. Chevalierが1947年に提唱したものに基づいて行われてきました。しかしそれ以降の新種の発見と、1990年代後半からの遺伝子研究の成果を踏 まえて、2006年にDavisが新しい分類群を提唱しています。それによると、現在Coffea属には103種が含まれています。

これは野生のコーヒーノキに関する植物学的な観点からは有用な資料ですが、あくまで「野生の」コーヒーノキに関する資料であって、そのほとんどはコーヒーとして飲用されていないものであり、一般的なコーヒー愛好者にとっては、あまり意味がない資料だとも言えます。しかしこれらの知識は、例えば我々が飲んでいるコーヒー(アラビカ種やカネフォーラ種)の起源を知るときには役に立つ部分があります。またコーヒー栽培の 現場では、品種改良によって、耐病性のコーヒーノキや、カフェイン含量の少ないものなどを作る試みが続けられていますが、そういった「遺伝的形質」の元に なるもの、すなわち「バイオリソース」として注目されている種もいくつか存在しています。

ここでは参考資料として、Davisによる分類を紹介し、そのうちのいくつかについて解説を行います。ほぼ命名年代に則してリスト化しています。解説は基本的にDavisらの記述に基づきます。

Coffea属の分類 (Davis 2006)

  • 属(genus)

    • Coffea(103種)

    • 亜属(subgenus)

      • Coffea(95種)アフリカ(41種)、マダガスカル(51種、コモロ諸島を含む)、マスカレン諸島(3種)に分布

      • Baracoffea(8種)マダガスカル島に分布

アフリカ大陸

Wクレードはアフリカ大陸西岸のギニア、コートダジュール(アイボリーコースト)、シエラレオネ付近から、東端はトーゴに届く範囲に分布する。この地域の北部には砂漠地帯があり、生息範囲は比較的海岸に近く、標高のあまり高くない地帯にあたる。その地理的分布はWCクレードと重なる部分が多く、両者の地理的な区別は必ずしも明確ではないため、研究者によってはWCクレードに含めて扱う場合もある。

2007年のMaurin, Davisらの遺伝子学的系統解析では、UGクレード(Upper Guinea clade, 北部ギニアクレード)という名称で扱われ、東端は"Dahomey Gap"(ダホメイ地峡?)と呼ばれるギニア森林地帯とコンゴ森林地帯の境目となる、乾燥したサバンナ地域である(ダホメイはベナンの旧国名)。遺伝子的には、地理的に隣接するLG/Cクレード(WCクレード)よりも、むしろ地理的に隔てられた東アフリカなど他のクレードに近く、EA-IOクレード(East Africa-Indian Oceanクレード)に含まれている。

Wクレード (West clade, UGクレード)

    • C. stenophylla G.Don (1834)

      • Wクレードで古くから知られる代表種。濃紫色の実をつける。多雨な常緑樹林に生息するが、その中では乾燥した斜面や、山の頭頂部などにのみ見られる。

    • C. affinis De Wild (1904)

      • 詳細は不明。C. libericaC. stenophyllaの中間的な形態であるため、両者の交雑種の可能性がある。

    • C. humilis A.Chev. (1907)

      • Coffea属の中では矮性。稔性のある実を滅多につけないが、部分的自家受粉が可能と言われる。

    • C. togoensis A.Chev. (1939)

      • Wクレードでは最東端のトーゴに分布する。

WCクレード (West-Central clade, LG/Cクレード)

WCクレードは、西側はアフリカ大陸西岸のギニア、リベリア、コートダジュールから、東側はグレートリフトバレー(西グレートバレー)に接するウガンダ、中央アフリカ、南はアンゴラ北部までの広い範囲の地域に分布する。この地域の中央には、カメルーン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ガボンなどが含まれ、リベリカ種、カネフォーラ種以外のものはほとんどこの中央部に分布する(このため、狭義にはこのエリアに生息するものをWCクレードとして扱い、Wクレードと分ける研究者もいた)。その西部ではWクレードの分布に重なり、また東部は西グレートバレーの北端(アルバート湖周辺)で、Cクレードと一部交わる。1990年代後半にStoffelenがカメルーンで行った研究調査の成果から、カメルーン産の種についての記載が多く、またこの地域では特徴のある種がいくつも見つかっている。比較的標高が低い地域に生育する種が多い。

2007年のMaurin, Davisらの遺伝子学的系統解析では、LG/Cクレード(Lower Guinea/Congolian clade, 南部ギニア/コンゴクレード)という名称で扱われる。他のCoffea属よりも早い段階で分岐が生じたと考えられ、LG/Cクレードを除くCoffea属が(Baracoffeaも含め)EA-IOクレードにまとめられている。LG/CクレードのものはPsilanthus属のうち、アジア(インド)に分布するものや、C. rhamnofolia (Eクレードに含められていた、アフリカ最東端の分布種)と近縁であることが示唆されており、Coffea属およびPsilanthus属の起源を知る上で重要だと考えられる。

    • C. brevipes Hiern (1876)

      • カメルーン南部から南の比較的広い範囲に分布。

      • クロロゲン酸類の中でジカフェオイルキナ酸の占める割合が特に高い(約20%)

    • C. liberica Bull. ex Hiern (1876)

      • リベリカ種。最初にリベリア周辺で発見されたためこの名がある。いわゆる「3原種」の一つだが、品質は高くなく病害にも弱い。世界的生産量は1%以下。Hiernが命名した1876年当時にすでにアフリカ各地でコーヒーとして栽培・現地で利用され、移植・帰化が進んでおり、本来の分布がどうだったのかは今では判らない。カネフォーラよりもやや標高が低く、やや乾燥した環境にも適応する。分類はかなり混乱しているが、Davis 2006では二つの変種(var. libericaとvar. dewevrei)にまとめられた。

        • C. liberica var. liberica

          • リベリカ種変種リベリカ。1874年に"Bull."が記述したものを1876年にHiernが命名した。

          • なおDavisの論文では最初の報告者名は"Bull."となっているため原文のまま表記したが、これはおそらくは"W.Bull"の誤り(ピリオドがない)。出典として記載されているのが "Retail list of beautiful and rare plants" 97:4 (1874)なので、その著者であるWilliam Bullのことだろう。同誌は少なくともロンドンで1866〜1888年に発行されている。"Bull."だと、Jean Baptiste François (`Pierre') Bulliard (1752-1793)のことになる。

        • C. liberica var. dewevrei (De Wild. & T.Durand) Lebrun (1941)

          • リベリカ種変種デウェブレイ。De Wild & T.Durandが1899年にC. dewevrei として報告したもので、いわゆる「エキセルサ」は広義にはこれを指す。Davis 2006では Lebrunの1941年の提案に従い、C. liberica var. dewevreiとし、さらに二つの品種に分けている。エキセルサはアラビカ種以外の中では高品質なものと評価されている。

          • C. liberica var. dewevrei f. dewevrei:上述のエキセルサは狭義にはこの品種を指す。

          • C. liberica var. dewevrei f. bwambensis Bridson (1982)

    • C. canephora Pierre ex A.Froehner (1897)

      • カネフォーラ種。1858年にBurtonとSpekeがビクトリア湖周辺で見つけたというのが最初の記述だが、1897年にガボンで発見されたものをJean Baptiste Louis Pierreが記載し、A. Froehnerが命名した。その後、1898年にコンゴで発見されてベルギーに持ち帰られ、1900年にC. robusta L.Lindenと名付けられた「ロブスタ」もこれと同一種であることが判明し、先行したC. canephoraの学名が正式なものとなる。「3原種」の一つで、いわゆる「ロブスタコーヒー」として世界中で栽培されており、世界の生産量の約20%に相当する。リベリカ種と同様、アフリカ各地での帰化が進んでおり本来の分布は判らない。比較的低地に多く見られるが、標高1500m程度までは生息することができる。やや乾燥した地帯(乾期のある地域)でも時折見られる。

      • サビ病に対する抵抗性があるため、サビ病が世界に蔓延した1861年〜1870年代以降、アラビカ種からの転作や交配が進められた。また虫害に対する抵抗性があることや、低地での栽培に向くことなども利点である。

      • アラビカ種と比べるとカフェインやクロロゲン酸類の含量が高い一方、糖類の含量が低い。このため苦味には優れるが酸味のバランスに欠ける。また「ロブスタ臭」と呼ばれる独特の匂いがあるため、品質的にはアラビカより劣るものとして扱われている。

      • Coffea属の中では特にクロロゲン酸類の量が多く、乾燥重量の11.3%に上る。また、(モノ)カフェオイルキナ酸の比率が低く、それ以外のクロロゲン酸類であるジカフェオイルキナ酸やフェルロイルキナ酸の占める比率が高い。特にフェルロイルキナ酸の比率は全クロロゲン酸類の13%に上り、Coffea属の中でも特徴的である。

      • アラビカ種の父方の祖先は、カネフォーラ種またはその近縁種であると考えられている(母方はC. eugenioides

    • C. congensis A.Froehner (1897)

      • コンゴで発見された種であり、一部は現地で栽培されていたものと考えられている。種内のばらつきが大きく、外見上はアラビカ種に似た部分が見られる。

    • C. mayombensis A.Chev. (1939)

      • ナイジェリアからアンゴラ北部までの広い地域に分布。

    • C. carrissoi A.Chev. (1939)

      • 詳細は不明。C. mayombensisと同一種の疑いがある。

    • C. kapakata (A.Chev.) Bridson (1994)

      • アンゴラ西部に分布。1939年にA. ChevelierによってPshilanthopsis kapakataとして発表されたが、Bridsonが1994年にCoffea属に再分類された。

    • C. charrieriana Stoff. & F.Anthony (1992)

      • カメルーンのバコシ山脈で発見された種。当初はC. 'bakkosi'とも呼ばれていたが、現在のC. bakkosi Cheek & Bridsonとは別種なので注意が必要。またW〜WCクレードでは唯一、カフェインを含まないという点も特徴的。

    • C. heterocalyx Stoff. (1997)

      • C. anthonyiC. arabicaと並び、Coffea属の中では極めて例外的な自家和合性を持つ種である。特に二倍体(2n=22)であることが明らかになっているものでこの性質を持つものは本種のみである。この性質からカネフォーラ種との交配実験(同一クレードの方が成功しやすいと言われる)や、自家和合性を司る遺伝子についての研究なども行われている。カメルーンのヤウンデ地区で発見された。

    • C. leonimontana Stoff. (1997)

    • C. magnistipula Stoff. & Robbr. (1997)

    • C. montekupensis Stoff. (1997)

      • 上3種はともにカメルーンで発見された。

    • C. dactylifera Robbr. Stoff. (1999)

      • コンゴ民主共和国中央の森林地帯で発見された。

    • C. bakkosi Cheek & Bridson (2002)

      • カメルーンのバコシ山脈およびクペ山に分布。C. libericaおよびC. montekupensisと同所性であるため両者の自然交雑種の可能性がある。

    • C. fotsoana Stoff. & Sonké (2004)

      • カメルーン南西部で発見された。

    • C. mapiana Sonké, Niguembou & A.P.Davis (2006)

      • 南カメルーンで発見された。

    • C. anthonyi Stoff. & F.Anthony ined.

      • 1992年にF.Anthonyがカメルーン南部で発見し、Coffea 'sp. Moloundou'と仮称していた種。Coffea属の中では極めて例外的な自家和合性を持つ種である(他はC. arabicaC. heterocalyxのみ)。ただし倍数性については不明。

      • C. anthonyiは地理的には明らかにWCクレードに属するが、遺伝子解析を行うとCクレードのC. eugenioidesと非常に近縁であるという結果が得られている。このため遺伝子解析研究ではCクレードに含められている場合がある。この両者の近縁関係はC. eugenioidesの起源や、その子孫となったC. arabicaの自家和合性の獲得などにも関連する可能性がある、興味深いテーマの一つである。

Cクレード (Central clade, E-CAクレード)

Cクレードは、東リフトバレーと西リフトバレーの間に位置し、多くの巨大な湖に囲まれた比較的狭い高地に分布する。Cクレードの北西端のアルバート湖周辺でWCクレードの一部と交わる。また地理的分布からはエチオピア南西部に自生するアラビカ種もCクレードに含める場合がある。Cクレードに含まれる植物種は極めて少なく、研究者によってはC. eugenioides一種のみとすることもあった(この場合、C. kivuensisC. eugenioidesの変種として扱われた)。このバリエーションの少なさには、この地域が周辺から隔絶され、かつ生育可能種が限られる環境であることと、研究調査がまだ進んでないことの二つの理由が考えられる。

2007年のMaurin, Davisらの遺伝子学的系統解析では、E-CAクレード(East-Central Africa clade)の名称で、他の東アフリカのものとまとめた広義のEAクレードの中の小グループとして扱われている。上述のように、この遺伝子学的研究でも、C. anthonyiもE-CAクレードに分類されている。

    • C. arabica L. (1753)

      • アラビカ種。初めてヨーロッパに持ち込まれたコーヒーノキで、オランダ・アムステルダムの植物園に持ち込まれたその最初の標本に対してリンネが学名を付けたものである。

      • いわゆる3原種の一つであり、全世界で栽培され、その生産量の80%を占める。各地で栽培されているが、自生域はエチオピア南西部の高地の極めて限定されたエリアである。標高が高く気温が低い地域を好む。

      • アラビカ種はCoffea属の中で唯一の四倍体 (2n=4x=44) であり、また自家和合性を持つという点でも極めて例外的な存在である(他はC. anthonyiC. heterocalyxのみ)。

      • アラビカ種は栽培されているコーヒーノキの中ではもっとも品質が高いとされる。その反面、病虫害に弱いという欠点があり、これを補うためにカネフォーラ種との交配が行われてきた。カネフォーラ種は二倍体(2n=2x=22)であるため、通常の条件では四倍体であるアラビカ種との交配は不稔だが、四倍体化したカネフォーラ種とアラビカ種との交配は可能である。自然に生じた交雑種であるハイブリド・デ・ティモールや人工交配したアラブスタなどが作成され、さらに新品種の育種に用いられてきた。

      • アラビカ種は、母方にC. eugenioidesまたはその近縁種、父方にC. canephoraまたはその近縁種を持つ、複二倍体に由来することが近年の遺伝子解析から明らかになっている。

    • C. eugenioides S.Moore (1907)

      • ユーゲニオイデス種。1898年にA. Froehnerがアラビカ種の一変種(C. arabica var. intermedia)として報告したが、後にS.Mooreが別種として記載した。ブルンジ、ルワンダ、コンゴ民主共和国、スーダン、タンザニア、ケニア、ウガンダの、比較的標高の高い地域に分布する。多雨な常緑樹林帯だけでなく、乾期のある落葉樹林帯や、サバンナなどにも生育していることがある。

      • 押し葉標本の記載によると、現地でコーヒーとして用いられる他、槍の柄や杖にも利用されているという。

      • ユーゲニオイデス種はカフェインの含量がアラビカ種の数分の1程度である。これは植物中に蓄積したカフェインを代謝する酵素の活性がアラビカ種よりも高いことによる。

      • ユーゲニオイデス種もしくはその近縁種が、アラビカ種の母方の祖先に当たると考えられている(父方はC. canephora

    • C. kivuensis Lebrun (1932)

      • コンゴ民主共和国東部のキブ湖の周辺にのみ生息する。C. eugenioidesの一変種と扱われたこともあった。

Eクレード (East clade, EAクレード)

Eクレードは東リフトバレー以東の東アフリカ地域に広がり、その大部分はケニアとの国境付近を含むタンザニアより南の地域に見られる。この地域には大陸中央部やタンザニア内陸部の標高が高い地帯と海岸沿いの標高が低い地帯、多雨地帯と乾期のある地帯とが含まれ、生息するCoffea属もこれらのそれぞれ地帯に適応しており、他のクレードと比較してバリエーションに富んでいるとも言える(下図参照)。1982年からBridsonがタンザニアで行った研究調査から、タンザニアでの種の記載が多い。Bridsonの調査では当初Coffea 'sp. A'からCoffea 'sp. K'という仮称が与えられており、論文によってはこの表記をそのまま採用している場合がある。

2007年のMaurin, Davisらの遺伝子学的系統解析では、EAクレード(East Africa clade)という名称で扱われ、この中に上述のE-CAクレードも広い意味では含まれる。

      • C. racemosa Lour. (1790)アフリカ東南部(モザンビーク、ジンバブエ)に分布。モザンビーク海峡の島にも分布が見られる。乾期のある落葉〜常緑樹林帯で多くは海岸沿い(砂丘も含む)の地帯に生える。耐病性が高く、育種材料として注目された。

    • C. zanguebariae Lour. (1790)

      • タンザニア南部からモザンビークの低地に分布。

    • C. ligustroides S.Moore (1911)

      • ジンバブエ東部のやや標高の高い地帯に分布。

    • C. rhamniflora (Chiov.) Bridson (1983)

      • 1916年にソマリアで発見され、Pleotronia rhamniflora Chiov.と命名されたが、後にCoffea属に再分類された。他のCoffea属とは地理的に少し離れたところに分布し、アフリカ大陸のCoffea属の中では最東端に分布する。ソマリア南東部からケニア北東部にかけての低地に生息し、乾燥した地帯を好み、砂丘にあるアカシアのしげみなどにしばしば見られる。

      • Coffea属の中で特にクロロゲン酸類の含量が低く、生豆乾燥重量の0.14%程度である。その100%が(モノ)カフェオイルキナ酸である。

    • C. salvatrix Swynn. & Phillipson (1936)

      • マラウィ、モザンビーク、ジンバブエの高地に分布。カフェインの含量が極めて低い種であるが、C. eugenioidesとは異なりカフェインの生合成スピード自体が遅いことによる。

    • C. fadenii Bridson (1982)

      • タンザニアとケニア国境付近のパレ山、標高が高く湿潤な雲霧林に分布する。

    • C. mongensis Bridson (1982)

      • タンザニア東部の高地に分布。

    • C. mufindiensis Hutch. ex Bridson (1982)

      • タンザニア以南の標高の高い常緑樹林帯に分布。A.Chevalierが1947年にC. nufindiensis Hutch. ex A.Chev.と命名していたがスペル間違いのためBridsonの命名が採用されている。以下の4つの亜種を含む。

      • C. mufindiensis ssp. mufindiensis

      • C. mufindiensis ssp. australis Bridson (1982)

      • C. mufindiensis ssp. lundaziens Bridson (1982)

      • C. mufindiensis ssp. pawekiana (Bridson) Bridson (1986)

    • C. pseudozanguebariae Bridson (1982)

      • C. zanguebariaeに似るが、より北部のタンザニアからケニアにかけての、主に海岸沿いの低木林に分布。

    • C. sessiliflora Bridson (1986)

      • 1982年にBridsonが発見し Coffea 'sp. A'と仮称していた種。ケニアからタンザニアの海岸沿い、または川岸の低地に生息する。以下の2つの亜種を含む。

      • C. sessiliflora ssp. sessiliflora

      • C. sessiliflora ssp. mwasumbii Bridson (1986)

    • C. kimbozensis Bridson (1994)

      • 1988年にBridsonがCoffea 'sp. A'として報告していたもの。タンザニア東部モロゴロ地区の常緑樹林帯に分布。

    • C. lulandoensis Bridson (1994)

      • 1982年に発見しCoffea 'sp. C'と仮称していたもの。中央タンザニアの比較的標高の高い地帯に分布。

    • C. schliebenii Bridson (1994)

      • 1982年にBridsonが発見しCoffea 'sp. D'と仮称していたもの。タンザニア南東部の比較的乾燥した低地に分布。

    • C. pocsii Bridson (1994)

      • 1982年にBridsonが発見しCoffea 'sp. E'と仮称していたもの。タンザニア東部モロゴロ地区周辺の常緑樹林帯に分布。

    • C. costatifructa Bridson (1994)

      • タンザニア東部のやや乾燥した低木林に分布。1980年に発見されC. racemosaの変種として考えられていた。1982年からのBridsonによる調査ではCoffea 'sp. F', 'sp, K', 'sp. J'と仮称されていたものが、すべて本種に統一された。

    • C. bridsoniae A.P.Daivs & Mvungi (2004)

      • 1982年にBridsonが発見しCoffea 'sp. B'と仮称していたもの。タンザニア北東部に分布。

    • C. kihansiensis A.P.Davis & Mvungi (2004)

      • 中央タンザニアのキハンシ川流域に分布。

マダガスカル島とマスカレン諸島

Coffea属はアフリカ大陸以外では、マダガスカル島と、インド洋上のマスカレン諸島に分布しており、これらはMクレードとして大別されている。いずれも比較的早い時期にアフリカ大陸から渡ってきたCoffea属が、それぞれの島で独自の分岐をしたと考えられている。

マダガスカル島はアフリカ大陸の東南に位置し、キツネザルやバオバブなどに代表されるように、独自の生態系が確立された地域である。Coffea属についてもアフリカ大陸以上にさまざまな種のものが分布している。50種のCoffea亜属と8種のBaracoffea亜属のものが生息し、そのすべてがマダガスカル島の固有種である。またBaracoffea亜属は世界中でマダガスカル西部にのみ分布している。多くの種類が報告されている理由は、マダガスカルが気候や地形の変化に富み、それぞれの地域に適応していった結果であることとともに、その独自の生態系に注目されているために研究調査が進んでいることが挙げられる。特に重要な調査としては、1900年頃のDubardによるもの、1960年初頭のJ.-F.Leroyによるもの、2000年頃のA.P.Davisによるものがあり、それぞれ多くの新種が発見された。またマダガスカルの北に位置するコモロ諸島には、固有種であるC. humblotiana1種のみが分布している。

2007年のMaurin, Davisらの遺伝子学的系統解析では、マダガスカル島のCoffeaCoffea亜属、CoffeaBaracoffea亜属はMadクレードというクレードにまとめられている。

Mクレード (Madagascar clade, MadおよびMASクレード)

      • C. resinosa (Hook.f.) Radlk. (1883)1873年にHookerが発見しBuseria resinosaと命名した種。マダガスカル東部海岸沿いに生息。

    • C. commersoniana (Baill.) A.Chev. (1938)

      • 1879年にHenri Ernest Baillonが発見し、Hypobathrum commersonianumと命名した種。マダガスカル南東部の海岸に分布。

    • C. boiviniana (Baill.) Drake in Grandid. (1897)

      • 1880年にBaillonが発見し、Pleurocoffea boivinianaと命名した種。マダガスカル北〜北西部に分布。以下の2亜種を含む。

      • C. boiviniana ssp. boiviniana

      • C. boiviniana ssp. drakei J.-F.Leroy (1962)

    • C. pervilleana (Baill.) Drake in Grandid. (1897)

      • 1880年にBaillonが発見し、Solenixora pervilleanaと命名した種。マダガスカル北部の常緑樹林帯に分布。

    • C. humbloriana Baill. (1885)

      • コモロ諸島のグランドコモロ島に分布する固有種。

    • C. bonnieri Dubard (1905)

    • C. gallienii Dubard (1905)

    • C. mogenetii Dubard (1905)

    • C. augageneurii Dubard (1905)

      • 上記4種はDubardの研究調査によりマダガスカル北部の比較的標高の高い常緑樹林帯で発見された。

    • C. alleizettii Dubard (1907)

      • 同じくDubardにより中央マダガスカルで発見された。

    • C. perrieri Drake ex Jum. & H.Perrier (1910)

      • 1898年から1904年にかけて、いくつかの地域で集められた7つの標本に対して一つの標本番号が付与されたもので、生息域は不明。

    • C. tetragona Jum. & H.Perrier (1910)

      • マダガスカル北西部に分布。

    • C. buxifolia A.Chev. (1929)

      • 中央マダガスカルの高地に分布。

    • C. dubardii Jum. (1933)

      • マダガスカル北〜北西部に分布。

    • C. bertrandii A.Chev. (1937)

      • マダガスカル南部に分布。

    • C. lancifolia A.Chev. (1938)

      • マダガスカル東部に分布。以下の2変種を含む。

      • C. lancifolia var. lancifolia

      • C. lancifolia var. auriculata J.-F.Leroy (1962)

    • C. arenesiana J.-F.Leroy (1961)

    • C. homollei J.-F.Leroy (1961)

    • C. millotii J.-F.Leroy (1961)

    • C. richardii J.-F.Leroy (1961)

    • C. andrambovatensis J.-F.Leroy (1962)

    • C. betamponensis Portéres & J.-F.Leroy (1962)

    • C. vatovavyensis J.-F.Leroy (1962)

    • C. vavateninensis J.-F.Leroy (1962)

    • C. kianjavatensis J.-F.Leroy (1972)

      • 上記9種はLeroyらによる調査によってマダガスカル東部で発見された。

    • C. coursiana J.-F.Leroy (1961)

      • 同上。二つの亜種を含む。

      • C. coursiana ssp. coursiana

      • C. coursiana ssp. littoralis J.-F.Leroy (1962)

    • C. abbayesii J.-F.Leroy (1961)

    • C. farafanganensis J.-F.Leroy (1961)

    • C. mangoroensis J.-F.Leroy (1962)

    • C. viannyi J.-F.Leroy (1962)

      • 上記4種はLeroyらの調査でマダガスカル南東部で発見された。

    • C. tricalysioides J.-F.Leroy (1961)

    • C. heimii J.-F.Leroy (1962)

    • C. jumellei J.-F.Leroy (1972)

    • C. tsirananae J.-F.Leroy (1972)

      • 上記4種はLeroyらの調査でマダガスカル北部で発見された。

    • C. sahafaryensis J.-F.Leroy (1961)

      • Leroyらの調査でマダガスカル北東部で発見された。

    • C. ambanjensis J.-F.Leroy (1961)

      • Leroyらの調査でマダガスカル北西部で発見された。

    • C. sakarahae J.-F.Leroy (1962)

      • Leroyらの調査でマダガスカル南部で発見された。

    • C. fragilis J.-F.Leroy (1961)

      • Leroyらの調査で発見されたが、マダガスカル産であること以外は不明

    • C. leroyi A.P.Davis (2000)

    • C. liaudii J.-F.Leroy ex A.P.Davis (2000)

    • C. montis-sacri A.P.Davis (2001)

    • C. rakotonasoloi A.P.Davis (2001)

      • 上記4種はDavisらの調査でマダガスカル東部で発見された。

    • C. littoralis A.P.Davis & Rakotonas (2001)

    • C. mcphersonii A.P.Davis & Rakotonas (2001)

    • C. sambavensis J.-F.Leroy ex A.P.Davis (2001)

    • C. vohemarensis A.P.Davis & Rakotonas (2003)

      • 上記4種はDavisらの調査でマダガスカル北東部で発見された。

    • C. manombensis A.P.Davis (2000)

    • C. minutiflora A.P.Davis & Rakotonas (2003)

      • 上記2種はDavisらの調査でマダガスカル南東部で発見された。

    • C. ankaranensis J.-F.Leroy ex A.P.Davis (2001)

    • C. ratsimamangae J.-F.Leroy ex A.P.Davis (2001)

      • 上記2種はDavisらの調査でマダガスカル北部で発見された。

    • C. moratti J.-F.Leroy ex A.P.Davis (2001)

      • Davisらの調査でマダガスカル西部で発見された。西マダガスカル唯一のCoffea亜属。

またマダガスカルの西部および南西部にはBaracoffea亜属が分布する。Baracoffea亜属とCoffea亜属の分布は、ほぼ棲み分けられている。

    • C. grevei Drake ex A.Chev. (1938)

    • C. decaryana J.-F.Leroy (1961)

    • C. ambongensis J.-F.Leroy ex A.P. Davis & Rakotonas (2005)

    • C. bissetiae A.P. Davis & Rakotonas ined.

    • C. boinensis A.P. Davis & Rakotonas ined.

    • C. labatii A.P. Davis & Rakotonas ined.

    • C. pterocarpa A.P. Davis & Rakotonas ined.

      • 上記7種はマダガスカル西部に分布

    • C. humbertii J.-F.Leroy (1961)

      • マダガスカル南西部に分布

マダガスカルの東に位置するモーリシャス諸島のうち、レユニオンとモーリシャスには三種のCoffea属がそれぞれ発見されており、これらもそれぞれの島の固有種である。これらの島々での発見の歴史は古く、18世紀の終わりには既に報告がある。

旧来はMクレードに含められることもあったが、2007年のMaurin, Davisらの遺伝子学的系統解析では、一応、MASクレード(Mascarene clade)として独立に扱われている。ただしMadクレードとの近縁関係は深く、マダガスカルから伝播したものに由来する可能性が高いとされる。

    • C. mauritania Lam. (1785)

      • モーリシャス、レユニオンに分布。アラビカ種に次ぎ、二番目に古く発見されたもの。

    • C. macrocarpa A.Rich. (1834)

      • モーリシャスに分布。形態が多様であり、今後の調査が必要とされる。

    • C. myrtifolia (A.Rich. ex DC.) J.-F.Leroy (1984)

      • Achille Richardが記載していたものに、1830年にAugustin Pyramus de CandoleによってNescidia myrtifoliaと命名されていた種。モーリシャスに分布。

絶滅の危機にあるCoffea属

Davisによる分類の論文ではさらに、ほとんどのCoffea属の植物種が絶滅の危機に瀕していることを報告しています。以下はIUCNレッドリスト(2001)に基づく分類です。

なお、この表ではC. arabicaが"Vulnerable"(危急)に分類されていますが、これはエチオピア南部の、いわゆる「野生の」アラビカ種についてのことです。もちろん商業的に栽培されているものについてはこの限りではありません。

遺伝子学的系統分類

上記のCoffea属の植物が進化上、どのような過程で生じてきたかを知るために、それぞれの遺伝子がどの程度似通っているか、遺伝子学的な系統解析が行われています。2007年にMaurinらは、上記の分類体系を提唱したDavisらとの共同研究で、多数のCoffea属を用いて、細胞核DNAとプラスチドDNAから複数のマーカー領域の配列を比較し、系統樹を作成しています(右図) この研究結果によって、従来用いられてきた地理的分布に基づく系統分類が、遺伝子学的にも(一部例外となるものを除いて)概ね妥当なものであったことが明らかになりました。この系統解析では、Coffea属だけでなくアフリカとアジア(インド)のPsilanthus属や、これらとはやや遠いながら同じくアフリカに生息するアカネ科植物のTricalysia属(沖縄や台湾に分布するシロミミズという植物の仲間)とも同時に解析が行われました。その結果、CoffeaPsilanthusの共通の祖先は、早い時期に他のアカネ科植物から分岐した後、アフリカのPsilanthus属と分岐し、その後Coffea属の祖先となるものから、(1) LG/Cクレード、C. rhamnifolia、アジアのPsilanthusの共通祖先、(2)東アフリカインド洋クレードの、2つの系統に分岐したことが示唆されました。Psilanthusが単系統とならず、少なくともアジアとアフリカの2系統から構成され、しかも地理的に大きく離れたアジアのPsilanthusと、西中央アフリカ低地産のLG/Cクレード、アフリカ大陸最東端に分布する低地産のC. rhamnifoliaが近縁であることが示唆されたことは、CoffeaPsilanthusの分類の見直しや、それぞれのルーツがどうなっているのかを考える上で、重要な知見を与えるものになります。ただし、そのためには今後Psilanthus属の植物について、より多くのデータが蓄積されることが必要だと考えられています。またこの結果から、Wクレードとして分類されていた西アフリカのグループ(UGクレード)が、隣接するLG/Cクレードとは乖離しており、むしろ東〜中央アフリカのグループに近いものであることも示されています。UGクレードは西アフリカのギニア森林地帯に見られますが、この森林地帯の東側はDahomey gapと呼ばれる、ベナン周辺のサバンナ地帯で一旦途切れ、gapの東側に広がるコンゴ森林地帯とは直接つながってはいません。このようにDahomey gapが植物の分布を断絶させている例はこれまで報告がなく、このCoffea属が初めての報告になっています。これは他の植物などの地理的分布を考える上でも、興味深い発見だと言えるでしょう。なお、この系統樹の中にはC. arabicaは含まれていません。C. arabicaについてはこの解析でもC. eugenioidesC. canephoraの合の子であることが確認され、核DNAとプラスチドDNAのどちらで解析するかによって系統樹上での位置が変わってくるためです。