キレ

キレはしばしば、コクと相対する味わいとして表現されます。コクが持続性を持った味わいであるのに対して、キレは最初に感じていた強い味が短時間のうちにすっきりと消え、後に爽快感を感じさせるような味わいを指すことが多いようです。また「キレのある味」は、このような味わいを持つことに加えて、それがしばしばその食品の味全体を代表する、一本筋の通ったシンプルなものであるという特徴を持ちます。この点でも、味の複雑さの上に成り立ち、しかもその味自体の姿形がはっきりとはしないコクとは対極にあるように思われます。このためコクとキレの両立は一般に難しいのですが、「コクがあるのにキレがある」という言葉に見られるように、両方の味わいを同時に満たすことも可能であり、「相対する」味わいではあっても、必ずしも「相反する」ものではない味わいだと考えられます。

コクがさまざまな食品について語られ、重要視されているのに対して、キレが重要視されている食品というのは多くはありません……というより、一般に「キレ」が語られるのは、ビールなどのアルコール類やコーヒーくらいであり、どちらも「食品」というよりは「飲み物」にあたります。

キレの要因やその解釈については、これまでのところ、あまり踏み込んで考えられてきてはいません。しかし、コクの要因として2番目に挙げた「味の持続性」についての考え方が、キレに関する考え方のベースとなり、同じような味でも持続時間が短いものはキレを感じさせるものになると思われます。このような時間的要素だけでなく、上述のように、その味要素自体が食品の味の中で「際立った」存在であることも、キレには重要でしょう。また次に述べる「のどごし」の味や感覚も、キレを感じるための重要な要素の一つだと考えられます。

前(コク)< >次(のどごし)