匂い物質

ヒトが匂いを感じる元となる化学物質、すなわち匂い物質はきわめて多く、数万種類とも数十万種類とも言われています。またその化学構造も多様であり、共通した立体構造のようなものは認められません。

ただし唯一共通する性質として、常温ないし体温付近の温度で、ごく微量でもいいので気体になりうるということが挙げられます。つまり元々、常温で気体として存在するものか、あるいは揮発性がある化合物が匂い物質になりえます。

一般には、分子量の小さい低分子の方が、分子量の大きい物質よりも揮発性が高いため、匂い物質には比較的低分子のものが多い傾向があります。また、エーテル類やエステル類などのように、比較的疎水性の高い低分子には、特徴的な匂いを有するものが多く存在します。例えば、さまざまな植物に含まれる精油成分は揮発性が高く、典型的な匂い物質として知られています。ただし、気体であることや揮発性があることだけで匂い物質になるわけではなく、これ以外にも何らかの特徴がある立体構造を持つことが必要です。例えば、窒素や二酸化炭素などはいずれも気体ですが、無臭であり、匂い物質ではありません。一方、硫黄分子や窒素分子を含む低分子の有機化合物(ヘテロ化合物)には、独特の匂いを持つものが多く知られています。

なおヒトを含めた陸上の動物では、このように匂い物質は空気に混じった状態で嗅覚器に到達する必要がありますが、一方、魚類などの場合、匂い物質は水に溶けた形で作用する必要があります。

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