・登録に関していただいた声
「伝統的な酒造り」が、2024年11月4日にユネスコ無形文化遺産に関しての勧告があり、ほとんど登録が間違いないと言われておりましたが、12月5日を迎えるまでは確信が持てませんでし た。発表は南米のパラグアイ共和国で行われたので時差は12時間であります。5日の早朝3時43分に満場一致で登録が決定された瞬間は何とも表現できない喜びに包まれました。
本来ならばパブリックビューイングにおいて多くの方々と喜びを分かち合いたいところでありましたが、真夜中でもありましたので関係者が中心になったライブビューイングでありました。決定後にユネスコ大使である加納雄大大使が宣言文を読まれました。その後法被姿の現地の方々とともにライブビューイングの会場である日本の酒情報館に集まったメンバーで乾杯をさせていただきました。「伝統的酒造り」にとって記念すべき瞬間でありました。
その後12月8日にお祝いの会が、兵庫県の伊丹市立ミュージアムにある重要文化財にも指定されている築350年を迎える旧岡田家住宅の酒蔵内で行われたことも大変意義深いものでありました。
その時にいただいた声をいくつかご紹介させていただきます。まず私が大変うれしかったのは、「この登録は、酒類業界全体が喜べるニュースであり、このようなニュースは大変少ない中で素晴らしいことですよ」と言っていただいたことです。一部の企業や一部の地域にプラスになる話題はよくありますが、「伝統的な酒造り」として日本酒、本格焼酎・泡盛、それに本みりんがその恩恵を蒙ることになり、北は北海道から南は沖縄までの各蔵元に該当するからであります。次に東大名誉教授の北本かつ彦先生が、今世間一般では「乳酸菌」については話題にもなるし、知っている方も多いが、國菌といわれる「こうじ菌」を知っている方は多くないのが現状である。この登録を機会にして多くの方がこうじ菌を知るきっかけになれば有難いとおっしゃいました。これも私にとって、今回の登録が「こうじ菌」で括ったことのすばらしさとそれを広める難しさにも関係して大変感銘深いものでありました。
・登録までの紆余曲折
当初はユネスコ無形文化遺産に登録して何のメリットがあるのかというお声もいただいておりましたが、この登録は各商品に与えられるものではなく、「技の伝承」に与えられるものであるということではっきりしておりました。またこの登録申請の母体になる保存会の会員はあくまでも個人ベースであり、企業や団体は該当しないといわれました。そのために諸活動をする経費を各会員から寄付を集めることになりました。会員には800名近くの方になっていただいておりましたが、その多くが賛同していただき、活動費に充てることができました。またユネスコは国連の活動でありますので当たり前ですがSDGsの原則が大変重視されました。そのために女性が酒蔵の中で活躍していることが明記されました。
・今後の展開について
今回の登録はあくまでもスタート地点にたっただけであるのは周知の事実であります。こうじ菌について先人達が築いてきた技術をしっかり伝承しながら、いかにして現在あるいは将来に通じる展開を極めていくかが大事であります。こうじ菌で括った「伝統的酒造り」の日本酒、本格焼酎・泡盛、本みりんが持っている歴史的背景、文化的背景はそれぞれ違います。今後は各酒類がその魅力を発揮して、国内に留まらずに世界の方々に愛飲していただける展開ができればと思います。2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから世界における和食店が3倍になったと言われております。我々も地道にこうじ菌の魅力を啓発しながら日本酒、本格焼酎・泡盛を世界の方々にもっと飲んでいただけるようにしていきたいと考えます。
引き続き皆様の応援を心からお願い申し上げます。
皆さんもご存知のように、2019年、日本酒にまつわる歴史、文化も含んだ総合的な知見を集め、新たな学問分野を創造していこうという目的のもと、日本酒学研究会が設立されました。その直後、コロナ禍に見舞われ、会員相互の交流が難しくなる中、会員に対して少しでも情報発信をしたいのですが、それを手伝ってもらえないかとの打診が理事会からありました。
私自身、長年、日本酒業界関係者の方々に、インタビューという形で情報提供を受け、その結果を研究成果としてまとめたことにより博士号を取得させてもらったので、少しでも業界に恩返しできればと思っていました。その反面、現在、若い研究者は一定の研究成果を求められるプレッシャーを抱えています。そこで、日本酒学研究会が、高い研究水準を有する学会として認められるために、査読ありの論文を掲載する会誌を作りませんか、と思い切って提案したところ、後藤奈美会長をはじめ、理事会の方々から「ぜひに」という話になりました。
ところが、自分は学会誌の編集委員の経験はなく、今思えば自分の力を顧みない、無茶な提案をしたものだと思っています。査読・投稿規定や投稿のひな形、編集委員会の体制等、本当に手探りで、理事会、事務局、査読者、そして気持ちよく初代編集委員をお引き受けくださった岸保行先生、藤田晃子先生に支えていただき、何度もオンラインの打ち合わせを繰り返しつつ、ようやく3号まで発刊された次第です。本当に感謝申し上げます。研究会誌としては、まだまだ発展途上ではありますが、奥深い日本酒学の世界が、『日本酒学ジャーナル』があることによって明確化されていくのではないかと思います。
引き続き、会員のみなさまからのご投稿をお待ちしています。