メールマガジン第6

(202241日発行)

【エッセー】

「ベトナムで造り続けるSAKEと焼酎」

才田 善郎(Hue Foods Company, Ltd.)

1995年よりベトナムで清酒と焼酎を造り続けているHue Foods Company(フエフーズ)をご存じでしょうか。弊社はベトナムの中部に位置する土地のフエに会社を構えています。中世には王朝として栄えていたベトナム版京都というイメージを持っていただけたらと思います。このフエは上皇様、天皇陛下が訪越した際にも訪れた地であり、一度献上させていただいたこともあります。

創業はわたくしの祖父であり、サイタホールディングス(株)の会長(当時)の才田善彦です。サイタホールディングスは福岡を地盤にした土木・砕石業を中心に行っている福岡証券取引所に上場している企業です。善彦は酒造りをすることを夢に持っていましたが、日本国内での新規参入が認められません。しかし、土木業関連の視察でベトナムを訪問した際に、この地でできるのではと考え酒蔵へ事業がスタートしました。現在では日本人2名(経営管理1名、杜氏1名)とベトナム人従業員80名の会社にまで成長しました。創業時から定年まで勤めた社員や、女性社員も多く、現地の雇用に貢献できていると自負しています。2年前より掲げたフエフーズのビジョンは、「ベトナムから世界へ、新しいベトナムの酒文化を造る」です。アジア各国に存在する「米」を原料とした醸造酒、蒸留酒の一つとして、「日本酒」「焼酎」があります。ベトナムでSAKEと焼酎として浸透させていく企業として、このビジョンは日本酒と焼酎の世界をもっと広めていきたいという思いが込められています。

SAKE、焼酎を造り続けて20年以上が経った現在において、フエフーズが直面している課題について述べます。フエフーズの商品は主に日本食レストランで見ることができます。一方で、現地のレストランや多国籍のレストランでは伸びてきているもののまだまだこれからという認識です。弊社のSAKEが売れている理由も、日本から来た日本酒より安いからという認識がまだ強いと分析しています。今後は、ベトナムの食事に合っていることを訴求ポイントとしてSAKEとして認知度を上げていく活動へのシフトを行っていきます。焼酎も同様で、日本でいう甲乙混和焼酎は地元の酒屋で流行っており、偽物が出回るほどです。けれども、焼酎と認識されて飲まれているのではなく、ウォッカより安い、Made by Japaneseだからという理由で飲まれています。まず、「焼酎とは何か」「ウォッカなどのスピリッツとどう違うか」について理解してもらい、焼酎としてベトナムで認知度を上げていく活動をしていく方針です。

日本酒の海外での需要は今後も伸びていくと思いますが、コロナ禍でコンテナが取れず出荷できないという話を最近耳にします。それはアフターコロナにおいてもコンテナ・船の需要は減らず今後も物流面で日本の酒類の輸出には厳しい局面が続くと考えています。この点では、現地で東南アジアに拠点をもっているフエフーズにとってはチャンスと睨んでいます。解決すべき課題は、ベトナム産の清酒・焼酎であることのストーリー性です。弊社で使用しているベトナム産の長粒米の特徴は水分が少なく、鉄分を多く含んでおり、日本酒でいうところの美味しい麹作りには完全に不向きです。しかし、その特徴を活かした新しいSAKEや焼酎が造れる可能性があると感じています。その品目は清酒、本格焼酎ではないかもしれませんが、新しい日本酒、焼酎の文化としてのストーリーを提供していきたいと考えています。上記の課題が解決できたとき、日本酒・焼酎と差別化された形でフエフーズのSAKEと焼酎が世界で飲まれていくと考えています。

これまで日本国内で販売していくにあたり、「ベトナムの製品だから不安」、「ベトナム産がおいしいわけがない」と差別的な言葉に悔しい思いをしました。しかし、2019年には米焼酎がモンドセレクション金賞受賞、2022年にはKura Masterで最高賞のプラチナ賞を受賞するなど世界的な評価をいただけるようになってきました。日本に負けないSAKE、焼酎を造り続けることが、日本酒、焼酎の未来につながると信じてこれからも精進したいと思います。

【ちょこっと日本酒学】

「新潟大学日本酒学センター編『日本酒学講義』(ミネルヴァ書房)刊行に寄せて」

岸 保行(新潟大学)

 新潟大学日本酒学センターは、世界初の学問分野「日本酒学」の確立に向けた取り組みとして、日本酒学のコンセプトに基づいたテキスト『日本酒学講義』を出版いたしました。本書は、新潟大学で全学の学生を対象として実施している一般教養科目「日本酒学A-1」、「日本酒学A-2」の講義内容を収録しています。

 本書は、全体が5部構成になっています。第1部は「日本酒の基礎」として、日本酒の概論(1章)と歴史(2章)の解説がまとめられています。第2部では「日本酒と地域」と題して、日本酒の地域性と新潟の特徴(3章)や日本酒の多様性(4章)が解説され、さらには新潟清酒業界のこれまでの取り組み(5章)が紹介されています。第3部は、「日本酒と科学」と題して、食とのペアリングの科学(6章)、日本酒と健康(7章)やアルコールと脳との関係性(8章)について解説されています。第4部は「日本酒と社会」と題して、日本酒酒蔵の近年の企業行動の特徴(9章)やグローバル展開(10章)さらには酒税(11章)の解説がまとめられています。第5部は「日本酒と文化」と題して、日本酒の楽しみ方(12章)や世界のアルコール飲料の中での日本酒(13章)、さらには日本酒と花街・料亭文化(14章)の解説がおこなわれています。各部の最後には、それぞれの部の内容に沿ったコラムが入っており、最新の日本酒の研究成果がコンパクトにまとめられています。本書を読み終えるころには、日本酒学の奥深さと日本酒への新たな眼差しを獲得できるでしょう。

 ぜひ、本書をお手に取っていただき、世界初・新潟大学発でスタートした日本酒学講義を追体験していただき、日本酒の魅力を再認識・再発見していただくことを期待しております。そして、この本の読者が、日本酒学(Sakeology)という新しい学問の発展のための応援団となっていただくことを心からお願いする次第です。

※出版社ウェブページ https://www.minervashobo.co.jp/book/b600849.html

(2022年4月10日発行、ISBN978-4-623-09318-2)

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