9月講座ルポ

Post date: Feb 3, 2013 9:39:18 AM

◆9月講座ルポ

◇講師:誉田哲也(映画『武士道シックスティーン』『ストロベリーナイト』、ドラマ『ジウ 警視庁特殊犯捜査係』原作者、ホラーサスペンス大賞特別賞受賞)

◇ゲスト

・高松紀仁(中央公論新社文芸局第二編集部)

・塚本雄樹(同)

・三浦由香子(中央公論新社・中公文庫編集部)

・武田昇(文藝春秋「オール讀物」編集部)

・鈴木一人(光文社文芸図書編集部)

◇コーディネーター:池上冬樹(文芸評論家)

◇テキスト

・雪野きりん『ある晴れた日にテラスでワインを飲むことについて』

・みつとき よる『検定試験』

・柴 柊『逃亡ミート』

◇受講生によるルポ

本日、山形からはるばるやって来て、楽しみにしていた「せんだい文学塾」の仲間に入れていただきました。山形から一人でやってきたというのに、受講生の皆さんは快く挨拶していただいたり、声をかけていただいたりして、「仙台の人は心が広いな~」と思いつつのスタートでした。今回の講師は誉田哲也先生。コーディネーターの池上先生が、ゲストの紹介につられて「それでは武田さん」と言ってしまい「誰ですか(笑)」という珍事件も起こり、盛り上がりました。

誉田哲也先生は、今大注目のベストセラー作家、ということで、どんな切れ味のあるコメントが聞けるのだろうと期待していました。編集者さんも五名と気合いが入っています。途中、誉田先生が「マイクがハウリングする」と言って、スタッフと共に機械をいじっている姿が印象的で、なるほどさすがロックもロールもしているなと感じました。

(誉田先生)

本日のテキストは、雪野きりんさん『ある晴れた日にテラスでワインを飲むことについて』みつときよるさん『検定試験』柴柊さん『逃亡ミート』の三作でした。私が読んだ印象としては、三人とも実力のある方ばかり。文章に力を感じました。

雪野きりんさん『ある晴れた日にテラスでワインを飲むことについて』は、私はタイトルが気になったのですが、受講生の方もタイトルが長いのには訳があるのでしょうかと聞く場面も見受けられました。読みやすいし、オチも良いという花丸のコメントを寄せる受講生もいらっしゃいました。ご本人は妊娠中とのことで「タイトルは前回に直されたので色々考えていたらこれが離れなくなってしまった。自分が妊娠中なのでお酒を呑みたいけど呑めない。夫は影がないけれど良いと思った。マスダは妄想癖を持っているので肉体関係があったとさせた。想像妊娠の話を書きたかった」とのこと。

編集部の三浦氏は「起承転結もありまとまっているが、早い段階で終わりの予想がついた」とのことでした。

(三浦氏)

塚本氏は「文章は綺麗ですいすい読める。もっと婚活中の女の人の心の動きに力を入れるべき。男も婚活には関心があって、嫁がどう思うか、自分のせいなのではないかとか気になる。また、婚活中にかっこいい男性に揺れたらどう動くだろうと描けたら良かった」とのことでした。

(塚本氏)

妊活中の編集者さんもいることがわかり、驚きつつの武田氏は「曖昧なところが多い。子供が欲しいのか、夫の子供が欲しいのかわからなかった。切実なままに夫は仕事に忙しくているときに、曽我が出てくる。曽我は何もやっていないで幻想であることから、夫との子供というより酒への飢餓感が幻想を見てしまった風に感じた。またオチが効いてない。マスダの方が一癖あっておもしろそうなのに、曽我と笹谷が一緒にいただけで幻滅してしまうのも考え物。酒を取って子作りを辞めるならそう書くべき」と厳しい意見が並べられました。

(武田氏)

コーディネーターの池上先生は「妄想オチはだめ。一ミリも傷つかないしつまらない。曽我の子を妊娠したほうが良かった。タブーを書くことが大事。酒を飲んだ意図しない人物と妊娠してしまったことにするのが良いのでは」との意見。

(池上先生)

そして、誉田先生。「一ページ目の『なぜ、こんな底なし沼のような妊活にどっぷり漬かってしまったのか。考えても明確な答えはない。あえて言うとすれば、一度その沼に片足を突っ込んでしまうと、向こう岸にたどり着くのも、もとの岸に戻ってくるのも想像以上に大変ということだ』という表現が良い。男もできないのは俺のせいかと思ってしまう。二ページ目の『人は最初は軽い気持ちで初めても』の部分も一ページ目と意味は同じだろうけれど表現が良い。これをもっと丁寧に描いていく。妄想癖ならそこを細かく書かないとだめ」という褒められたコメントの中でも辛口のコメントもしっかりありました。私は個人的にはこの作品が一番好きでした(笑)

次に、みつときよるさんの『検定試験』。私の感想としては矛盾がないのがひっかかるところでした。受講生の感想としては、「世にも奇妙な物語みたいでおもしろかった。女子力八とか三万円を払うことを躊躇するところもちょくちょく笑えた。」という意見から、「前半と後半のキャラクターの転換が弱い」という意見まで幅広く意見が出されました。 ご本人は「女子力という言葉が使われる中で、定義されていないのによく使われるのはどうなんだろうと思って、定義づけたらおもしろいのではないかと思った」とおっしゃっていました。

編集者の鈴木氏は「よく書けてる。しかし予想通りで小さくまとまっている。女子力が世の中に認められているけれど、対抗勢力が見えない。それは本人が女子力アップを真剣に考えていないからだろう。現実とどれくらい乖離するか考えた方が良い。描写も具体性に欠けているからぼんやりしている」とのこと。

(鈴木氏)

武田氏は「キャラクターの転換の説得力が弱い。四項目あるうちの対人的女子力が二十一というのが男にあるのかと思った。矛盾点やおかしさを書いた方がおもしろいのでは」という、確かに男性に対人的女子力が高い方がいたらちょっとおかしいなと思わせられる一面も。

高松氏は「男は女にはまるが女はいろんな物にはまる。どのような主人公なのかわからない。服装チェックするときも鏡の前であるだろうし、ブランドもチェックされないのもおかしい。バラの香りを漂わせる化け物は狂気なのは、あこがれの人がいてそれに近づこうとしたのではないか。主人公の一視点で、これは男なんじゃないかと思った。(これ何枚でしたっけ、と聞いたときに誉田先生から自分で確認しろと突っ込まれて笑ってしまいました)「男性力」のほうが良かった。ラストもユーモアと思えなくて、野沢さん自体が宗教団体のように、主人公は走っていくか、狂気に走らないと薄い」との厳しい意見。

(高松氏)

コーディネーターの池上先生は「細部をきっちり細かく書く。細かい点数の評価をもっと具体的に書く。グロテスクならグロテスクなりに書くことが必要」でした。

そして、誉田先生「本当に女検ってあるのかと思ってパソコンで調べてみたら同じような物があった。それをやったら高い点数が出た(笑)」と会場の皆さんも笑い盛り上がりました。「この試験の女子力がなんぞやが成立しないと駄目。共通認識って大切なんですよ。女子力がなんぞやがわかればラスト、途中から恋人がいることにして彼氏に『こんなの女子力じゃない』と言われて主人公もそう思うとか。野沢先生の視点が会話から始まるけれど、これはあゆみちゃんの視点じゃないとぶれなのか変更なのか、おことわりが必要。思うことはその人にしかできないので、野沢さんが最後にこう思ったなど付けると良かった」という講評でした。アイディア勝負の作品だけにすらすら読めておもしろかったのですが、誉田先生や編集者の皆さんにかかれば欠けている部分がすぐにわかってしまうのだなと感慨深くなりました。

最後に、柴柊さんの『逃亡ミート』。私は読むのに苦戦したんですが、皆さんさらりと読んでるのかなと心配になりつつ意見を聞いていました。「キャラが弱い。簡単にさせてくれる女なんて魅力がない。男がハザマを見て格好いいと思うかというと思わない」という講評から「設定にかなり無理がある。気候変動を見てるとさほど今と変わらない。」「人が人を食べるリアリティがない。人を食べる、サンドイッチにハムとして使われているとしか書いてない。味もないし、料理もない。多産が奨励されているなら鶏でも良かったのでは」「ディストピア小説なのだろうが、ディストピアになっていない。わかりやすいビジョンがない。軍とか大統領の信憑性が薄れている」「人肉を食べるのはタブーでタブーが明かされている。人肉ミートは公然となっていて普通に書いている」という厳しい意見がたくさん出てしまいましたが、私はこの作品、一番深いと思ってました。

柴さん「サクラは桜肉から取りました。細部が弱いのかなぁと思った」とのこと。講評を聞いてからすぐに自分の弱点に気付くあたり、実力なんだなぁと聞いていました。

三浦氏「読みにくかった。書きたい世界があって詰め込んでいることと、大きな物語を書こうとしていることは三作品の中で群を抜いている。前回、拝読したときより、挑戦している感じがする。ハードボイルドの文体に工夫している。ダンスの場面は誰がどこから見ているのか」とのこと。

塚本氏「場面場面でどういう設定かスケールが大きすぎて破綻している。それとかあれとか何を指しているのかわからないまま話が進むのでストレスが溜まる」

鈴木氏「読みやすかった。エンタメでストーリーを語ろうとしている。人の肉を食べることをうかつに出してはいけない。女性が書いた物とはわからないくらいえげつなことを書くと良い」

そして、コーディネーターの池上先生「アクションから入る。起承転結、誰が主人公なのか、それを読者にわかるように書くように」

そして誉田先生「食べられる人種と食べられない人種に分けたほうが良かったのでは。自分は食べられない人種だったのに食べられる人種に入ってしまったという話にすれば良い。動作の順をちゃんと書いた方が良い。優等生とイシイが同じ人物に見える。第三者の意見を書いてはいけない部分で書いてしまっている」との講評でした。

後半は、この三作品を踏まえての「主人公としての資格」のお話でした。

「何の主人公でしょう」との誉田先生の質問に、「小説」と応える受講生。

「では、小説とはなんでしょう」との誉田先生の質問に、おぼろげながらも皆さん迷ってしまいました。

「大説は政治家が国家について語ること」だそうで、「エンタメは共通認識を伝える、起承転結のある娯楽」だそうです。「エンターテイメントとメッセージ性は別もの」で、「読み終わったらなんだったんだろう、は駄目です」と誉田先生。ホワイトボードに三角形を描き、さらに三角を二つに分けて、eとmに分けました。

(ホワイトボードを使って講義する誉田先生)

「eは書きたいこと。mは伝えたいこと。これを背負っていってくれるのが主人公なんです」とわかりやすい講義です。

「うさぎと亀」から、「能力が劣っているけれど、諦めてはだめだ。あるいは、慢心してはいけない。というメッセージが受け取れます」なるほど~と受講生の皆さんも納得したよう。「メッセージがオチと直結してどんでん返しにすると良い。迷ったときは何を伝えたいのか。自分の世界観を文章としてどう伝えるのか」というお話でした。

誉田先生は作品を書くとき、この人はこういう人と一覧を作ってから書き始めるそうです。本日は、大変おもしろく楽しい時間を過ごすことができました。このサイトをご覧の方でまだ足を運んでないという方がいられましたら、毎月第四土曜日に仙台文学館で行っているので、気軽にお越しくださいませ。取って食ったりしないので大丈夫です(笑)

懇親会もありますのでご都合がよろしければ一緒においしいお食事をしましょう。

今日は、誉田哲也先生、編集者の高松紀仁さん、塚本雄樹さん、三浦由香子さん、武田昇さん、鈴木一人さん、池上先生、どうもありがとうございました!

(S.N.)