Post date: Jun 3, 2011 12:19:57 PM
◆講師:小池昌代(川端康成文学賞作家、詩人、エッセイスト)
◆コーディネーター:池上冬樹(文芸評論家)
◆ゲスト:大川薫(光文社)
(左より大川氏、小池先生、池上先生)
・本間進さん:『空も飛べるはず』(小説)
・佐野のぶさん:『いさぎよく』、『フィット』(エッセイ)
・日野弘美さん:『岡村さん』(エッセイ)
・竹野政哉さん:『かんじょう』『ささやき』『だれかさん』『今宵の食卓のためのモノローグ』『冬』『曇り空』(詩)
(受講生の熱気に包まれた会場)
大震災のため、3月、4月とお休みとなったせんだい文学塾が、5月、ようやく再開されました。
冒頭、震災の犠牲者に対する黙祷を行い、その後、講座がはじまりました。
今月の講師は小池昌代先生。
ゲストは最新刊『弦と響』(光文社)の担当、大川薫(かおり)さん。
(最新刊を紹介される大川氏)
小池先生は、小説家として川端康成賞を受賞されているほか、詩人としては小野十三郎賞を、
エッセイストとしても講談社エッセイ賞をそれぞれ受賞されている多才な方です。
そのためでしょう。
生徒からのテキストも、小説(1名)やエッセイ(2名)のほかに、
おそらく講座では初めての詩(1名)も選ばれて、バラエティあるものでした。
小池先生の講評は丁寧で、また細やかなもので、
特に詩についての講評では、詩を書き始めて三年という作者に対し、
だれかを真似たのではないその書き方を美点として認めたうえで、
これからもあきらめることなく、自分自身のやり方で詩を書き続けてほしいと、
エールを送られていたと思います。
(熱心にエールを送られる小池先生)
講座の後半では講座世話役の池上先生と、
「詩・芝居・小説―ジャンルの逸脱と表現」というテーマでトークを展開。
中でも印象深かったのは、
作家志望の多くの方に対して感じているという“不満”についてです。
小池先生ご自身、文学賞の選考委員を務めている経験から、
新人が書いた応募作を見る機会が多いとのことですが、
それらの作品はみんな上手で、するすると読める。
でも、「小説」というよりも“原作”と呼んだ方がいいような、
筋だけ、流れだけのものが多くあるそうです。
そういった作品は、たしかに読ませるんだけれど、
読み終えてしまうとフッと消えてしまって、後に残らない。
そんな、何も引っかかるところのない文章よりは、
読者の目を留めるために苦心して工夫して、
それでもうまく書けなくて、困った、苦労した、という文章の方を読みたい、
とのことです。
そのためには(といって『弦と響』のエピソード、音楽が垂直に沈む話をもちだして)、
書き手は、水平方向にお話を進めていくだけでなく、
「垂直方向の動きのある」、深みのあるものを目指して書くことが大事で、
たとえば小説を志している人でも詩を読んでみるなど、
新しいジャンルに挑戦してみることが参考になる、とのお話でした。
またトークの中では、「震災と文学の関係」についても触れられました。
池上先生が、外国の純文学でもエンターテインメントでも、傑作と呼べる作品が、
その国が戦争を経験して2年後くらいに誕生することが多いことを挙げて、
いま震災によって日本人が苦しい経験をしていることが、
今後、日本の文学にとって、ある意味では力になるだろうと述べられたことも、
非常に印象的でした。
ひさしぶりの講座は熱気を帯びていました。
これからも変わらず続けていってほしいと思います。
(H・A)