10月講座ルポ
Post date: Nov 19, 2011 12:20:14 AM
◇10月講座ルポ
講師:馳星周(大藪春彦賞作家)
コーディネーター:池上冬樹
ゲスト:兼田将成(PHP研究所 文芸書編集部)、川田未穂(文藝春秋「オール讀物」編集部)
テキスト
・嘉川さちさん『笑う男』
・武山祐子さん『賽の河原』
・安部百平さん『刺客、花を忌む』(「オール讀物新人賞最終候補作)
受講生によるルポ
10月22日のせんだい文学塾は、「不夜城」などノワール系小説で有名な馳星周先生が講師です。
講座はいつも通り、受講生の書いたテキストに対する講評からはじまりました。
(軽やかに話される馳先生)
「笑う男」嘉川さちさん…妻を殺された男の行動を描いた37枚の作品です。
(講評)
テーマと作品の長さが合っていません。
展開が予想しやすいだけにディテールを書き込むことが必要になりますが、この長さでは書き切れません。
この場合は100枚以上必要で、37枚では僕でもムリです。
小説は短編、中編、長編で書き方が違います。
短編なら、もっと軽やかでカミソリのような切れ味を持たせるよう意識してください。
(スパッとどんでん返しで終わるとか、余韻を持たせて終わるとか)
「賽の河原」武山祐子さん…義母の介護をする主人公の心情を描いた作品です。
(講評)
思いが強いのは分かりますが、現状では小説としての体を成しているとは言えません。
作者の感情をぶつけただけでは、読み手にとってつらいだけになります。
小説とは物語を作って読者に見せるものです。
全体として構成力が不足しています。
時系列、視点、エピソードなどを整理して書くことが必要です。
「刺客、花を忌む」安部百平さん…刺客の師弟の争いを描いた、オール読物新人賞の最終選考に残った作品です。
(講評)
面白い作品でした。
ただ新人賞と言うハードルを越えるには、何かが足りなかったんだと思います。
その何かをあえて説明すると「自分でなければ書けないもの」ということでしょうか。
この作品の場合、書き手は安部さんじゃなくてもよかった、と選考委員に思わせたのではないでしょうか。
その何かを見つけることができれば、プロへの道が開けるかもしれません。
でも、それがたいへんむずかしいのです。
後半は「何をめざして書くべきなのか」というテーマに沿ってお話していだたきました。
(笑いを交えつつ、作家になった経緯を話される馳先生と、インタビュアーを務められる池上先生)
もともと本好きだったという馳さんですが、はじめから作家志望ではなかったそうです。
書評家としても有名な内藤陳さんと仕事をするようになり、
有名な作家とじかに接するにつれて、自分でも書けるのではないか、と思うようになったとのことでした。
また、当時感じていた日本のミステリー界に対するある種の不満、
自分が読者として読みたい本をだれも書いてくれない、というものがあって、
「なら、おれが書いてやる」と思い立ち、あの大ベストセラー「不夜城」を執筆されたそうです。
また、書くことのモチベーションは「怒り」から生まれるとのことでした。
最新作の「光あれ」は福井県の原発労働者のことを描いた作品ですが(3.11原発事故の以前に書かれたもの!)、
原発を押し付けられた地方都市の現状を見て、日本と言う国がかえる矛盾に対する怒りから、書こうと考えたそうです。
(ゲストとして来場された兼田氏(左)と川田氏(右)
ほかにも、アニメ「フランダースの犬」の結末に衝撃を受けた幼少期や、文体についての考え方、
人物描写の方法論から性描写の要点まで、幅広くお話しいただきました(残念ながら書き切れません)。
大変充実した講座になりました。
馳先生、ありがとうございました。
(H.A)
受講生による感想 その2