7月講座ルポ

Post date: Aug 5, 2011 10:52:32 AM

◇7月講座ルポ

◆講師:中条省平(学習院大学教授、文芸評論家)

◆コーディネーター:池上冬樹(文芸評論家)

(にこやかに話される中条先生)

テキスト

チアーヌさん『エニシング・ゴーズ』

佐藤詠美さん『黒猫軒』

川辺みしんさん『緑の馬』

※受講生によるルポ

文章を書き続けていると、「化ける」瞬間というのがあると思います。

枚数は多くないのに、正直最後まで読み切るのが大変な文章だったのが、ある瞬間から吸引力を持ち始め、手元の文字を追うのが止まらなくなる。そういう瞬間を目の当たりにする度に、「あ、化けたな」と衝撃を受けると同時に、確かな嫉妬を覚え、そしてどうしたら自分も化けられるのかを考えてしまいます。

それを考える上で、今回の中条先生の講義は大変参考になりました。中条先生に限らず、他の先生方も常におっしゃることですが、読者を信用し文章を削ることがいかに大切かを添削によって示して下さいました。私達素人は、どうしてもダラダラと説明的な言葉やいらない文を入れてしまいがちです。特に気分がのっていてサラサラと書けてしまう時は要注意で、書いている方は楽しくとも読み手にとってはとても鬱陶しく、小説の世界に入っていけないという現象が起こります。それを回避するためにも必要なのが削ることです。先生が生徒のテキストを添削し、余計な部分を削り必要な部分だけを残したことで、文章はより鮮明になり逆に伝わりやすくなりました。

文章を徹底的に削ること。紋切り型の表現は使わないこと。小説や登場人物にもっと愛情をもつこと。どういう話にしたいのか明確にすること。

(中条先生のお話に、聞き入る受講生たち)

今回は2時間たっぷりと技術的なことに終始した講義でした。5時間くらい講義を受けたのではと思えるほど濃い内容だったのですが、私が一番感動したのは中条先生の生徒に対する姿勢です。

講義後に、中条先生が添削して下さったテキストを渡されました。メモや注意書き、コメントで中身は真っ黒です。講義では厳しいことも言われましたが、それは「素人だからこんなもの」と甘く見ず、本気で私達の書いた文章と向き合ってくださった証拠だと思います。本当にありがたいことです。

他人の文章と向き合うことは、頭も体力も使う作業です。それを惜しまず講義してくださった先生の労力も、厳しい言葉を掛けられたことも、全て無駄にしたくはありません。次回講義にいらっしゃったときには、是非「化けましたね」の一言を言わせたい。そう自分を鼓舞するきっかけをくれた講義でした。

(E・S)