Post date: Sep 11, 2010 9:23:24 AM
◇8月講座ルポ
◆講師:平山夢明(作家)
◆コーディネーター:池上冬樹(文芸評論家)
◆テキスト
加川沙智さん『メヌエット第三番』(原稿用紙19枚)
光時よるさん『歌わない子ども』(原稿用紙55枚)
今北玲子さん『空の彼方』(原稿用紙57枚)
八月の講師は、平山夢明先生でした。
(平山夢明先生)
作品を読む限り、そのイメージは
「ルビーを散りばめたピラニアが泳ぐヘドロの水槽の前で、処女の生き血をブレンドしたトカイワインをすする怪しい大魔王」。
けれどもそんなことあるはずもなく実際の平山先生は小粋なパナマ帽をかぶり、鍛え上げた体を(あれは絶対脱いだらすごいと思います。確認するすべはありませんが・笑)黒いTシャツに包んだ、笑顔のとてもすてきな方だったのです。
しかも話し出したらすごいすごい。まさに大爆笑トークショー!
あんな怖いお話を書かれる方なのに、満面の笑顔で惜しみなくジョークを連発なさる、実にサービス精神にあふれた方なのでした。
肝心の講座の方ですが、生徒のテキストは三本。
十九枚のドラマチックな恋愛小説、五十五枚のホラー、五十七枚の家庭小説(?)。 どれもたいへんおもしろく拝読いたしました。
一緒にいらした三人の編集者さんからもそれぞれ的確なアドバイスがありましたが、やはり平山先生の講評が印象に残りました。
講評のキモは「構成」というか、「起承転結」だったと思います。
まとめますと、十九枚のお話は内容的にもっと枚数があった方がよかったし、ホラーは構成をもう少し検討するべきで、家庭小説は作者さんが書きたかったことがぶれてしまった――という感じでしょうか。
どれも「起承転結」をしっかり組み立てることで改善されるのではないでしょうか(でも先生は三作品ともとてもほめていらっしゃいました)。
後で平山先生は図を書いて説明してくださいましたが、まず「起」。当然ながらここはとても大切なところです。だからこの部分では、先生曰く「ドラマの目ん玉をあけて」やらなければなりません。
つまり物語の方向性をはっきり示すこと。そうでないと、読者が誤った期待を抱いて、「ホラーだと思ったのに、コメディじゃん」みたいに落胆されてしまう恐れがあります。
次の「承」は二つに分け、「承A」では物語の条件を詳細に提示します。アクションものなら、どんな条件でどんなふうに戦うかを書いて話をふくらませ、さらに「承B」で、その広がったものを一気にテーマに集約する。ここはごくシンプルに、たとえば不良グループの争いなんかを描く場合、「頭同士一対一で戦おうぜ」みたいになるわけですね。 なるほど手に汗握ってしまいます。
また読者はどうしても先を読んでしまいますから、「転」の頭あたりで「読者のケツを蹴り飛ばす」ような展開を一つ入れると、物語のモチベーションが上がるということでした。
(起承転結についてくわしく解説される平山先生)
それにしてもあれほどぶっ飛んだ作品を書かれる平山先生がベーシックな「起承転結」にこだわられている事実には、たいへん説得力がありました。きっちりした基本あっての「あっちの世界」なんですね。
まだまだ書くことはたくさんありますが、最後に物語をおもしろくするためにいただいた二つのアドバイスを載せておきます。
*「もっと行儀悪くなりなさい」(小説のキャラの話です。粗暴とか卑怯とか実生活においてのマイナスポイントは、文芸においては魅力になるそうです)
*「徹底的に好きなことを書きなさい」(真剣に好きなものにこだわることで、自分の個性ができあがっていくそうです)
サイン会の時も一人一人とたくさん言葉を交わしていらした平山先生。本当にすてきな方でした。
今月の講師は「独白するユニバーサル横メルカトル」などで独特の作品世界を作り上げる作家の平山夢明さん。
受講生3人の作品を、真剣にユーモラスに批評した後は、「専門店として生き残る」と題しての講演会を行い、この部分が今回の白眉でした。
「もの書き」しか出来ないから、これで食っていくしかないと決めた26歳の頃、せっかく本を出しても知られないのが嫌で、目立つために、今までにない読み味を考えたそうです。「僕が得意なのは、怖い話、気味の悪い話、元も子もない話だ。ここを狙おう」。売れ筋の傾向と分析で出しても、フランチャイズになるだけ。一点集中に賭けたと平山さん。それ以降のご活躍はご存じの通り。
これからデビューを目指す人に向けてアドバイスは、とコーディネーターの池上冬樹さんに聞かれ、少し目を細めて考えた後、「あれダメ、これダメと考えずに好きなことをした方がいい」と言われました。重要な点は「ドラマの目の玉を開けてやる」ことだと。小説の方向性を決めるポイントのことだそうですが、例として映画「ジョーズ」を挙げられました。子どもをサメに殺された母親が、警察署長に詰め寄るシーン。あの場面があるからこそ、単にサメが人をぱくぱく食べる話ではなく、一人の男のプライドを賭けた闘いの話になったと。分かりやすい喩えです。
(池上冬樹先生)
他には「いびつな人物を出した方が、物語が動きやすい」「読者が面白いと思うことは、似ている」「小説は何をやってもいいのだから、まとまりすぎず、行儀悪くなってもいい。ただし、消防士が女の子を助けたと思ったら、裏に連れて行って悪戯をしていたとか、監禁された女の子がいて、その子は一生幸せに暮らしました、というのはやりすぎだ」など、聴く者を惹きつけるトークで、あっという間の2時間でした。
その後の懇親会でも笑いが絶えず、楽しいお話を聞かせていただきました。来年度もぜひいらっしゃることを期待しています。
<受講生のmixi日記より>
先日、文庫を読んでいたら、うちの奥さんがのぞき込んできた。
「なに読んでるの?」
とっさに、短編の表題を示し、
「ほら『それでもおまえは俺のハニー』って書いてあるでしょ」
「……恋愛小説?」
「そう、とびきりの恋愛小説だよ」
「なんて名前の人?」
「平山夢明ってひとだよ」
「ロマンチックなペンネームね」
と、『独白するユニバーサル横メルカトル』『ミサイルマン』などの著作で知られるロマンチックな恋愛小説家、平山夢明先生が来仙し、せんだい文学塾の講師として登場されました。
せんだい文学塾のことはなんだかんだと紹介してきましたが、実際はいろいろ忙しく、なかなか参加できませんでした。
今回は、ロマンチックな恋愛小説家のお話が聞けるならよかろうと、うちの奥さんの許可も出て、久々に参加してきました。
(ちなみに、「それでもおまえは俺のハニー」は、短編集『ミサイルマン』(光文社文庫)に収録されています)
平山先生はもうひとつデルモンテ平山名義で、映画秘宝などにB級どころかZ級映画のレビューなどで有名な映画ライターとしてご活躍なのは、映画好きならご存じの通り。いったいどんな話が飛び出すのか、楽しみでありました。
<中略>
話は真面目に教えていただきつつも、笑いあり笑いあり、もうひとつ笑いありの講座でした。
例えば、ご自分が京極夏彦さんと出演しているラジオ番組の話などをされて、
「あれ、収録なんだよな。いっぺん生放送をやらせてくれっていってるんだけどさ。女子アナウンサーを呼んでさ、生でやらせてくれっていっても、駄目だっていうんだよ。なあ。女子アナと生でやらせろって」
わたしも、平山先生の楽しいトークを、一度生放送で聴いてみたいですね。
そんな平山先生からは、講座終了後に著書(『ダイナー』)にサインまでいただきました。
そこで「平山夢明」というのは、ご本名だと知って驚きました。
なんてロマンチックなお名前でしょう!