Post date: Dec 12, 2010 1:02:26 AM
◇11月講座ルポ
◆講師:小池真理子(直木賞作家)
◆ゲスト:羽鳥好之(文藝春秋「オール讀物」元編集長、現・第二文芸部長)
◆コーディネーター:池上冬樹(文芸評論家)
(左より池上先生、小池先生、羽鳥氏)
テキスト
今北玲子さん『マリちゃん』
光時よるさん『水に棲むもの』
石橋翠子さん『猫の耳』
「せんだい文学塾」では、受講生から提出されたテキストを教材として使用しますが、提出する人は女性が多い傾向があります。
今回もそうで、採用された三本とも、作者は女性でした。
小池先生は、そこに注目されて「女性のほうが、男性よりも内面に深く切り込んで書く感性に優れる人が多いのでは」とおっしゃっていました。男性は、頭で構成を考えて書くタイプが多い、とも。
小池先生も、以前は「文章が理屈っぽい」「観念的」と言われたこともあるそうです。もともと、読書体験の原点がリルケやゲーテ、ボードレールなどの翻訳だったこともあり、きっちりした文章がお好きだったそうですし。それが、直木賞を受賞された『恋』あたりから、ご自分の中で迷いが取れ、文体ができてきたとのこと。
「自己救済のために書いている」とも、小池先生はおっしゃっています。女性はとくに、現実の人生で背負わなければならない重荷が多く、そんな人生の裂け目に直面したとき、作品の着想が得られる、とも。「どうやってアイデアを得るか」とは、これまで何百回となくインタビューで訊かれたそうですが、そのように着想を得てきたため、うまく答えられたためしがなかったとのことでした。
小池先生は、短篇を書くときには日常から小さなシーンを拾ってそれを作品に生かし、長篇はまず漠然としたテーマを決めて、そこに小さなシーンをいくつか当てはめていくそうです。そのように、常にアンテナを張っておくことが大切なんですね。
また、若い作家の小説を読むと、「人物どうしの関係性を描こうとしている」と感じることが多いそうです。
しかし、小池先生は関係性を描くことには関心がなく、あくまで主人公の内面を描くことを心がけているとのことでした。
これは、ハリウッド映画とフランス映画の違いにも通じるものがあり、関係性を描くのがハリウッド映画で、主人公の内面を描くのがフランス映画には多い、とも。小池先生も、他の創作物からインスパイアされることはあるそうですが、活字よりも映画から刺激されることのほうが多いそうです。以前はブラッド・ピットの大ファンだったそうですが、今はそれほどでもない、とか(笑)
ゲストとしていらした羽鳥氏のお話では、作家の中には気難しい人もいらっしゃるそうですが、小池先生は編集者への当たりがとてもソフトで、怒られたことがまったくないとのこと。
その印象はこちらも同じで、いつまでもお話を聞いていたいような、そんな心地よさを感じさせる、二時間の講座でありました。