Post date: Jun 18, 2012 2:39:41 AM
◇講師:堂場瞬一
◇ゲスト
中央公論新社 河野葉月 渡辺千裕
角川春樹事務所 齋藤謙
角川書店 山田剛史 高橋優一
文藝春秋 瀬尾泰信 山本浩貴
講談社 佐々木啓予 西川太基
小学館 齋藤彰
集英社 伊礼春奈
朝日新聞出版 国東真之
◇コーディネーター:池上冬樹
・みつとき よる『ブロークン・リングス』
・チアーヌ『行先設定』
・安部百平『業物、かく遣うべし』
5月の講師は堂場瞬一先生。警察小説とスポーツ小説を次々に世に送り出しているが、いずれも完成度が高い。当代屈指のベストセラー作家である。
(ダンディな堂場先生)
また、今回は多くの出版社から12人の担当編集者が参加された。会場がいつも以上の熱気に包まれる中、講座ははじまった。
まずはテキストへの講評。
みつときさんの『ブロークン・リングス』は離婚式を扱った内容。
女性と見せかけた人物が実は男性だった、というミスリードは効果的だが、そのため人物描写が浅くなっている。
また、離婚式という行事そのものの知名度が微妙なため、その進行をどこまで書くべきか難しい。
もっと発想の飛躍が欲しかった、という堂場先生の意見が聞かれた。
チアーヌさんの『行先設定』は、売れないグラビアアイドルと男性との倒錯した関係を描いている。
ラストシーンの書き方が曖昧で、作者自身の中でも決着がついていない。
また、実在する土地を舞台にしているが、実際と異なっている。現実に存在する地名を出す場合は注意が必要。
ただし、全体に漂う不穏な空気はよく描けている。
安部さんの『業物、かく遣うべし』は明治初年の剣客が主人公だ。
書きつくされていない時代を選んだ舞台設定には、今後のさらなる可能性を感じる。
ただし、主人公が傍観者の立場になっていて、物語の主導権を握っていない。
語り手をワトソン役に徹させて、クライマックスの部分を冒頭に持ってくると、構成がよくなる。
伏線の部分がくどくなっているため、そこはもっとあっさり書くべき。
(的確に講評される堂場先生【右】と池上冬樹先生【左】)
講座後半は、「シリーズ物の広げ方」をテーマにお話をいただいた。
堂場先生は、警察ものだけでも『刑事・鳴沢了』『アナザーフェイス』『警視庁失踪課』『警視庁追跡捜査係』を並行して書かれている(いちおう“鳴沢了”シリーズは完結しているが)。
それぞれ、独立した一本の作品として書き始められたものだが、せっかく作り出したキャラクターを一作で退場させるのはもったいない、としてシリーズ化されたそうだ。
それほど、小説において、シリーズものにおいて「キャラクター」は重要なものである。
それぞれのシリーズに特色があって、『警視庁失踪課』は主人公の一人称で書かれている。主人公の抱えている問題を解決していくことが、シリーズを通した大きなテーマだ。
『警視庁追跡捜査係』は2人の主人公がそれぞれの立場から事件に迫っていく。仲の良くない同期の2人が、立場上協力しあう、そのストーリーが最も重視されている。
『アナザーフェイス』は主人公がシングルファザーとして子育てをしている。一作ごとに息子が一歳ずつ成長していくのが見どころだ。
今後は、同一の事件を、違ったシリーズの視点から同時に描く試みも構想されているとのことである。
それぞれのシリーズで書き方を変えることにより、書くごとにリフレッシュできるという効果もあるそうだ。
視点を変えて書いていく手法にしろ、ヒーローの展開にしろ、海外ミステリーからの影響が大きいとのこと。
とくに、マイクル・コナリーの”ハリー・ボッシュ”シリーズの広がり方には強く刺激を受けているそうだ。
最新作『衆』(文藝春秋)は「昭和をふりかえる」テーマで書かれており、8月刊行予定の『解』(集英社)が「平成をふりかえる」ことを試みているのと、対称をなしていて、装丁も揃えている。
このように意欲的な試みを忘れない、堂場先生の今後の作品からも目が離せない。
(参加された編集者の皆さんと一緒に)
(鷲羽 大介)