Post date: Jul 27, 2012 3:15:07 PM
◇講師:北上次郎(文芸評論家、もと「本の雑誌」発行人)&田口俊樹(翻訳家)
◇コーディネーター:池上冬樹(文芸評論家)
・久芝シュウコウ『青春の夏は、ガラスの瓶に閉じ込めて』
・九品我羅『一つに決めなくちゃ』
・みつとき よる『どくろ』
・鷲羽大介『小僧が神様』『3000円のエロ漫画』
6月の講師は、書評家としても「本の雑誌」発行人としても知られている北上次郎先生と、翻訳家として数多くの作品を手掛けてきた田口俊樹先生です。お二方とも司会進行を務められる池上冬樹先生とは長いお付き合いらしく、トークの中での掛け合いも息がピッタリで、とても楽しい講義となりました。
まずはテキストの講評から。
(左より北上次郎先生、田口俊樹先生、池上冬樹先生)
作者が文章を書くようになったときからしている「語彙」の収集、分類の感想などを紹介したエッセイ。
・講評
(池上先生)メール文のような一行あきを多用する書き方はしないように。空けないで書くのが苦しいのかもしれないが、作家になるなら、それをやらなければいけない。文章で描写すること。
(田口先生)全体的にまとまりがない、散らかったままという印象。「~的」という書き方を多用しているが、それが文中のどこにかかっているのか分かりづらかった。
(北上先生)作者(主人公)の立場が良くわからなかった。文章とは、“自分”を知らない人に読んでもらうことを前提として書かなければいけない。自分の感じたことを書くときは「これで本当に読者に伝わるか?」と客観的に見る目が必要。
2.エッセイ「小僧が神様」「3000円のエロ漫画」鷲羽大介
「小僧…」は雪の朝、自家用車を子どもに押してもらい、礼金を渡した経験に基づいたエッセイ。
「3000円…」はコレクターズアイテムと化したエロ漫画の購入に3000円もかけた経験を書いたエッセイ。
・講評
(田口先生)「3000円…」の方は、エロ漫画について良く知らなかったので、なるほどなあ、と思いながら読んでいた(笑)。ただオチそのものがタイトルになっていて、さらに最初の1行目にも書かれていて、その後はそれについての説明になっている。冒頭、読みはじめてすぐに終わってしまう印象になった。
「小僧…」の方が面白かったが、このオチじゃない方が良かった。千円あげて、その後、あれこれ悩む方がいい。
(池上先生)「小僧…」のオチは作ったオチで、たしかに面白いけど、まとまりすぎて逆につまらなくなった。余韻の残るように書いた方が良かった。
(北上先生)作中で意図的に、同じ文を繰り返し書いている。強調などの効果を狙ったものだが、2回では弱い。うっかり重複させてしまったと読み間違えられてしまう。せめて3回は繰り返した方が良い。
3.小説「青春の夏は、ガラスの瓶に閉じ込めて」久芝シュウコウ
勤めていた中小企業の倒産によって、プール監視員のバイトをした青年が、ある事件と関わる様子を描いた作品。
・講評
(池上先生)一番書きたかったのがラストシーンなら、作中のすべてがそこに向かっていくように書くべき。ラストから逆算して必要なことを書いていく。現状では会話などに無駄が多い。視点のブレもNG。
(田口先生)誤字脱字があまりにも多いし、言葉遣いもおかしい個所がある(事件が行われる…)。新人賞の選考などでは不利になるので注意してほしい。エンタメ小説の場合、あえてむずかしい言葉を用いる必要はありません。
(北上先生)今は未熟な部分が多いが、書き続けていくことが大事。書けば書くほど文章は上手になる。作家になるということは遠い道のりだが、あきらめないことが重要。
4.小説「どくろ」みつときよる
自殺した若い女性のどくろを主人公とした作品。死後も付きまとうストーカーへの嫌悪が描かれている。
・講評
(田口先生)主人公のキャラクターが明るくユーモアさえ感じられてよかったが、自殺してどくろになったという設定には、ややそぐわなかった印象がある。
(池上先生)主人公がどくろで、自分自身の意志では行動できないため、展開が弱い印象があった。それと主人公のキャラクターは物語の最初と最後で変化した方がいい。本作ではそれが感じられなかった。また猟奇なのか官能なのか、サスペンスなのかミステリーなのか、はっきりさせるべき。ラストも、これではNGです。
(北上先生)池上さんとは違う意見になるけど、ミステリーでも猟奇でも官能でもない微妙なところを綱渡りしている感じが、この作者の持ち味だと思った。そこに将来の可能性があると思う。ただラストは、やはり再考した方がいい。どうしたらいいか、までは、なかなか答えられないんだけど。
後半は「翻訳小説の楽しみ方」というテーマでのトークがありました。
翻訳家という仕事柄、ふつうの人よりは言葉には敏感だとおっしゃる田口先生(池上先生は、辞書には「最悪」と載っている言葉を、田口先生が「最高にくだらない」という日本語に訳した実例を挙げて、そのセンスを激賞されています)。
田口先生によると、良い文章というのは、言いたいことがきちんと相手に伝わる文章だ、とのことです。逆に良くないのは、自分が何を意図しているのかはっきりさせないままに書かれた文章、とのこと。もっとも、すべてが明確な状態で文章を書くということはほとんどなくて、書いているうちに考えがはっきりしてくることの方が多い、とも。
また、海外の小説で良く指摘されることとして「視点のブレ」がありますが、それについては外国語の文法上から来る、やむを得ないケースもあるということを知っていただきたいとのことでした。
最後に、講師のお三方が推薦する翻訳小説を紹介していただきました。
(田口先生)ディヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』
ボストン・テラン『音もなく少女は』
アガサ・クリスティ―『カーテン』
ローレンス・ブロック『殺し屋―最後の仕事』
(北上先生)グレゴリー・ディヴィッド・ロバーツ『シャンタラム』
トム・ロブ・スミス『チャイルド44』
リチャード・モーガン『オルタード・カーボン』
(池上先生)ライアン・ディヴィト・ヤーン『暴行』
マイクル・Z・リューイン『刑事の誇り』
ローレンス・ブロック『死者との誓い』
翻訳小説に通じた方々が特に押した小説です。ぜひ読んでみたいと思いました。
(HA)