Post date: Dec 29, 2011 9:49:11 AM
講師:柴田哲孝(大藪春彦賞、日本推理作家協会賞作家)
コーディネーター:池上冬樹(文芸評論家)
ゲスト:山田剛史(角川書店)小林龍之(講談社)小林晃啓(光文社)
特別ゲスト:吉村龍一(第六回小説現代長編新人賞受賞者)
・コウリュウ麻子さん『パリのレズビエンヌ』『歯医者さんの勘違い』『地下鉄のサンタクロース』
・みつとき よるさん『悪報』
・安部百平さん『ノット・ソー・ファスト!』
・柴柊さん『迷宮少女』
「3月に震災があり、皆さん大変だったと思いますが、だからこそ絆も生まれたのだと思います。これからも負けずに頑張って行きましょう」
今回の講座は先生の励ましの言葉から始まりました。
文学塾、今年最後の講師は、ノンフィクション作家で小説家の柴田哲孝先生です。
講義はいつも通り、生徒の作品の批評から始まりました。
(適切に指摘される柴田先生)
・コウリュウ麻子さん………フランスでの生活をもとに、初めて書いたエッセイ3本。
『パリのレズビエンヌ』
『歯科医さんの勘違い』
『地下鉄のサンタクロース』
<講評>
フランスの匂いがするような小説。
端的な言葉で読者に情景を浮かばせる表現力もいい。
フランスでの歯医者の事情などを書いていて、面白い。しかし事実に寄りかかりすぎている。
エッセイで一番大切なのは手触り。書き手の人生を滲ませ、その人にしか書けないものを書く。一般の人でも調べれば分かることではなく、事実に基づいて何を考え、それは自分にとって何だったのかを考えることが大切。そしてエッセイは嘘を書いてもいい。エッセイといえど起承転結が大事。自分が何を伝えたいのかを考えて、結末を変えるのもあり。
・柴柊さん『迷宮少女』………同じ学校の女子高生が男にさらわれ閉じ込められた。何故連れてこられたのか。なぜ自分たちなのか。誰に連れてこられ、ここはどこなのか。密室の中で困惑し、逃げようとする様を、5人の少女それぞれの視点で語った物語。
<講評>
五人の視点を通して書こうという志はいい。
しかしそのために、視点が乱れて読みにくくなっている。でだしがいいので、愛子1人の視点のままで書いた方がよかった。5人の視点を書きわけるのであれば、文体も変えて書きわないと成立しない。
また、物語としての仕組みが乱暴。犯人は何人なのか。なんで5人連れてくる必要があったのか。なぜ犯人は犯行に及んだのか。これらの事項に読者を納得させるだけのリアリティーをもたせ、尚且つ答えを出していく順番も大切。この順番を間違えると読者は混乱してついてこない。
・安部百平『ノット・ソー・ファスト!』………主人公の将人には、亡くなった坂本という友人がいた。坂本の死因はハンドル操作を誤ったバイクでの事故死とされたが、死因に疑問を持った将人は、事故の直前に坂本のバイクに細工した者がいることを突き止めた。将人は真相を明らかにしようと、もう一人の友人でラーメン店を営む前田のもとを訪ねる。
<講評>
起承転結がしっかりしているし、リズムもあってキレ味のある上手い文章。しかしまとまり過ぎて最後の予想が付く。新人賞は上手くまとまっている作品よりも、例え破綻していてもパワーのある作品が求められる。もうひとひねり欲しい。
小説には色々な見方があるが、一つの見方として障害物競争というのがある。主人公が障害を乗り越えていく物語。だとしたら、小悪党である主人公にはそれに見合った敵が必要。主人公が頭を使って敵を倒していく過程を書いた方が、面白くなる。
推理小説としてのリアリティーをもっと追究し、何が足りないのかを自分で考えて、自分の殻を破って欲しい。
・みつとき よる『悪報』………主人公一家と沢田一家は類似点が多く、それどころか沢田一家に起こった出来事は、必ず主人公一家にも起こる。沢田の妻は悪報ばかりを主人公の妻に伝えていたが、その沢田の妻が亡くなった。次は自分の番だと怯える妻。しかし沢田一家は運命から逃れることは出来なかった。
<講評>
アイディアは面白い。プロットもよく将来性も期待できる。しかしエンターテインメントの基本として、「運命を甘受して終わり」という内容はウケない。主人公がもがき苦しんで運命を変える、もしくは甘受していたけれど予想外の展開になった、などのどんでん返しや運命のズレを描いた方がよい。
オチが弱いという事で悩んでいるようだが、だったら最初にスタートとゴールを決めてしまえばいい。
短編の作法は削ること。無駄を削って500枚を50枚にする。
(具体例をあげて指導される池上先生)
講義後半は、「新人賞必勝戦略」をテーマにお話しを伺いました。
(今年「小説現代長編新人賞」を受賞された吉村龍一先生)
作家になるためには、新人賞を取るのが一番の王道ですが、しかし新人賞を取ることよりも、その後作家であり続ける方が難しいと多くの方がおっしゃります。今回は新人賞の取り方、更にその先作家として生き続けるためにはどうすればいいかをお聞きしました。
まず新人賞には短編と長編があり、長編の方が応募数が少ない分、狙い目です。しかし、素人が急に長編を書こうと思っても難しく、時間もかかる。そこで柴田先生は、まず短編を書くことを勧めていました。短編だったら沢山書くことができます。毎日書くことで小説のアイディアのストックができ、書く力も身につくといいます。
花を咲かせる(新人賞で受賞する)ために必要なのは、根っこをはること。
そのために必要なのは、地道な努力しかありません。毎日書く。そして手書きで書くことのメリットも教えて頂きました。
「パソコンでは単調な文章になってしまいがち。ジェットコースターのような文章にしたいのなら、手書きの方がいい。手書きしたものをパソコンで打ち直すときに推敲もできるし、手書きをやってみる価値はありますよ」
とおっしゃっていました。柴田先生自身、小説家になられてパソコンから手書きに移られたそうです。
また、作家の3要素というものも教えて頂きました。
・観察力
・分析力
・表現力
これに「突き抜けるもの」が加わったときに、初めて賞が取れるといいます。
では「突き抜けるもの」とは何か。
それは「自分にとって“書ける”内容ではなく、“書かなければならない”内容」、「何を書きたいのか、何故書きたいのか」という強い想い。
それらを上手く読者に伝えるために大切なのは、取材に行くことだそうです。取材に行くことでリアリティーが生まれます。
(左より、ゲストの山田氏、小林龍之氏、小林晃啓氏)
どの作家さんも評論家の先生方も編集者の方々も、皆さん一貫して言われるのは、「何故書きたいのか」という想いの部分です。方法論、技術論も大切ですが、それは「想い」を伝える手段であって、決して「上手く書くこと」が小説家の目的ではありません。文章が上手い人など腐るほどいます。その中でどうやったら腐らずに一握りの存在になって行けるのか。それはやはり、各々が自分で考え、もがき苦しんで自分で掴み取って行かなくてはならないのだと感じました。
(S・E)