Post date: Nov 8, 2010 11:29:43 AM
◇10月講座ルポ
◆講師:佐川光晴(野間文芸新人賞作家)
◆コーディネーター:池上冬樹(評論家)
テキスト
佐藤詠美さん『お葬式』
落合玲子さん『セント・マーチンの夏』
今野直子さん『沈殿』
「せんだい文学塾」10月の講座は、佐川光晴先生をお迎えして行われました。
この講座は実際に小説やエッセイを書く人が多く受講しているせいか、普段はわりとテクニック論のほうへ話が行くことが多いのですが、今回の講座では主に「心構え」についてのお話を、先生はしてくださったと思います。
※にこやかに話される佐川先生
印象的だった言葉は、「あえて書く側に回るのであれば、なぜ書く側にならなければなかったのか」「自分に対して、この文章でこの感情で良いのか」「それを書くモチベーションが本当に自分にあるのか」「自分は何者であるのか」「文こそが人、文章にはすべてが全部出る」等々いろいろあるのですが、そもそもなぜ書きたいのか?というところまで行く根源的な問いは、そういえばわたしは考えたことがなく、わたしは基本的には書きたいと思ったことや、自分の中に出来てしまった、浮かんでしまったストーリーやイメージを書き写す、と言ったらおかしいかもしれませんが、そんな感じで書いていますので、もう少し「つきつめてみる」ことは必要だな.....と腑に落ちるところがありました。
※熱っぽく語られる佐川先生
ところで講座の内容とはあまり関係がないのですが、個人的には先生の「主夫感覚」にわたしはとても共感してしまいました。先生がその日の朝、仙台へ向かう新幹線のホームで開放感を覚えたこと(これは、まだ手のかかる子供がいる主婦(夫)でないと、わからない感覚だと思います)をお話されたのですが、「そうそう!」と強く相槌を打ってしまいましたし、それに今回、懇親会の二次会にわたしの夫が参加していたのですが、先生が夫に、
「旦那さんは料理とかしますか?」
「いえ僕は全然。目玉焼きも焼かないですねえ」
「あ、そのほうがいいですよ。やらないなら徹底してやらないほうがいいんです。中途半端にやられるとかえってイラッとするもんなんですよ」
とおっしゃっていて、それも、「そうよそうなのよ!」とわたしはうれしくなってしまったのでした。こんなに深く主婦の気持ちをわかっている男性はとても珍しいですし、人によっても「主婦(夫)感覚」というのは違っていると思うのですが、わたしにとってはまさにど真ん中にズドンと来たセリフだったので大変印象的でした。
そんなわけで、わたしは先生がどれだけ日々の生活ときちんと向かい合っているか、家族と向かい合っているのかを感じたのでした。先生の小説を読んでも感じることですが、やはり先生は、ご自身でもおっしゃっていた通り「文こそは人」の方でした。
今月の講師は、野間文芸新人賞作家である、佐川光晴先生です。
※佐川先生と、コーディネーターの池上冬樹先生
この「文学塾」には、エンターテインメントから純文学まで、幅広い作風の作家や評論家が講師として参加されています。講座のスタイルもそれぞれ異なり、軽快なフットワークで幅広い話題を入れる方もいれば、ストレートに題材を掘り下げていく方もいます。文章のテクニックや構成の技術を重視して具体的な指摘をされる方もいますし、書くという行為について根源的に問いかける方もいらっしゃいます。
軽快なフットワークで豊富な話題を入れるタイプの典型が、8月にいらした平山夢明先生だとすると、今回いらした佐川先生はストレートに掘り下げていく、対照的な講師スタイルだといえるでしょう。2時間の講座の間いちども話が横道にそれることがなく、それでいて聴衆の興味をぐいぐい惹きつけて離さない、その引力を生み出す真摯さには圧倒されっ放しでした。
今回のテキストに、主人公の友だちが死ぬものがあったのですが、佐川先生は「安易に死で辻褄を合わせないで」と厳しい意見を。「死」のイメージは一様ですが、「生」はひとりひとり違う多様さを持っています。そこを書かなくてはいけません。
佐川先生は、「なぜ書くのか」を重視されています。自分のどこがフィクションを必要としているのか見つめ、自分の傷を広げていく。苦しんでいる時間を微分していく作業が、創作というものなんですね。
※受講生に向かい、真摯に語る佐川先生
で、新人作家の小説を読むと、どうしても先人の顔が透けて見えるといいます。でもそれは批評になっていれば良いのであって、顔の見えない読者と張り合うよりも、先人と張り合うほうが書きやすいとのこと。
先人に似ることは悪いことではなく、むしろ本気で似せようとすることによってオリジナリティが生まれると、佐川先生はおっしゃっていました。
人間は、自分の短所を認めることは心理的にラクなものです。ダメな自分を認めることより、自分の良い部分を認めることのほうが勇気がいるんですね。その勇気が、創作には必要とのことでした。