第6回新産業酵母研究会講演会
The Meeting for Industrial Non-Conventional Yeasts (MINCY)
日時:平成25年11月8日(金)(14:30から)
会場:産総研・臨海副都心センター別館11階会議室
〒135‐0064 東京都江東区青海2-4-7 電話:03-3599-8001
アクセス:ゆりかもめ「テレコムセンター」下車
プログラム
14:30~15:30 渡部 潤 ヤマサ醤油株式会社
「醤油醸造に使用される酵母 –Zygosaccharomyces rouxii研究の進展-」
醤油は日本の伝統的な調味料の1つであり,醤油無しの食生活が困難であることは想像に難しくない。醤油醸造は大豆と小麦の混合物に麹菌Aspergillus oryzae やA. sojaeを生育させる「麹」造りからはじまる。製麹中に麹菌はアミラーゼやプロテアーゼ等の加水分解酵素を大量に生産する。麹は食塩水と混合され半固体の「諸味」へと姿を変える。諸味中では、大豆や小麦由来のタンパク質やデンプン質が麹菌が生産した酵素によって徐々に分解されていく。やがて、耐塩性乳酸菌Tetragenococcus halophilusが,遊離したグルコースを基質として乳酸を生産し,醤油に酸味が付与される。pHが5.0付近まで低下すると,今度は主発酵酵母と呼ばれるZygosaccharomyces rouxiiが生育し,アルコールや醤油の特徴香成分であるHEMFが生産される。その後,徐々に後熟酵母と呼ばれるCandida etchellisiiやCandida versatilisが様々な香気成分を生産し,醤油らしい風味が形成される。このように,醤油醸造環境中に生育する酵母は,特に醤油の香気形成に重要な役割を果たしているにも関わらず,その研究が活発に行われているようには思えない。例えばPubMedで各微生物名をキーワードに検索をかけてみると,同じく醤油醸造に使用される麹菌A. oryzaeが2,249件ヒットするのに対し,Z. rouxiiは177件,C. etchellisiiは17件,そしてC. versatilisは23件となる(13年8月20日時点)。このような状況を打開するために,私たちは数年前からZ. rouxiiを対象にした研究に取り組んでいる。本講演ではその進展について以下の3点についてお話したい。
・Z. rouxiiの形質転換系の改良
Z. rouxiiの研究を効率的に進展させるには,効率的な形質転換系が必須である。Z. rouxii初の形質転換が報告されたのは1988年であったが,スフェロプラスト-PEG法の操作の煩雑さからか,この方法が用いられた研究は僅か数例に留まっている。2000年代になってフランスのグループにより,エレクトロポレーションを用いたZ. rouxiiの形質転換方法が報告されたが,分与してもらったベクターとホストを用いても文献値の形質転換効率は得られなかった。そこで,彼らの方法を改良し,より高効率で使いやすい形質転換系を構築した1)。
・Z. rouxiiのMAT遺伝子座の多様性
Z. rouxiiの育種を進める上で,Z. rouxiiのライフサイクルとその分子基盤の理解は重要である。近年のゲノム解析の進展により,酵母のMAT遺伝子座がどのように進化してきたか明らかになりつつある。全ゲノム増幅前の酵母のMAT遺伝子座は,大まかにDIC1-MAT-SLA2の並び順が保存されているが,ゲノム解析から明らかになったZ. rouxii CBS732のMAT遺伝子座は例外的にCHA1-MAT-SLA2となっていた。なぜZ. rouxiiのみが例外的な構成になっているのかを明らかにするため,菌株保管機関に保管されているZ. rouxiiのMAT遺伝子座の構造解析を行った。その結果,Z. rouxii CBS732におけるCHA1-MAT-SLA2の並び順は,MAT遺伝子座とHMR遺伝子座との相互転座によって生じたことが明らかになった。また,このイベントはゲノムシーケンスに用いられたZ. rouxii CBS732に特異的なものであった2)。
・Z. rouxiiに特有な産膜形成機構
Z. rouxiiの特定の株は醤油液面や諸味表面に産膜を形成し,イソ吉草酸等の悪臭成分を生産することで,醤油の品質を著しく損う。酵母の産膜形成はモデル酵母であるSaccharomyces cerevisiaeにおいて広く研究されている。しかしZ. rouxiiの産膜形成はS. cerevisiaeのそれとは異なり,食塩依存的に起きることが知られている。このことから,Z. rouxiiにはZ. rouxii独自の産膜形成機構が存在するのではないかと考えられた。Z. rouxiiの産膜形成に関与する遺伝子を探索した結果,S. cerevisiaeの産膜形成に重要なFLO11と類似した遺伝子FLO11Dが取得された。FLO11DはZ. rouxiiの産膜形成において必須であり,グルコース非存在下において浸透圧ストレスにより誘導された。このことからZ. rouxiiの食塩依存的な産膜形成は,FLO11Dの浸透圧依存的な発現が原因であると考えられた。興味深いことに,Z. rouxii株間においてFLO11Dのコピー数に多様性が認められた。FLO11Dのコピー数が異なる株を混合培養した結果,産膜形成条件において,コピー数が多い株が次第に優勢となった。以上の結果から,FLO11Dのコピー数の増加は,産膜形成可能な環境においてZ. rouxiiの生存戦略の一つとして機能することが示唆された3)。
1) J. Watanabe et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 1092-1094 (2010)
2) J. Watanabe et al., PLoS One., 8, e62121 (2013)
3) J. Watanabe et al., Genetics, in press
15:30~16:30 村杉 章 元(株)明治技術部参与
「ピキア酵母を宿主とするヒト組換えタンパク質の高効率分泌発現とその精製」
メタノール資化性酵母,ピキア酵母(Pichia pastoris)の異種タンパク質発現系は,現在ではいろいろなタンパク質の発現に広く使用されている.目的タンパク質を分泌することができる組換えピキア酵母細胞の高密度発現培養により,大量の目的タンパク質の,培地中への効率的な発現を達成できる可能性がある.ここでは3種のヒトタンパク質,サイトカインであるミッドカインとプレイオトロフィン,および母乳胆汁酸活性化リパーゼについて、適切な組換え体作製,適切な条件下での高密度発現培養、および目的蛋白質の精製と分析の結果について述べる.
16:30~16:45 休憩
MINCY サロン(16:45~18:05)
16:45〜17:45
Yeast2013の参加報告とoleaginous酵母Yarrowia lipolytica研究の現状
福田良一、岩間 亮 東京大学
本年8月29日から9月3日にかけてドイツ、フランクフルトのゲーテ大学(フランクフルト大学)において開催された26th International Conference on Yeast Genetics and Molecular Biology (Yeast 2013)の参加報告を行う。また、本会のnon-conventional yeastに関するサテライトシンポジウムのテーマの1つに取り上げられたoleaginous酵母Yarrowia lipolyticaの研究の現状について、我々の成果を含めて紹介する。
17:45〜18:05
Yeast2013 醸造分野研究の現状報告
尾形 智夫 アサヒビール㈱醸造研究所
Yeast 2013で報告された産業用酵母(エタノール酵母、ワイン酵母、ビール酵母)の発表について紹介する。
18:05〜18:15 2013年ノーベル生理学賞を語り合う
福田良一 東京大学 (ロスマン研1997年~2000年)
森田友岳 (独)産総研 (シェックマン研2011年~2012年)
講演会参加費: 会員無料
*非会員 一般2000円、学生1000円 (当日会員登録された方は無料)
講演会終了後、同会場において意見交換会を開催いたします(参加費:2000円)。
連絡先:(独)農業環境技術研究所 北本宏子・渡部貴志
mincy-ml@ml.affrc.go.jp
電話 029-838-8355
(メールにて参加申し込みして頂きたくお願いします 入構登録のため〆切り11月5日(月)厳守)