[裏17]みんなが活躍する社会を作りたい

株やってます。というのは誇張で、ちょっと持ってるだけです。象牙の塔の住民でもちゃんと社会情勢を知っておいたほうが良いかなとかと思って...とか言うのは嘘で、株主優待狙いです。すみません。そんななので、どうしたって食品関係の株を買うわけです。ケチャップとかマヨネーズとかレトルトカレーとかシチューの素とか楽しいじゃないですか。数年前のことですが、そのうちの一社が役員の大幅な刷新をしただかで「当社の新体制を紹介します!」的なパンフレットを大喜びで送ってきたことがありました。最初のページの写真をみてびっくり。だってみんな男性。満面の笑みで真ん中に収まった新社長を囲んで、CFOもCMOもCIOも誰も彼も男性。少し高い位置にセッティングしたカメラを見上げて、ダークスーツのオジサンたちがニッコリ笑顔でガッツポースというすごい写真。いえね、料理は女性がやるもんだとか、そういうことではないんです。ただ日本社会の現状として、女性が料理担当の価値の割合が高いはずで、そこをターゲットに商売している会社の執行部が男「だけ」ってのはどうなのかと。この株持っていて大丈夫なのかと心配になりました。

それで性比の問題なんですけれど、一般にはメスにたいするオスの数で表されることが多いですね。性比が0.9っていうと女性10人に対して男性9人ということになります。面白いことに多くの生物で生まれてくる時の性比はほぼ1で、なんでそうなるかという話は紙幅の関係で省略しますね。Fisherの原理で調べていただければ。続いて面白いのが実行性比ってやつで、紙幅の関係上、大幅に端折って説明すると、カップル的な意味でフリーな男女の比です。これが偏っていると悲劇ですよね。オスなりメスなり、多すぎる方の性にカップルになれない個体が出てきちゃうわけです。あぶれるのは嫌ってことで、余ってる性の方で激烈な椅子取りゲームが始まって、これが色んなトラブルのもとになる

おうおう分かる。中学高校、大学時代の記憶をもとにそう思ってらっしゃる方も、それなりにいらっしゃるのではないでしょうか。中には職場でも未だ「局所的な実効性比の偏り(Biased Local Operational Sex Ratio)」に悩まされている方もあるかも知れず、ご愁傷様というか、エールを送るぐらいしか私にはできません。

実効性比の偏りで椅子取りゲームになるってのは理論的な予測なのですが、それじゃ本当にそうなのか。確かめたくなってしまうのは研究者の性ですよね。いろんな調査や実験が行われています。例えば米国の各州ごとの実効性比を見てみると、男性が余り気味の州では、社会経済的地位が低い男性は結婚しにくいなんていう、身も蓋もない研究があります(Pollet & Nettle, 2008)。椅子だって黙って選ばれるのを待っているわけじゃない。むしろ有利な立場なのですから、相手を厳しく査定するということですね。

ただし、オス余りが常にメスに良いとも限らないようです。例えばフランスはパリのLe Galliardさんたちのチーム(2005)は、なんと直接に性比を操作する実験をしてます。あるスペースにはオスを多めに。あるスペースにはメスを多めに入れて様子をみた。するとなんと、オスが多いとメスへのセクハラが頻発するようになったというのです。そのために命を落とすメスまで出るようになって、ますますオスが余り、それがセクハラをさらに助長して...という恐ろしいフィードバックが働いて、こんなことだと絶滅しちゃうよ!とLe Galliardさんたち書いてます。あ、ちなみにトカゲの話です。メスの腹部に噛み付いたりするようで、ニンゲンに勝るとも劣らずなセクハラっぷりです。

そんなセクハラ野郎のところからは逃げなさい!とニンゲンとしては助言したくなるところですが、メストカゲたちは逃げ出さない。トカゲに逃げる能力がないわけではなくて、その証拠にメス余りの場合には、メスたちは逃げ出すのだそうです。しかしセクハラでは逃げ出さない。オス余り集団はメスがバタバタ死んであっという間に絶滅しちゃうから、逃げるという選択肢が進化する暇すらないのかもね、なんて背筋も凍るようなことがサラリと論文に書いてあって、さすが、ジャン・フランソワなんてファーストネームを持っている人は言うことが違うと感心しました。

メスが余ったらどうなるの? 当然の疑問ですね。歴史的に見ると、中世ヨーロッパは女性余りで、それが様々な職業分野での女性の活躍に繋がったのではないかという議論があるそうです。ただしこの話はDuranteさんら(2012)の論文からの孫引きなので、そのうち原典(Guttentag & Secord, 1983)に当たらないといけません。そのDuranteさんたち、現代ではどうかと、これまた米国各州の実効性比と女性の(職業面での)活躍っぷりの関係を分析していて、簡単に言えば女性が余っている州の方が女性が活躍している(職業面で)。その理由がふるっていて、碌な男が残ってないから自分で稼ぐしかないってことじゃない? と書いてあって、ちなみにDuranteさんのファーストネームはクリスチーナです。宜なるかな。

もちろんそれでは単なる相関研究に過ぎない。実験で因果を明らかにするんだ! と心理学者なら考えますよね。大学生を集めて「最近、キャンパスの男女比がどんどん女性に偏ってきてます」って記事を読ませたんだそうです。そしたら女子学生が「結婚より仕事!」という回答をする方向に統計的に有意に変化したそうで、えー、ニンゲンそんな単純? そんなだったら女子校とか放り込んだら無茶苦茶やる気になっちゃうんじゃない? あぁでも女子大の学生たち、やる気あったなぁ。いやいや、それでいいのかなぁと思って読んでいたら、この実験操作が効くのは異性に対する魅力にいまいち自信のない時だけであるなんてことが書いてあって微妙な気持ちになりました。さすがクリスチーナ、油断ならない。兎にも角にも、みんなが活躍できる社会が作れるといいですね。