[裏09]人目が気になります。

お気づきになられた方がいるかも知れませんが、実はコンタクトをやめてメガネにしました。理由は色々あるのですが一つメガネの良い所があります。外すとよく見えないんです。人の顔が。

ゼミ生と打合せするとか、一対一で人と話をしないといけない状況ってありますよね。そういうとき、きちんと相手の目を見て話をした方が良いのかなぁと思うのですが、なんか気恥ずかしくなってしまいませんか。対人不安は「知人」で一番強いとかいう話が合ったような気がするんで、自分にとってゼミ生ってのは知人程度の相手なのかそうなのかとか感慨を持ったりもするんですが、ともかく問題は目前の相手の視線です。キラキラしてたりドンヨリしてたり、ともかくもこちらの意見に集中して耳を傾けて一喜一憂している相手の視線に動揺せずに話をするためにはどうしたら良いのか。メガネ外しちゃえと。それなら相手の顔は見えない。それで相手の目を直視(見えてないけど)して話できるんです。もっとも、やおらメガネを外して自分を真正面から見つめてくる(実は見えてない)指導教員に学生たちは戸惑っているかもしれないのですが、そんなことは私のしったこっちゃない。学生からすれば、なんだよ目を見て真剣に話すから信用したのに見えてなかったのかとよとかガッカリかも知れませんが。

そんなこんなでパーフェクトさんらの研究(Perfect et al., 2008)。テーマは目撃証言。ロフタスか!と思ったあなたは心理学ワールドの理想的な読者ですね。目撃証言はけっこう間違えるから危うい、人の記憶は間違い易いよって話しが有名です。そうは言っても、やっぱり目撃証言に頼らざるを得ない場面もあるわけで、それならなるべく正確な情報を目撃者から得るためにはどうしたらよいんでしょう。パーフェクトさんたち、ビデオを見た後の実験参加者さんに言いました。「目を閉じて思い出して下さい」。なんと、それで記憶の成績が良くなったというのです。目を閉じるとあることないことペラペラ話すようになったという話ではなくて、正しい証言の数は増えて、正しくない証言の数は増えない(減ってはいない)。ビデオについての記憶だけじゃなく、実験室で起こったハプニング(もちろん仕込みです)についての記憶でも、やっぱり目を閉じたほうが成績が良い。2008年の論文だけでも5つ実験をやっていて、その後も別の論文も書いているし、結果はロバストなようです。

なんか分かるけど、でもなんで?視覚情報をカットできるから視覚的記憶(服の色とか)を思い出しやすかったのでは?とか思うのですが、音声的記憶(人の名前とか)でも、やっぱり成績が良かった。理由はまだ良く分かりきっていないようですが、一つの可能性として、インタビュアーの顔色を伺わなくて良いぶん、記憶に集中できたからかもね。目の前に人がいると、どうしたって相手の視線とか表情とかも気になるし、相手に合わせて自分の表情もつくらなきゃいけない。目を閉じちゃえばそういうのが全部気にならないからね。それだからかもね、と著者たちは書いています。

ほっほう。目を閉じてもらえばいいなら簡単だ。子どもでもできる。と思ったのかどうか、子どもを対象にもいくつか実験が行われています。子どもへの虐待事件とかでは被害者の目撃証言が重要になってきますから、これはやってみる価値がある。子どもは大人に比べて集中力だって低いのだから、目を閉じてばっちり集中させるってのは理にかなっている感じもする。なるほど。

ところがこっちは、どうもうまくいくとは限らない。たとえばキプロスの、カタカナ表記をあっさり諦めたKyriakidouさんたち(2014)の研究。最初は上手く行ったのです。教室で子どもたちがお姉さんAから話をきいていると、とつぜん別のお姉さんBがずかずか入ってきて「ねぇ!昨日のパーティのあと、ジャケット忘れて帰ったと思うんだけど、知らない!?」と言い出す。すると最初のお姉さん、「パーティルームの録画があるから見てみましょう」って再生を始める。すると部屋が無人になった隙に女性Cが入ってきてジャケットを盗むのがバッチリ写っている。キプロスではパーティの様子を隠し撮りすることが普通なのか、子どもたちはこの状況を素直に受け入れ、その後の「目を閉じて思い出して」実験にもきちんと参加してくれます。それで、これは上手く行ったんです。上手く行ったんだけど、目を閉じたからといって、それほど記憶が良くならない。それで*Kyriakidouさん、欲が出たんですね。もっと成績を良くしよう!と思って、いくつか条件を追加して実験をやりました。そしたら結果が出ない...。

なんでやねんとギリシャ語で毒づいたかどうかは分かりませんが、Kyriakidouさん、書いてます。いや実は、子どもたちは目を閉じ続けることが苦手だったって。途中で目を開けちゃう子どもに「ちゃんと閉じてね」という必要があって、逆に集中させることができなかった。大人の場合のようにキッパリした結果にならなかったのは、そのせいじゃなかろうかって。いやはや、世の中うまくは行かないものです。いやはや。

それはともかく。大人の皆さんは目をとじることが良さそう。でもねぇ。目の前の相手が話をするときに目を閉じてきたらとうでしょう。証言の場なら良いけど、日常場面ではちょいと妙。そこでメガネを外しましょうと、まぁ、そういう話なわけです。

それは分かるけど、自分は目が良いからその手は使えないよ!って方もいるでしょう。じゃぁサングラスでもかけんさいとか思うけど、人目が気になるような繊細な人は、それはそれで相手に失礼とか思ったりするのでしょう。お勧めのデバイスを、筑波大学の大澤さんが作ってくださってます(Osawa, 2014)。曰くAgency Glass。メガネにね、目を貼り付けたんです。そんなパーティグッズな!と思われたかも知れませんが、もちろんもっとハイテクです。使用者の目を録画しておいて、メガネに貼り付けたディスプレイに映し出す。し隠しカメラで相手の視線を検知して、視線を合わせることもしてくれます。自分の表情を隠しつつ、相手には心地よい表情を返すことができる。話をちっとも理解しない相手にイライラしても、隠さなくてよい。だってメガネがかわり全部やってくれるから。すばらしい。看護師とか教員とか、感情労働をするひとを感情サイボーグ化するのだ!と大澤さんは書いておられて、まったく異論がありません。完全に賛成。

それ使えば居眠りだってし放題じゃんと思ったあなた。あなたは正しい。いや、そんなこと教育者の端くれたるものが言って良いのかとかツッコミがあるかもしれませんが、私が言っているではありません。ユーチューブで推奨されている使用方法の一つとして挙げられているのだから仕方がない。教員と学生がともにEgency Glassをかけて騙し合いをしている教室とか想像すると、なかなかシュールで楽しいですね。

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