[裏13] 宝くじが当たったら何をしたいですか?

大学生活の後半で少なからぬ位置を占めるのが、いわゆるゼミではないでしょうか。心理学界隈ですと、卒論執筆が必須のところも多く、となるとにわかに重要性を帯びてくるのがゼミ選考。教員側から見てると、ま、どの先生のところに行ったって同じ。みんな良い先生だし、ちゃんと面倒みてくれるし、楽しいよ〜と思ってたりするのですが、学生からするとそうも言ってられないわけで。現職場ですと、色々な過去の経緯があってのことだと思いますが、ゼミ志望書ってのに「あなたの人となり」とか書いてもらうことになってるわですが、いやまぁみんな盛ること盛ること。「私は負けず嫌いですが、人と協調して物事を進めることができます」とか「私は物静かですが、強い意志を持っています」とか、微笑ましくなってきますよね。バーナム効果か。しかし自分をアピールする方法がそれしか無いのだとしたら、それはまぁ、盛りたくもなっちゃいますよね。これだけ業績主義、実力主義が言われる時代になるとね、どうしたって盛るテクニックってのが大事になってくる。氷やツマで刺身の量を多く見せたりね。山盛りのほうが客としたって盛り上がりますし。(実際には、志望書+面接で選考してます)

そういうわけでシクリッド。進化界隈では非常に有名な魚です。アフリカはタンガニーカ湖に住んでるシクリッドってのは、それはまぁ、色んな大きさやら形やらに進化していて、こいつらおもしれーということで多くの研究が行われています。そんなシクリッドの中でも最小級のにNeolamprologus multifasciatusってのがいます。Wikipediaには「観賞魚としてまぁまぁ人気がある(moderately popular)」とか書かれちゃっているんですけれど、その界隈ではマルチーズ(multies)と呼ばれているという小ネタを仕入れたので、それに倣わせていただきましょう。このマルチーズさんたち、巻き貝Neothauma)の殻を住処にしているそうです。この巻貝の話がまたすごくって、持ち主の死後も分解されない殻が数千年(数万年?)にわたり溜まりに溜まって、所によっては数メートルもの厚さに積み重なっていると、これまたWikipedia情報で申し訳ないのですが、そういうことなのだそうです。それで論文によりますと、マルチーズたちはオス数匹、メス数匹の群れで縄張りを作って暮らしている。オスたちは砂から貝殻を掘り出して巣を作る。捕食者がやってきたら貝殻に隠れたり、メスがそこに卵を産んだり、そうやって暮らしているんですね。それでどうやら、貝殻の数が多い巣にはメスが余所から引っ越してきたりして、言ってしまえば貝殻が多いオスはモテるみたいなのです。ところが不思議なことに、どうもオスは貝殻の数を控えめにしているみたいなんですね。どこかのゼミ志望者のように盛っていない。というのも、研究室の水槽で飼っているマルチーズのほうが、野生のマルチーズよりも、貝殻を多く使うのだそうです。貝殻自体は野生でもたんまりあるから材料不足というわけではなさそう。それじゃ、なぜオスは謙虚なのでしょう。

昨今はセルフ・ブランディングなんて言葉もありますし、自己アピールの仕方を指南する就活塾なんてものもある時代ですからね。マルチーズ(♂)も負けてないでがんばれ!というわけではないと思いますが、ドイツはマックスプランク研究所のジョーダンさんたち研究グループ、巣に貝殻を補給してあげるというお節介に出ることにしました(Jordan et al., 2016)。2つまたは4つの割れてない貝殻を補給してあげたのだそうです。そうしたらオスたちがモテるようになるんじゃないか?と期待したわけです。君たちの実力はそんなもんじゃない! もっと上手に貝殻で自己アピールするんだ!

結果は大変に残念なことになりました。マルチーズたちは縄張りグループがいくつも集まって大集団を作っているそうです。そうした大集団5つでお節介実験をしたところ、そのうち3つでは、お節介された縄張りが全て崩壊してしまったのです。原因はより大型のシクリッド(L. attenuatus)がやってきて、マルチーズたちを蹴散らしてしまったから。その後に大型シクリッドのメスが、貝殻を使って産卵したそうです。ジョーダンさんたち、本当はお節介された縄張りと、周囲の縄張りの間で、魚たちのやり取りがどう変化するかじっくり調べるつもりだったみたいなのですが、あっという間に縄張りが荒らされてしまったので、短期間の変化しか見ることができなかったとボヤいています。それでも、その短期間の変化を見てみると、お節介された縄張りのオスはモテ始めていたことが分かりました。だた同時に、周りのオスもやって来て攻撃していたんですね。のび太のくせに生意気だってことでしょうか。

まぁこれだと、分不相応なことは良くないよって、よくある教訓めいた話になってしまうわけですが、この論文、ところどころにアイロニーが散りばめられていて、涙を誘います。例えば考察のところ。実はこの手のお節介実験というのは、しばしば行われているのです。例えばCyathopharynx furciferというシクリッド種ではオスがすり鉢状の穴を掘ってメスに求愛する。穴が大きいほどモテるという仕組みっぽいので、研究者が穴を大きくしてあげたんですね(Schaedelin & Taborsky, 2006)。そしたらなんとこのシクリッド、もとの大きさに直したんだそうです。いえいえ私なんて、こんな大きな穴は似合いませんってことでしょうか。それならマルチーズ君たちも、お節介にも補充された貝殻を除ければよかったんじゃないかと思うんですが、悲しいかな、彼らの力では貝殻を動かすことはできないのだそうで。その後の悲劇を知ってか知らずか、貝殻が追加されたら早々に巣を放棄したグループもいたということです。

こんな話を書くと、じゃぁお前は巨額の宝くじが当たったら権利を放棄するんだなとか言われそうですが、いえいえ、サカナと一緒にしてもらっては困ります。それにこの話の肝は、自分を大きく「見せる」ことが問題だってことですからね。分不相応なものを持つこと自体はOK。うまく隠しておけば良いのです。マルチーズ魚たちだってね、貝殻が多過ぎたら、ちょろっと砂をかけておけばよかったんだと思いますよ。そういうことで、当たりクジがあったら隠しておいて差し上げますので、どうぞこちらまで、お持ち下さい。
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