[裏21] 何ごとも心がけ次第ですよね。

春ですね。人の心を読めるようになって大学生活充実させちゃうぞーでゅふふとか健全に邪な気持ちで心理学入門の講義をのぞいた大学一年生が錯視の飛び交うOK GoのMVを見せられて目をグルグルさせる季節ですね。思っていたのと違う、でも面白い!となれば担当教員としてはしめたものです。さぁ次はちょっと考えてみよう。自動車に乗るのと、飛行機に乗るのと、どっちが怖い? 長年この界隈で仕事をしていると、いまさらこんなんで引っかかるんだろうかと不安に思うんですけど、案外ちゃんと引っかかってくれるんですよね。若いって素直。そう。飛行機怖いよね。でもね、飛行機に乗ってて事故に遭う確率のほうが、自動車に乗ってて事故に遭う確率よりずっと小さいんだよ。人間の確率判断ってのは、ことほど左様に信用できないんだ。人の心って分からないもんだろう? 心理学はそれを研究するんだ! 春は一年のうちでもっとも心理学者のドヤ顔が安売られる季節ですね。

それじゃ、どんどん行きましょう! 今から、50%の確率で1の目を出せるっていうプロ・ギャンブラーがサイコロを振る動画を見てもらいます(注1)。まず3、次に4が出ました。あれれ大丈夫? と思ったら1。出ました。やれやれ。ところが油断したか次は2、そして4です。やっとまた1。どんなもんなんでしょうねぇ。はい6、1、5、3と来て、そして1。お、また1。そしてまた1! さぁ次は何だ!?

Carusoさんら(2010)、実験参加者にサイコロ動画を見て予測してもらいましたところ、39%の人が「次は1だろう」と回答したということで、本誌をお読みの皆さんなら当然お分かりのように古典的なhot hand研究ですね。そんなの1980年台バブル期の話をいまさらされてもってのは仰るとおりで、バブル崩壊後の冬の時代のhot hand研究はもう少し先に行かねばならない。それでですね、同じ動画を見てもらうんですが、その時の説明を「このサイコロは50%の確率で1が出るように仕込まれてます」というものに差し替えてみた。するとどうですか、1が出ると予測した参加者は17%に減ってしまったというのです。まぁ現代的感覚だと、参加者間2水準でN=77ってのは、いかにラッキーナンバーのゾロ目と言っても、ちょっと足りないって感じはしてしまいますが、でもCarusoさん、なかなか良いこと言ってるんです。「同じ目が続くと次も同じになりそうって思いがちなのを心理学者はhot handって呼ぶ。同じ目が続くとさすがに次は続かないんじゃないかって思いがちなことをgambler's fallacyって呼ぶ。それで、どっちも代表性ヒューリスティクスで説明できるとか言う。それってご都合主義すぎるよね?(意訳)」。いやまったくです。二度ある事は三度目の正直みたいなことを平気な顔して言っていること、ママありますよね心理学。

それでも何となく心理学者の言うことが信じてもらえるのって、人々が「心がけ」の力を信じているからかもしれません。似たような研究にAmesさんとFiskeさんの実験があって、参加者はパソコン上で、看護師がムカつく患者にちょっとしたイタズラで違う薬を飲ませるという話を読みます。そのせいで患者には心拍が上がったり、血圧が急低下したり、余計な治療が必要になったりといったさまざまな不利益が生じます。患者への被害内容と被害額は一件あたり2秒ずつ表示され、最後に質問が出てきます。「さて、被害の総額は?」。正解は4,337ドルだったのですが、回答者の平均は5,224ドルでした。いきなり質問されたら間違えちゃうよねと思うかも知れませんが、錠剤の形が似ていて看護師が取り違えてしまったってストーリーを読んでいた参加者の平均は4,557ドルだったわけで、行為の背後に悪意があると思うと、被害も大きいと捉えてしまうのだと著者らは主張してます。心がけ効果。

個人的にショックだったのはThomasさんら(2016)の研究でしょうか。子供が一人きりで居ることで、どれくらい危険だと思うかという質問に、ネット経由で多くの参加者に回答してもらいました(注2)。「母親が恋人と会うために、10ヶ月のオリビアちゃんをジムの涼しい地下駐車場に停めた車内に15分間置き去りにした」とか「母親の仕事のために、自宅から約1マイルはなれた公園で、6才のジェニーが25分間、一人きりになった」など、ストーリーには様々なヴァリエーションがありました。ポイントは母親の「心がけ」。恋人と会ったり、ちょっとリラックスしたかったり、そういうために子供が一人きりになったときのほうが、不注意でそうなったときより危険が大きいと思われるというのですね。米国では親の都合で子供を一人にすることは不道徳とされていて、そして不道徳な意図を伴う行為は、より大きな害をもたらすと人々は考えるのだろうと、著者は論じています。でもね、父親が仕事で子供を一人にした場合の危険度は、アクシデントの場合とさして違わないとされたというのですから、適当なものです。

それで。妻子が本連載を読んでいることを承知の上で告白しますが、実は一度、遠方より来たる友人との会話に夢中になっていて、うっかり娘のお迎えに間に合わなくなりそうになったことがありました。友人との話が楽しかった分、余計に悪い想像が働いて、しかも待ち合わせ場所に交番があって行方不明女児の情報を求めるポスターとか貼ってあるわけで、あの時は正直肝が冷えた。で、何がショックだったかって、この論文に書いてあるんですよ。「子供が誘拐されて戻らない確率は0.00007%、実質的にゼロである」「誘拐犯から守るために車で送迎する方がよっぽど危険である」。車送迎はしなかったですけどね、塾の帰りはほぼほぼお迎えに行きましたよ。たとえ夕方5時でもね、日が短くて暗ければ行きましたともさ。たとえ代表性ヒューリスティクスと言われようとも、それが何だというのでしょう。

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注1)実験で使った動画をダウンロードすることができます。

http://faculty.chicagobooth.edu/eugene.caruso/dice.htm

実はこの論文が載ったのはPNASという雑誌で、第二著者のFiskeさんは元APS会長で、SNS上での心理学への再現性を巡る議論に "methodological terrorist" なんて表現を使ってしまったFiskeさんと同一人物だったりするところがなかなか味わい深いのですが、ここではそれ以上突っ込むことは止めておきましょう。紙幅の関係上。

References

Caruso, E. M., Waytz, A., & Epley, N. (2010). The intentional mind and the hot hand: Perceiving intentions makes streaks seem likely to continue. Cognition, 116(1), 149–153. http://doi.org/10.1016/j.cognition.2010.04.006

Liu, B. S., & Ditto, P. H. (2013). What Dilemma? Moral Evaluation Shapes Factual Belief. Social Psychological and Personality Science, 4(3), 316–323. http://doi.org/10.1177/1948550612456045

Ames, D. L., & Fiske, S. T. (2015). Perceived intent motivates people to magnify observed harms. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(12), 201501592. http://doi.org/10.1073/pnas.1501592112

Thomas, A. J., Stanford, P. K., & Sarnecka, B. W. (2016). No Child Left Alone: Moral Judgments about Parents Affect Estimates of Risk to Children. Collabra, 2(1), 10. http://doi.org/10.1525/collabra.33