[裏X01]関西社会心理学研究会400回記念シンポジウム参加記

番外編:社会心理学会のニュースレターに書いたものの初稿です。

生来の出不精で、せっかく上京して4年も京都に棲息していたのに、今まで関西社会心理学研究会(以下KSP)には参加したことがなかった。もう少しましな言い訳をせよというのであれば、週末ごとに娘を自転車の後ろに乗っけて、やれ鴨川、それ手作り市、あれ蕎麦屋、これ和菓子屋、どれケーキ屋と遊び歩くのに忙しかったからだということを、敢えて否定しようとも思わない。そんな私が広島の地に移って1年になんなんとするタイミングでなぜ神戸で開かれるKSPにノコノコやってきたのかと言えば、このままでは社会心理学会の人々に自分の存在を忘れられてしまうのではないかという恐怖から、ではなくて、どうせ関西の豊かな食文化が懐かしかったのだろうといわれると、これまた否定することはできない。広島の食文化を貶める気は全くないし、すでにして自宅近辺のお好み焼き屋は5軒を制覇し、牡蠣の浜焼も経験ずみ、週末ごとにコストコ広島に出かける私をその点で非難する人もいなかろう。ちなみに一のお気に入りは白島の「まるめん」である。最初の頃は住所の「島」の字を「烏」と書いてしまって困ったのも今は昔の話だ。それでKSPだが、やはり登壇者のラインアップの豪華さに惹かれたからというのが正直なところではある。そんなこと言うと、どうせそれまでのKSPは登壇者が今一つだったですよと過去の登壇者の方々が気分を害されるかもしれないが、なんといっても3名である。数は力。加えて今回は、400回記念と言いながら実は400回はすでにとっくに超えてしまっていたのだとか、いや実はあと数回足りないので前倒しなのだとか不穏な噂も漂ってきて、これはぜひ一つ、噂のKSPの現場をのぞいてみなければならないという気持ちになった。帰省する妻子と新幹線が一緒になったのは偶然にすぎないし、新神戸の駅で山陽新幹線の公式キャラクター「かんせんじゃー」の絆創膏を袋いっぱいもらったことに至っては僥倖と言うしかない。

肝心の研究会の内容だが、あれから随分と時間が経ってしまったのでよく覚えていない。というのはお約束の冗談であり、大変に楽しい時間であった。冒頭に「今日は話題提供を遮って質問してはなりません」と司会者が釘を刺したのも驚きであったし、会場の神戸学院大学の学長先生から挨拶まであり、初めて参加する研究会の格式の高さに圧倒される思いであった。その学長先生(噂ではお子さんも大学で社会心理学を専攻しているとか?)から、懇親会で「コウベビーフ」が振る舞われるとのお言葉があり、参加者の期待は否が応でも高まったのである。

三名の先生方がどんな話をされたのかを、ここで詳細に紹介するつもりはない。研究会というのはやはり、その場に足を運ぶ労を惜しまなかった人のためのものであるし、その人たちだけが共有できる秘密のようなものがあった方が楽しいとも思うからである。大変に刺激的であったとだけ書いておこう。参加しなかった人、諸事情で参加できなかった人は歯ぎしり悔しがって、次こそは!と思えばそこで新しい出会いがあって、”社会心理学プロパーではない”(三浦麻子先生, 私信)私のような人間であっても、社会心理学会のニュースレターに記事を書くという栄誉を賜ることもできたりするのだから。

それでも少し感想を書くのであれば、社会心理学が、より「社会」の方を向きつつあるのかもしれないという予感を感じさせる研究会であった。たとえばそれは、三浦先生の「大学生を対象に実験や調査をやるような研究は、もうあまり自分でやろうとは思わない。それよりTwitterデータ(のような実データ)をみていきたい」(意訳)という言葉や、中谷地先生の災害対策の現場における活動といった「事件は現場で起きている!」的な意味での「社会」でもあるし、唐澤先生の「社会心をもう一度」といった、個人の単純な和を超えた存在としての「社会」でもあるが、いずれにせよ、多数の人間が集まって相互作用してぐちゃぐちゃになっている現実の様子をとりあえず片端から記録できるようになってきた今、さて、ずっと欲しい欲しいとあこがれ続けていたデータが手には入ったものの、これをどうやって料理したらのよいのだろうと予想外の僥倖に茫然としている社会心理学者たちの姿が浮かび上がっていたように思う。そしてまた、研究室で積み重ねてきた知識をもって現場に打って出ようという意欲の高まりもまた、そこには見いだすことができた。などと書くとこれはもちろんサンプリングバイアスであり、私自身がそのような問題意識を持っているからこそ「社会を測る」という研究会のテーマに魅力を感じて出かけてきたのであり、つまりはそういうことなのである。それにしてもソーシャルメディアはもちろん、北米辺りでは南米の密林からやってきた機会仕掛けのトルコ人が大活躍しているなどという話を聞くと、やっぱりオリンピックは東京で!とばかりに、適切な分析法もアイディアも持ってないのにとりあえず大規模データを収集してみたくなったりするのは、これは研究者の性なのか、自身の脇の甘さなのか、もちろん後者に違いないと懊悩し、何かヒントを光を望みをと新幹線(さくら)で1時間はるばる神戸までやってきてしまった私としては、問題を抱えているのは自分だけではなかったと安心しつつ、安心してどうすると改めて煩悶する研究会であった。しばらく悩みは続くであろうが、コツコツとやっていくしかない。なおコウベビーフが懇親会のテーブルに並ぶことはなかったことを念のため報告しておく。複数人からの証言があるから、私がビュッフェ競争に出遅れたせいではないはずである。