[裏05]働けど働けど我が暮らしが楽になりません。

母さん、僕のあの福沢先生どうしたでせうね。ええ、夏、コストコからイケアに行くみちで行方が分からなくなったあの福沢先生ですよ...

かねがね福沢先生は迷子になりすぎどんだけ方向音痴なんだとか心のなかで毒づいてきたんですが、最近ようやく気が付きました。彼は分身の術を使いますね。それも、ただ分身するだけなら問題なくむしろありがたかったりするわけですが、どうやら分身しつつ変身している。顔が変わるとか性別変えるとかそういう生やさしい話じゃなくて、職業まで変えて気が付くと人の財布の中で束になって細菌の研究とかしているのはやめていただきたい。お医者さんから文筆家とか思想家(っぽい何か)に変わるって話はよく聞くような気がするけれど、その逆を行くとはね。なかなか気が付かないわけです。

ところで変身した福翁こと英世先生ですが、若い頃は大変な放蕩家であったという話をききますね。大金を遊び果たして借金を重ねたとかそういう。後世の我々としてはもうちょっと先々を考えてお金を使えなかったのかと、せっかくの偉人伝が台無しだよ子どもにどう説明すればいいんだよとか思うわけですが、ご本人としてはなかなかそうも行かなかったのでしょうね。偉大な業績を上げた人の一面だけをみて「尊敬する人は誰々さんです」とかいうことの危うさを感じずにはいられません。

さて時はそれから100年近く経っているわけなのですが、どうも最近の人間はますます我慢が効かない。それも世界レベルで我慢がきかなくなってるって話があるそうです。「最近の若いもんは」って話はギリシアの昔からあったとか言いますが、こっちはデータが揃ってる。なにって世界中で貯蓄率が減っているんだそうです。稼いだお金を貯金せずに使ってしまう。我慢がきかない。困りますね。マシュマロがまんできなかった幼稚園児は高校の成績が悪いなんて話もありますし、やっぱりある程度は我慢もできるようじゃないと人生なかなかしんどいかと。それでまぁ、なんで世界中の人間ががまんできないのか。若者の貯金離れはケータイスマホのせいなのかって経済学者をはじめいろんな人が喧々諤々論争しているみたいなんですが、ここにさっそうと現れたるのが心理学者のデヴォー(DeVoe)さんたち三人組。みんなマクドが悪いんだといいだしました。

あ、いや。「みんな」ってのは言いすぎですね。さすがにそこまでは言ってない。「食(しょく)って大事だからさ。食べ物のことでスピードスピード効率効率言われたら、みんな目の前のことばかり追う気持ちになるでしょ。貯金離れはそれ”も”原因じゃないかなぁ」(意訳)って、それくらいの謙虚な表現では有ります。なんか論文読んでるとファストフードにたいする怨念みたいなものを感じないでもないんですが、かろうじて表現は冷静に抑えている。まぁさすがにESPなJPSPですから、マクドで貯金が減るって話はねぇと編集者も慎重になったのやもしれませぬ。

もちろん言うだけなら簡単。「子どもたちががまんできないのはファストフードのせい」なんて、文筆家(っぽい何か)とか、有識者(っぽい何か)の方々が言い出しそうなことですよねいかにも。トレーニングを受けた心理学者としては思うわけです。証拠もってこーい。データはあるんかー。って。はいはいデータあります。ありますとも。OECD加盟30カ国におけるマクド店舗数と貯蓄率データって鉄板に固い公開データを持ってきます。

マクドの多い国は貯蓄率が低い。過去30年のマクド店舗数(対人口比)と貯蓄率データからそう言えるってんです。もちろん人口構成(老人が増えると貯蓄率は下がる)とかクレジットカード普及率(あると使っちゃいますよね)とか経済格差(見栄張るために使っちゃうよね)とか、これまで言われてきたような影響は統計的に統制ずみ。それも”フィックスド・エフェクト・リグレッション”で分析したとか言われちゃうと、統計手法の名前のカッコよさにほわ〜っとして信じてしまいたくなりますよね。なんか名前にエックスとか入ってる統計手法って説得力あるじゃないですか。分散分析がこれだけ心理学者に愛されるのだって、きっとANOVAって略称もあると思うんですよ。効果量にして0.15くらい。実際、あれ考えた人天才だと思うんですよね。AVとかAOVとかじゃなくて、ANalysis Of VArianceにしたセンス。そこでもうちょっと頑張って欲しいのがSEM。日本語だと構造方程式モデリングとか共分散構造分析とかめちゃかっこいいのに英語の略称がイマイチ。STとかQの辺りをもう少し生かしたいところです。

話が逸れました。もちろん国家比較だけで話は終わりません。次は米国内の比較もしてみようってことでデータを漁ってきて分析します。近隣におけるマックとフルサービスのレストランチェーン(とかかっこ良く書いてあるけど、たぶんファミレスのことと思われ)の比率と、ご近所さんの貯蓄率の関係を、またもフィックスド・エフェクト・パネル・レグレッションしてみたら、これまたマクド率が高いほど貯蓄率が低いよって。なんだかもう。

でももちろん皆さん思いますよね。それって相関と因果の混同じゃん。もともと貯金しない我慢ができない人が多いところを目ざとく見つけてマックが進出してるんじゃないのと。相関からナイーブに因果を語っちゃならないってのは心理学研究法いろはのいの左の線のハネですから、そんじゃ実験じゃけてことになる当然。さいきんファストフードで食事したときのこと思い出してみんさい。じゃけ、今すぐ1000ドルもらえるんと、一週間待つんだったら、いくら増えるなら一週間待てますかあなた。なんとファストフードでの食事を思い出した人のほうが、レストランでの食事を思い出した人より我慢ができない。ええーって思いますよね。さらに畳み掛けるように、ファストフードの前を通りかかった人にランダムに声をかけて同じような質問してみたら、それでも同じような結果。どうしましょうこれ。

いやいや。だからってマクドばかりを責めるのも酷だとは思うんですよ。それに我慢ばっかりの人生が良いとも限らない。「もっといい人が居るかもしれない」と思って先延ばしていたらなんて人生だってありそうな話ですし。「今日をつかめ!」ってロビン・ウィリアムズも言ってるし。

ひとつはっきりしたのは、我が家は早急に引っ越すべきだってことでしょうか。マンションの建物を出た目の前ででっかい黄色いエムがぐるんぐるん回っているんですよ。娘がピアノの練習になかなかとりかからないのも、父親が原稿の〆切りを守れないのも、みんなあのエムが悪いんです。でもあのエムのせいで引っ越し資金がたまらないという、このジレンマをいかんせん。