[裏19] 宇宙と君のあいだ

自分も随分いい年齢になったし、スカイツリーの開業から5年も経ったし、さすがに年貢の納め時かなと観念して、物心ついてから初めて東京タワーに上ってきました。なんか外階段を歩いて上れるとかいう、高いところが苦手な人間からすれば美味しいポイントが全く分からないイベントも開催されていたようですが素直にエレベーターで上がります。窓からタワーの鉄骨が垣間見えたりして、こんな細い鉄棒だけで支えられてる所にガンガン人間が上がっていって、さっきのエレベータに乗った人なんて100kgはありそうだった大丈夫なのか壊れないのかとか恐怖に囚われつつ、妻子の手前、余裕顔で展望台に到着。

目の前には絶景。360度全方位、見事な夜景。圧倒的な街の広がりに、さすが東京、前に住んでいたK市やH市とは違うなぁ。お決まりで自宅を探したのですが、その気になれば徒歩圏内の職場ですら某陽気なラテン大使館の鬱蒼とした敷地に紛れて良く見えなかったくらいですから、もっと遠くの一棟マンションが見つかるわけもなく、それにしても森ビルさんはよう頑張ってはるなぁ、どこもかしこもヒルズだよと感慨深い。そして、この膨大な数の光の粒一つ一つに人生があるんだなぁ、すごいなぁなどと月並みな感想をいだいたわけです。

ところで、どんな家庭にもその家だけで通じる隠語があると思います。我が家だと「基盤」とか「お姉さん」とか「外回り」とか。一番分かりやすいのが「便利な機械」でしょうか。別名「ヌット」と言えば、何のことかお分かりかと思います。当初は物知り情報を教えてくれる程度で、それでも十分に便利認定されていたんですが、その後ますますどんどんすごい。レストランで食事してるときにふと画面を見ると「◯◯にいらしてますか?」とか余計なお世話だっつーの。でも、そうやって他の方が書いたレビューを参考にその店に来てるんだから世話ない。

GPSには本当に感謝していて、某Gマップを見るたびに「ああ、いま、こうして個人情報を切り売りしているんだなぁ」と思いつつも止められません。そんじゃまぁ、せっかく集めた個人情報だし、人類社会のために使ってみようと思ったのでしょうか、Althoffさんたち(2017)、世界規模で大流行中の運動不足を調べるぜ!と717,572人(細かい)のスマホから集めた活動量データを分析したわけです。普段、数十人とか数百人、精々千人単位のデータしか扱っていないしがない者としてはため息が出る力技です。

結果もなかなか興味深くて、運動不足の国で肥満が多いとも限らない。より関係が強かったのは国内での運動量の差なんですね。例えば差の小さい国の筆頭として日本が出てくるんですが、皆が比較的せっせと歩いている。「万歩計」というかつての便利マシーンの名前が元で「一日一万歩」という目安が特に根拠もないままグローバルスタンダードになったなんて話もあるみたいですし、さすがです(Servick, 2015)。

もちろん、なんで国内差があると肥満が増えるのさって思うわけですが、そういう国では女性の運動量が特に減りがちで、そして女性の方が運動量と肥満の関係が強いんだと書いてありました。それじゃなんで女性は運動量が減るのさ?と疑問に思うんですが、それが書いてない。ただ、都市の「歩きやすさ」が運動量差につながるって書いてあって、歩きやすさってなに?と調べてみたら、どうやらお店の多さとかも歩きやすさにつながるみたいで、ふーん(Sallis, 2016)。色々と勝手に想像してしまいますね。

我々の位置はGPSだけによって把握されているわけではありません。キッズケータイユーザの皆さんならご存知でしょうが基地局って手もあります。それでBlumenstockさんら一派(2015)、前スマホ期のルワンダの数年間の携帯使用歴(基地局情報こみ)にアクセスしました。そして856人(細かい)への「お宅に電気きてます?」とか「バイク持ってます?」といった電話インタビューと合わせることで、携帯利用歴からその人の経済状況を予測するという荒業に出ました。そしたら約150万のルワンダ携帯ユーザの収入をけっこう良く予測できちゃうということで、通話場所と時間から、なんで収入が分かっちゃうのさ?と疑問を禁じ得ないのですが、予測精度を第一に考えたモデルで、説明を目的としてないから、あんまり詳しくは分からないんだよとツレナイ論文です。

すごいのが、携帯利用歴から家に電気があるかも予測できるっていうんですね。そうやって導いた予測と、衛星写真で調べた夜の明かりを合わせると、これまたけっこう良く合っている。あ、もちろん、個人宅の明かりまでは分かったわけではないです。0.55キロ平米単位(約740m四方)での分析です。それだって十分にすごいと思いますが。

どの地域が豊かで、どの地域が貧しいかって情報は国家政策を考える上で重要で、でも普通に国勢調査みたなことをするとお金も時間も掛かる。携帯利用履歴の分析なら約100分の1費用と約10分の1の期間で実施可能だって書いてあって、「タダほど高いものはないけどべんりー」と言った程度の認識でGマップを使っていた身としては恥じ入るばかりです。携帯にカメラがついたときにも「こんなん誰が喜ぶんだ」とか思ってしまったのですが、人間の創造性というのは本当にすごいものです。

注1:原稿を書いている時に中島みゆきさんの曲がかかっていました。でも歌っていたのはクリス・ハートさんで、曲は「糸」でした。原稿がなかなか進まなくて逃避していたことも告白します。

de Montjoye, Y.-A., Radaelli, L., Singh, V. K., & Pentland, A. S. (2015). Unique in the shopping mall: On the reidentifiability of credit card metadata. Science, 347(6279), 536–539. http://doi.org/10.1126/science.1256297

Servick, K. (2015). Mind the phone. Sceince, 350(December), 1306–1309. http://doi.org/10.1080/08164649.2010.520684

Sallis, J. F., Cerin, E., Conway, T. L., Adams, M. A., Frank, L. D., Pratt, M., … Owen, N. (2016). Physical activity in relation to urban environments in 14 cities worldwide: A cross-sectional study. The Lancet, 387(10034), 2207–2217. http://doi.org/10.1016/S0140-6736(15)01284-2

Espie, C. A., Kyle, S. D., Williams, C., Ong, J. C., Douglas, N. J., Hames, P., & Brown, J. S. L. (2012). A randomized, placebo-controlled trial of online cognitive behavioral therapy for chronic insomnia disorder delivered via an automated media-rich web application. Sleep, 35(6), 769–781. http://doi.org/10.5665/sleep.1872

Althoff, T., Sosič, R., Hicks, J. L., King, A. C., Delp, S. L., & Leskovec, J. (2017). Large-scale physical activity data reveal worldwide activity inequality. Nature, 547(7663), 336–339. http://doi.org/10.1038/nature23018

Blumenstock, J., Cadamuro, G., & On, R. (2015). Predicting poverty and wealth from mobile phone metadata. Science, 350(6264), 1073–1076. http://doi.org/10.1126/science.aac4420