[裏18] 三人よらば文殊の陰

カラスの多い地域に住んでいます。最初に気づいたのは洗濯物でした。いつの間にか干しておいたシャツがベランダの床に落ちていることが頻発して、もしやこれが噂の下着ドロ?と色めきだったものの、そもそも落ちているのはシャツだし、というか盗まれていないし、そんなことが数日続いて、いったいこれはどういう新手のイタズラかと思っていたら、カラスが針金ハンガーを持っていっていたんです。いろいろ工夫してみたのですが、カラスが欲しがる針金ハンガー使っている限りは勝算はないということで、諦めてプラハンガーを100均で買ってきて現在に至ります。その後も、近所の大学生?がうっかり雑に出した生ゴミはとうぜんバラバラに突かれますし、娘(小学生)は登下校時いつも同じ場所で低空飛行で脅されたりして完全にからかわれているようです。

たしかになぁ。カラス、頭大きいもんね。ぽぽぽぽ言ってるハトとはできが違う。頭いいんだろう。同僚のカラス専門家なんて、キャンパスのカラスに完全に顔を覚えられてると言ってましたし。じゃぁなんでカラスは頭いいの? 頭いい鳥とそうでもない鳥は何が違うんだろう。いろんな調べ方があると思いますが、一つに、いろんな鳥の脳みその大きさと暮らしぶりを比べてみるってのがあります。たくさんの鳥について一人で調べるのは大変なんですが、幸いなことには世界には鳥ラヴな人々がこれまたたくさんいて、多くのデータが蓄積されている。それを使ってWestさん、ちょちょいとDecision Tree分析なるものをやりました (West, 2014)。論文に書いてあることを信じるなら、心理学者に馴染み深いANOVAよりもこの手の分析には優れている手法だってことで、否が応でも期待は高まります。果たして結果は!?

タイトルからして奮っているんです。「鳥における大きな脳の進化は、社会的単婚(遺伝的単婚じゃないよ)と関連している "The evolution of large brain size in birds is related to social, not genetic, monogamy"」。え、どこが奮っているか分からない。そうでしょうそうでしょう。平穏無事な日々を送っている貞節なホモ・サピエンスの読者の皆さまには想像もつかないような話でしょう。何も皆さんがカマトトぶってるなんて言うつもりはないですよ、ええ。鳥類はしばしば雌雄がペアで子育てしますね。オシドリ夫婦なんて言葉もある。でもそのことは、夫婦間の諍いがないことを意味しません。はっきり言ってしまうと、巣の中の雛のDNAをちょちょいと調べてみると、あれまぁ親爺さん、この子ってばあんさんの子じゃないよ。そんなことがママあるわけです。せちがらい。何が世知辛いかって、脳の大きさは「社会的単婚」と関連していたんです。遺伝的単婚、つまり貞節な種の脳が大きいわけじゃない。脳が大きいのは、社会的には単婚だけど、裏でゴニョゴニョしている種だったというわけで、何かって、ペア関係を維持しつつ、余所さんとの浮気がバレないように/浮気をさせないように振る舞うことが脳の進化につながったんじゃないかとか、これって本当に科学論文?と思わせるような記述があり、鳥ラヴな人々の積み重ねてきた知識の一つの到達点がこれかと、しみじみします。

もっともWestさんの研究が鳥の脳の進化にかんする決定打! というわけでもないようです。例えばFedorovaさんら(2017)は、ペア関係とは脳の大きさの関連は見られなかったって報告をしています。この手の研究で常に問題になるのが、系統的な類似性です。カラスが”頭いい”のは有名ですが、近縁のアオカケスもかなりやる。それってご先祖様が近いからじゃないの? という話です。そこでFedorovaさんたちキツツキに話をしぼった。みんな近縁。しかも住んでるところも食生活も似ている。でも社会生活がけっこう違っていて、子育て期だけペアを作る種、年間通じてペアを作る種、年間通じて集団生活する種に分けられるそうです。これまた既存データの蓄積があって、ファイロジェネティック・ジェネラライズド・リーストスクエアズ・リグレッションで分析してみたら、脳の大きさと関係していたのは、集団生活をするかどうかであったと。社会をつくる種ほど脳が小さかった。

そうです。脳が小さかったんです。心理学ワールドの読者の皆さんですから「社会脳仮説」なんて聞いたことあるかと思います。ヒトを含む霊長類の脳は、複雑な社会に暮らすことで進化したんじゃって話ですね。でもキツツキだと社会生活すると脳が小さい。キツツキの社会は基本的に協力的で競争がないから、むしろエネルギーを消費が大きい脳を小さくできるんじゃないかと書いてあって、ホモ・サピエンス的には反省することしきりです。なんてったってニンゲン、公共財ゲームやらせると、協力しないで儲けている人の真似ばっかりするなんて話もありますし(Burton-Chellewら, 2017)。賢いんだか賢くないんだか。

West, R. J. D. (2014). The evolution of large brain size in birds is related to social, not genetic, monogamy. Biological Journal of the Linnean Society, n/a-n/a. http://doi.org/10.1111/bij.12193

Fedorova, N., Evans, C. L., & Byrne, R. W. (2017). Living in stable social groups is associated with reduced brain size in woodpeckers (Picidae). Biology Letters, 13(3). Retrieved from http://rsbl.royalsocietypublishing.org/content/13/3/20170008.abstract

Burton-Chellew, M. N., El Mouden, C., & West, S. A. (2017). Social learning and the demise of costly cooperation in humans. Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences, 284(1853), 10–12. http://doi.org/10.1098/rspb.2017.0067