[裏06]どうしたら英語ができるようになりますか

空前の追試ブームが日本を席巻した2014年の春でしたがみなさまいかが過ごされたでしょうか。かつてこれほどマスコミにおいて「追試」という言葉が語られたことはあったのだろうかと思うと、心理学研究法の講義で「再現可能性が大事じゃけぇ!」と叫び続けてきた身としては隔世の感が有ります。本号が出る頃にはゴタゴタにもおそらく方が付いているであろうとも思われるかの事件ではありますが、うまく使えば大学教育に役立てることのできる面もあったなぁとか。そうでも思わないとやり切れないというのが実際のところでは有りますが。

ところで今の職場で仕事を初めてはや3年目。ということは講義も3年目に入るわけです。最初の年は無我夢中、2年目は初年度の貯金でやりくり、とつつがなく過ごしてきたわけですが、同じ話を三度目となるとさすがに飽きてくる。講師が飽きると学生にも伝わるものですし、ここは一つ先生がんばっちゃうぞと、もろもろ抱えた原稿のことは脇において、そうだ毎週一つは新しい論文を紹介しようそうしようと意気込んだのが4月のことでした。それで取り上げたのが風呂と寂しさの研究ですよ。

温かいモノを持つと温かい気持ちになるって話があるんですね。実験参加者に「ちょっとこれ持っていてもらえます?」ってホットコーヒーを渡す。それから「かくかくしかじかの人物についての印象を答えて」って頼むと、なんか温かい人かなぁって印象を持ってしまうという嘘か真かなんなのかって話が有名で。えー?とか思うんですが、物理的温かさ心理的温かさで脳の同じ場所が活性化するなんて話を聞いちゃうとね、コロッと信じちゃうわけです。脳みそがピカピカ光ってる図のカッコよさっていったらないですからね。

それで、この話をやったバージさんのグループ(Bargh & Shalev, 2012)が、今度は「寂しいと風呂に入るじゃろ」って論文を出していて、こらオモロイ。どんくらい寂しいですか?風呂には週何回入りますか?(シャワー可)。一回の長さはどれくらいですか?水ですか熱湯ですか?って質問したら、寂しい人ほど良く風呂(またはシャワー:以下同じ)に入るし、長く風呂に入るし、熱い風呂に入るって。うん間違いなく学生さんに受ける。これで学期末の授業評価は満点だとか邪な心を持ってしまったのす。我々だって人間ですからね。学生が喜んでると嬉しいわけです正直な所。

言い訳をさせていただきますと、ちょっとアレだなぁとは一瞬思ったんです。サンプルサイズが小さいなぁって。きいた相手が大学生51人なんですわ。それに敵はバージだしって思ったとか思わなかったとか、そこはまぁアレってことで。さすがにまぁ大学生だけだとアレって思ったのか、大学周辺の一般人にも質問してるんですが、こっちも41人。今や南米の大河を泳ぐのロボットトルコ人の大群が数百数千の単位で活躍するご時世ですからね。こんな単純な質問なのになんで人数これだけ?って思いましたよそりゃ。でも邪な心がね、勝ってしまったのです。

正直参りました。これまた過ぎ去った原稿の〆切のことを脇においてSNSとか眺めていたら、例の研究は再現できず。9回やってもあかん。って話が流れてきまして。これまたSNS経由で教えてもらった論文草稿をキタコレとばかり読み始めたらこれですよ。

... we learned that 46 of 51 participants (90%) reported taking less than one shower or bath per week.(中略) In addition, the modal response to the temperature variable in Study 1a was also surprising given that 24 out of 51 participants selected the "cold" response (47%) and 18 selected the "lukewarm" response (35%). (Donnellan, et al., Emotion, in pressより)

追試研究者がバージたちの元データを手に入れて分析してみたところの話なんです。そしたらサンプルがめちゃくちゃ変じゃね?って思って追試することにしたって書いているんです。それでたぶん「回答者51名中46名が週一回未満しか風呂に入らないって答えていた。約半数の24人は冷水、18人は生ぬるい水の風呂に入ると答えていた」って書いてあるんだと思うんです。思うんですけど、いくらアメリカ人でもこんな偏った回答あるんかって。自分の英語力にすっかり自信をなくしてしまいました。だからご質問には答えることができません。