[裏08]正しく生きたいのです。
多摩川の神さまは、近ごろ北国から引っ越してきて興味津々。近所のニンゲンたちが何を考えているのか知りたいと思いました。そこで使いの者をやってちょっとしたイタズラをしてみることにしました。
「ホイ、心太、お前に小判をあずけるから、カクカクシカジカして来なさい」
「ガッテンだよ神さま!」
心太はいそいそと川岸に出かけて行きました。
上流から優太が歩いてきました。一本橋を渡ろうとしてきたところで、心太が声をかけました。
「もし、優太。お前に小判を10枚やろう。でもお前がそうしたいというなら、お前が受け取らなかった分は、次に通りかかった者にやることにしよう。お前が譲らなかったら、次の者にはなんにもやらん。」
「そんな、神さま。案外ケチですね」
心太は心外に思いましたが、こういう時にと、神さまから教わった通りの科白で答えました。
「こちらにも色々と事情があってな」
優太は小判5枚を次の人に譲ることにしました。「だって、お互い様だもんな」優太は独り言ちました。
「それにしても、オラもこんな服を来て、こんな風に現れると、神さまに見えるんだな。ウフフ」 心太は嬉しくなりました。
経太がやってきました。
「もし、経太。お前に小判を10枚やろう。でもお前がそうしたいというなら、お前が受け取らなかった分は、次に通りかかった者にやることにしよう。お前が譲らなかったら、以下略だ。」
「なんで?」と経太は言いました。「なんだって次の人に小判をやる必要があるのさ?神さまの言うことはワケガワカラナイヨ」
「こちらも色々と事情があってな」 お決まりの科白で心太が返します。
「まあいいや。オレは10枚もらうよ。ありがとうな」 経太はスタスタ歩いていきました。
経次がやってきました。
「もし、経次。お前に小判を10枚やろう。でもお前がそうしたいというなら、以下略だ」
「えええ?」神経質そうに経次は考えます。「全部とか言ったらどうなるんだろう。なんかあるんじゃないのか。罠か。罠なのか。罠なんですか?」
「こちらにも色々と事情があってな」心太はそれしか言えません。
迷った末、経次は小判を9枚、もらうことにしました。
「はて。ニンゲンにも色々いるもんだのう」多摩川の神さまは楽しくなってきました。それで、三人を呼び出して質問してみることにしました。もちろん訊くのは心太の仕事です。「もし、お三方。お前さまたちは、人生に満足しているかね?」
優太は言います。「ぼちぼち、かなぁ」。
経太は言います。「うん、満足してるよ」。
経次は言います。「うーん...」。
分散分析してみると三人の差は有意でした。多重比較をすると、経太>優太>経次という差が見られたのでした。「生きるって、ややこしいことだなぁ」心太は考えこんでしまうのでした。
多摩川の神さまは、このことをサイコロジカルサイエンスという雑誌に報告したそうです。
#語弊曲解拡大解釈は百も承知です。論文を読んでくださいね(Yamagishi et al., 2014)。