研究倫理についての記事

'Zombie papers' just won't die. Retracted papers by notorious fraudster still cited years later. Jeffrey Brainard, Science, 2022

架空の臨床研究は当然のことですが、医学に何の貢献もしません。むしろ悪影響があります。ここでは、不正により撤回された論文が与える深刻な影響が議論されています。Systematic reviewでは解析対象の論文が撤回されてしまうと、結論が変化してしまうことがあります。撤回論文を含むレビュー論文のほとんどは修正されることがありませんが、これは間違った結論を社会に発信していることになるでしょう。撤回された論文が臨床ガイドラインに収載されていることもあります。この場合は、現場の医師の判断を不適切なものにしている可能性があります。現実に私たちにこれだけ大きなインパクトを与える臨床研究不正ですが、メディアによる言及は僅かであり、医学界からの自浄作用も目立ちません。

Predatory Journals That Publish Shoddy Research Put People’s Lives at Risk. Naomi Oreskes, Scientific American, 326, 59, 2022

捕食出版の跋扈は、医学研究の記録を汚染しており、無意味な論文や間違った論文が検索に登場することによって、私たちの命を間接的に危険にさらしています。

Correction of scientific literature: Too little, too late! Besancon, L., Bik, E., Heathers, J., Meyerowitz-Katz, G. PLoS Biol. 2022

科学研究をいかに早く訂正するかという課題についての提言です。現状の学術誌における「訂正」はあまりに遅く、研究コミュニティへの貢献が不十分だといえるでしょう。ここでは、1)学術誌は合理的な懸念が表明されたらExpression of Concernをすぐに出すこと、2)表明された懸念に対して学術誌が応答する時限を設けるべきであること(COPEガイドラインなどが想定されています)、3)新たな知見を得たことと同等にこれまでの知見を訂正したことも研究費審査や人事で評価されるべきであること、4)間違いを探すことについても訓練を受けるべきであること、5)研究に対する懸念の表明が、対象となる研究の著者や研究機関からの脅しから保護されること、といった提言が行われています。「間違いを訂正する文化」を意識的に醸成していく必要があります。

研究スキル売買の背景 専門家が指摘する科学技術政策の弊害毎日新聞、2022

英文校正や測定の外部委託などは研究者にとってお馴染みのサービスですが、ネットを舞台にした研究スキル売買が盛んになっています。匿名で受けることが最大の問題点ですが、現在の研究環境の問題点が凝縮したトピックでもあります。長めの記事にしていただいたので、それらの論点を提示できていると思います。今後、各研究領域での議論が進むことを期待しています。

「研究スキル売買」から見えるもの化学、2022

毎日新聞で取り上げられた「研究スキル売買」の背景にある研究環境の問題についてまとめています。いろいろな論点が含まれていることをご理解いただけるのではないかと思います。(化学同人様のご厚意でPDF版のアップロードを許可いただきました)

Science Publisher Company

記事ではないですが、ここではScopusやWeb of Scienceに収載される論文の共著者の権利が買えます。予定稿については投稿の際にタイトル等は修正されるようです。First authorやLast authorのお値段は5~10万円というところです。単なる詐欺なのか、あるいは本当にこうした論文が公刊されているのかは明らかではありません。

Reproducibility: expect less of the scientific paper. Amaral, O. B., Neves, K. Nature, 2021

ライフサイエンスにおいて、探索的研究と検証的研究の両方をひとつの論文で示そうとすることに弊害が指摘されています。ひとつの論文のデータが肥大化することにより、ひとつひとつの結果の精確性は減少し、査読によって問題点が発覚する確率も低下します。前臨床研究における両者の研究を分離することで、研究者はより自由に、また質の高い研究を実施できるようになると考えられます。研究の信頼性を担保する重要な営みであるにも関わらず、検証的研究の成果を適切に評価することは今もできていません。資金配分機関によるコンソーシアムの設立、検証的研究への貢献に対する適切な人事評価と言った枠組みを形成していく必要があります。

Landmark research integrity survey finds questionable practices are surprisingly common. de Vrieze J. Science, 2021

オランダで実施された大規模な研究公正に関するアンケート結果についてのScienceの紹介記事。2つのPreprint論文(その1その2)として結果が発表されています。匿名を保証することで質の高いデータが得られているようです。対象は自然科学、人文社会学両方で、6800名が回答。最初から協力を拒否した研究機関も多いとのことです。過去3年間で、QRPの経験は半数、研究不正(FFP)は8%とのことで、これまでの調査では一番高い数値ですが、Fanelli博士、Bik博士のコメントにあるようにリアルな数字である可能性が高いです。

・「研究不正」を見つけたら…… 田中 智之 現代化学、604, 30-33, 2021

どのような立場でどのような不正行為を見るかで対応も変わる可能性があり、難しいテーマなのですが、ひとつの考え方として書いてみました。このようなテーマを与えていただき、感謝しております。セクシャルハラスメントの問題に見られる変化のように、研究室の構成員が「これはおかしい」という雰囲気を醸し出すことができれば、あるいは未然に防がれる不正もあるかもしれません。研究室主宰者がラボの構成員に対してどんどん情報公開することでも、不正はある程度防ぐことはできるでしょう。研究室で是非議論していただきたい話題です。

Research integrity: nine ways to move from talk to walk. Mejlgaard, N. et al., Nature, 586, 358-360, 2020

Standard Operating Procedures for Research Integrity (SOPs4RI)の取り組みについての紹介記事。公正な研究評価(メトリクス偏重ではない)、大学院生の指導、告発者・被告発者の保護、FAIR原則(データの管理)、オーサーシップといった本質的な議論が行われています。不正が起こる要因に遡って、これを解消しようという意欲が感じられます。(→「白楽の研究者倫理」における解説

・学術出版における研究公正の動向 田中 智之 薬学図書館65 (4), 177-181, 2020

誌上開催となった日本薬学会第140年会のシンポジウムの演者による特集です。近年のトピックをまとめています。

How to be an ethical scientist. Cunningham, W. A., Van Bavel, J. J., Somerville, L. H. Science, 10.1126/science.caredit.abe1882. 2020

  1. Be open to be wrong

  2. Don't overstate your findings

  3. Solicit critical feedback

  4. Be transparent,

  5. The big picture

Ethicalな研究者になることは、現在の研究環境では結構難しいことを逆に意識させられる記事です。いずれもごく当然の姿勢といえるものなのですが、それが簡単に達成できないということを反映しています。

Ten takeaways from ten years at Retraction Watch. Retraction Watch, 2020

Retraction Watchの10年を振り返る記事。
1.論文撤回は以前より普通のこととなっている:20年間の論文総数の増加は2-3倍だが、撤回論文数は40倍に達した。
2.学術誌の対応は極めて遅い:急いで対応するためのモチベーションがない。あるいは放置されることもしばしばある。
3.改善されている学術誌もある:Retraction noticeにおいて詳しい説明が行われることが増えている。学術誌がintegrityの専門家を雇用する動きもある。
4.研究公正を推進する動きが加速している:研究コミュニティにおいても、不正を追及し、これを公開の場で議論する機会が増大した。
5.ミスコンダクトが大きなメディアに報道されることが増えた:
6.より巧妙な手法で不正が行われるようになった:画像操作、査読者の偽装、引用の粉飾、論文工場、共著者の権利の売買など
7.社会的評価の低下は想像していたほどではない:撤回公告における説明がクリアであれば、研究者の評判は落ちることはない。善行は割に合う。
8.ビッグファーマの論文、あるいは研究者に掲載料を求める学術誌での撤回は少ない:むしろ研究者のキャリアをブーストする学術誌に撤回が多い。
9.法律家(弁護士)の役割は大きい:訴訟リスク等は研究公正の推進にかかるコストを増大させる。
10.論文撤回をどう呼ぶべきか(議論は続く):ミスコンダクトによる撤回も、科学者の善行のひとつとである誤りの自己申告も、いずれも論文撤回ではあるが、同じものではない。

The Pandemic Is Pushing Scientists To Rethink How They Read Research Papers. Harris R. NPR, 2020

Covid-19ではたくさんの論文が発表されましたが、アメリカの研究者にとっては、中国やイタリア、スペインといった「よく知らない」国からの研究の波を受け止めるという経験になったようです。知り合いの話や著名な研究者に価値判断を依存することの危険性が述べられていますが、一方で、研究者同士の国際的なつながりの重要性も強調されています。

Just How Historic Is the Latest Covid-19 Science Meltdown? Marcus A, Oransky I. Wired, 2020

Surgisphereのスキャンダルは本当にめったにない大型の研究不正なのか?というRetraction Watch主宰者らによる論説。WakefieldのLancet論文は今も余波が続くという意味で大きな影響を与えました(Lancetに学習効果が認められないことは残念です)。繰り返し指摘される課題が解決されるためには、不正がもたらす深刻な影響をもっと理解してもらう必要があるのかもしれません。

Assuring research integrity during a pandemic. Gopalakrishna G, Bouter L, Mayer T, Steneck N. the bmj opinion, 2020

緊急時における研究公正はいかにあるべきか。研究公正の専門家であるSteneckらによる提言。

1.関連する研究者や学会は研究公正の毀損に対して声をあげる責任がある、2.政府の諮問委員会意思決定のプロセス、利益相反を透明化するべき、3.学術誌は査読の有無を明らかにするべき(プレプリントは査読がないことに注意を促している)、4.準備段階から研究計画に対する開かれた議論ができるようにするべき(事前登録制度の利用等)。

A mysterious company’s coronavirus papers in top medical journals may be unraveling. Servick K, Enserink, M, Science, June 2, 2020

Surgisphere: governments and WHO changed Covid-19 policy based on suspect data from tiny US company. Davey M, Kirchgaessner S, Boseley S. The Guardian, June 3, 2020

Unreliable data: how doubt snowballed over Covid-19 drug research that swept the world. Davey M. The Guardian, June 4, 2020

Two elite medical journals retract coronavirus papers over data integrity questions. Piller C, Servick K. Science, June 4, 2020.

The Lancet has made one of the biggest retractions in modern history. How could this happen? Heathers J. The Guardian, June 5, 2020

Coronavirus drugmakers' latest tactics: Science by press release. Brennan Z, Goldberg D. POLITICO, June 5, 2020

Rush to Publish Risks Undermining COVID-19 Research. Redden E. Inside Higher ED, June 8, 2020

Who’s to blame? These three scientists are at the heart of the Surgisphere COVID-19 scandal. Piller C. Science, 2020

Surgisphereという米企業を舞台にしたCovid-19関連の大がかりな不正事件に関する一連の報道。ハーバードのBWHの教授が共著者となり、実体の不確かなデータセットをもとに、LancetとNEJMに論文が掲載されました。これらは医学研究者による批判を受け、早々に疑義が指摘され、最終的に撤回されています。ヒドロキシクロロキン(HCQ)がむしろ心リスクをあげるというLancet論文は、WHOがHCQの臨床研究に停止勧告を出す根拠となったのですが、こちらも論文撤回を受け撤回されました。トランプ大統領がHCQを予防的に服用していたこともあり、その効果を否定、リスクを指摘する論文のインパクトは大きかったと思われます。毎日新聞の八田浩輔記者の記事は「政治化されたエビデンス」という優れたキーワードでこの事件を描いています。

日本人には馴染み深いイベルメクチンの有効性を示唆したプレプリント論文も同時に撤回(SSRNでは投稿したものを消滅させることができるようです)されているのですが、イベルメクチンは南米では国家のレベルで期待が高まっていたようです。

緊急時という理由で、治療薬、ワクチンいずれの開発も急ピッチですが、臨床試験では被験者のリスクが重視されなければいけません。有効な治療法がないということを理由に、根拠の弱い治療法を試すということには倫理的な歯止めが必要です。被験者を守るためのレッドチームを設置するといった配慮が求められるところです。

NEJMが国際的なビッグデータを利用した論文の専門家を審査に加えるべきだったと反省している一方で、Lancetは査読は適切に行われたと回答しています。Lancetは過去にWakefieldのねつ造論文を掲載したことを引き合いに出されていますが、編集プロセスの見直しをする意志がないのであれば、再び同様の事件は起こるでしょう。

Scientific Misconduct: Authorship for sale. enago academy, 2020

Authorshipを売るという中国の話題は、ここでも引用されていますが、2013年のScience誌でも取り上げられています。7年が経過して状況は悪化し、Paper Millも登場する状況です。競争が激しすぎること、研究者のキャリアをもって評価するということが、中国ではまだ定着していないということを反映しているように思います。しかし、DORAのような運動があってもなおメトリクス至上主義は見直される気配はありませんので、国際的にも中国の状況を非難できる国は多くはないでしょう。

What Do Trump And Yale Medical School Have In Common? Both Were Duped About A COVID-19 Treatment. Salzberg, S. Forbes, 2020

トランプ大統領が入れ込んでいて、予防的に毎日服用しているという記事も出ていますが、ヒドロキシクロロキンによるCovid-19治療に関する記事。Bik博士による記事がさらに詳しい事情を解説していますが、フランスではかなり力のある微生物学者であるDidier Raoultによる臨床研究には数々の問題があります。一方で、彼の自信たっぷりの売り込みはトランプ大統領やYale Medical Schoolでは評判が良いようです。副作用の強い医薬品であるため、ただ単に効果がないだけではなく、患者の命を奪う可能性すらあるわけですが、有力な治療薬のリストからはなかなか消えません。

Covid-19 and bad science. van de Vosse, E. EV Science Consultant, 2020

新型コロナウイルスに関するpreprint surge、および学術誌の速報優先によるBad scienceの広がりを取り上げています。

How swamped preprint servers are blocking bad coronavirus research. Kwon, D. Nature, 2020 (News)

新型コロナウイルスのパンデミックに伴い、緊急性の高い研究成果の公開が促進されています。プレプリントサーバには大量のCovid-19論文があふれ、査読を実施している学術誌においても査読期間が大幅に短縮されています。この記事では、プレプリントサーバのスクリーニングの実際が紹介されており、盗用の有無、論文の構成といった最低限の品質保証に加えて、陰謀論に基づく論文や、不確かな治療法といった有害な情報を送り出さないようにするための努力が行われていることが分かります。冒頭では、プレプリントサーバから、査読のある速報誌に投稿することを勧められるという事例が登場します。ワクチンと自閉症の関係を示す怪しい論文がLancetに掲載された過去を考えると、プレプリントサーバにおいて品質管理の問題が議論されているという状況は好ましいものと言えるでしょう。medRxivは直接、医療に関わるデータが多いことからbioRxivよりさらに徹底した審査が行われているようです。むしろ、審査が24時間以内で受理されている速報誌の方が問題が多いのかもしれません。

Science Has an Ugly, Complicated Dark Side. And the Coronavirus Is Bringing It Out. Mogensen, J. F. Mother Jones, 2020

生命科学の領域がもともと有している課題が、新型コロナウイルスのパンデミックによって表面化しているという分析。Attractiveな研究を求める学術誌が、速報性を盾にsloppyな研究成果を世に送り出しています。これは耳目を集めるニュースを求めるメディアと結合して、社会に大きな悪影響を与えているといえるでしょう。現在医学のトップジャーナルに掲載されている速報は、平時であれば最悪の医学誌にも載っていないだろうという指摘は辛辣ですが、現状をよく表しています。

No raw data, no science: another possible source of the reproducibility crisis. Miyakawa, T. Mol. Brain, 13, 2020 (Editorial)

Mol. Brainに投稿され、本論説の筆者である宮川剛博士が担当した181の論文のうち、不自然に整ったデータが含まれる41論文に生データの送付を求めたところ、適切に対応できた投稿は1件しかなかったとのことです。多くはイムノブロットや組織写真とのことで、Bik博士が指摘している問題ともオーバーラップしています。また、ここでは述べられていませんが、Paper Millからの投稿とみられるものも含まれていたそうです。グラフの不正は決して査読では見つからないことを考慮すると、不正論文の比率というのは実際には私たちが考えているよりも遥かに高いという可能性があります。

Meet this super-spotter of duplicated images in science papers. Shen, H. Nature, 581, 132-136, 2020

Bik博士に関する紹介記事はいくつかありますが、Natureのこの記事は充実しています。画像操作が見出された論文の大半は、研究機関、あるいは学術誌、いずれも対応をとっておらず、告発全てが対応された場合のインパクトはかなりのものになるはずです。中国の国家的な重要研究者のグループの画像操作を指摘した際には、大きなニュースになり政治的な意図を想像する人まで現れました。しかし、実数として中国発の論文は数も多く、かなり激しい競争もあることから、ある程度不正がヒットしやすい状況になっていることは間違いないでしょう。Bik博士は、微生物学分野での実績を有する研究者であることがひとつの強みであり、同じような背景で研究公正に取り組み研究者はまだ少ないです。私は研究論文の中にモザイク的に合成された画像がこれほどたくさんあるとは気付いていませんでした。

不正として告発する意図がないということは何度も強調されており、酷いものは撤回、間違いは訂正という形で対応が行われることを期待しているというスタンスのせいで、今のところは訴訟も起こっていないようです(SNSにおける酷い中傷は目にしますので、こちらはストレスになっていると思います)。

Is research integrity training a waste of time? Conroy, G. Nature Index, 2020

研究倫理教育には効果があるのか?アウトプットの指標を研究不正の数とするならば、暗数が多すぎて、評価不能です。BMC Medical Ethicsの論文は、「(もともと)悪い」研究者という見方をサポートするものでした。倫理教育は早ければ早いほど良い、公式な教育は少なくとも学部生の時期には必要という見方が紹介されています。研究者の性向を調べる上で、失敗をどう取り扱うか、研究のショートカットをしないかという観点は興味深いです。

The tadpole paper mill. Bik, E. Science Integrity Digest, 2020

Paper Millとは、学術論文や博士論文を有償で請け負ういわゆるContract Cheatingの中でも、論文を量産するタイプの組織を指す言葉です。お金で学位を売るのがDiploma Millですが、Paper Millはそれが論文になるケースです。大量生産するためには、ひとつ一つに手間をかけるわけにはいきませんから、あるテンプレートにそった構成、データはリサイクルか、改ざんという手段に頼ることになります。実験をしないことはいうまでもありません。記事では、400を超える量産型論文が同定されていることが解説されています。百均の商品にカラーバリエーションがあるように、量産型論文は基本的な構造は同じですが、扱う遺伝子や疾患の組合せが変えてあります。また、採択されやすいように旬のテーマであるmiRNAなどの要素も散りばめられています。日本と同様、中国では医師が学位を取る際に基礎研究の論文が求められるということも背景にはあるようです。Paper Millの論文はしばしば異なる学術誌に同時に投稿されます。これからはORCIDをはじめ研究者のIDの確認が厳しくなるでしょう。また、プレプリントサーバが重投稿の防止のために利用される(あるいは事前の投稿が奨励される)ということも起こりそうです。Leonid Schneiderによる皮肉の効いた解説はこちらです。

Don't correct science papers with manipulated photos – Retract! Bik, E. Science Integrity Digest, 2019

Bik博士は画像操作のある研究論文を多数告発していますが、画像操作にはふたつのタイプがあります。ひとつは、同じパネルを使い回すもので、どちらか一方はキャプションと異なるわけですから、ねつ造、改ざんの疑いが生じます。しかし、これはうっかり間違って配置したという言い訳が定番で、これを否定することは難しいです。例えば、実験対象は異なっているにも関わらず、ローディングコントロールのデータが同一であるケースなどが該当します。しかし、組織染色のデータなどで回転操作を加えていたり、あるいは縮尺率を変えて再利用したりしているものは意図的な操作である可能性が増します。もうひとつは、画像を切り貼りして新たなデータを合成しているケースです。こちらはうっかりミスと言い逃れすることは困難です。この記事では後者の画像の使い回しについて、出版社がcorrectionを認めることが批判されています。意図的にデータをねつ造していることが明らかとなったグループの他のデータが信頼できるかどうかは調査をしてみなければ分からないわけです。わが国では、そうしたケースで調査委員会から訂正を求められてもcorrectionすらしないケースがあります。そうしたラボのトップは国内での問題が小さい扱いに留まることで安心しているようですが、不正研究のトレースに時間をかけることの不毛さを嫌う研究者が彼らの研究をどう見ているかについてよく理解していないと思います。日本からの研究論文はデータそのものの真贋というおおよそ科学研究以前の偏見をもって評価されるようになってしまう可能性があります。

When it comes to good practice in science, we need to think global but act local. (Editorial) Nature, 2019

"change will come when we work alongside the communities we wish to change."とある通り、研究公正の推進には、トップダウンのポリシーや国際的な協調だけでは不十分で、草の根レベルでの研究者の努力も必要です。しかし、もしそう思うのであれば、Natureはもっと経験を積んだ研究者を編集部に加えるべきと思いますし、編集部独自の判断が幾多の迷惑を研究者コミュニティに与えてきた歴史を振り返るべきでしょう。

Top Chinese researcher faces questions about image manipulation. Normile, D. Science, 2019

中国の国家重点大学のひとつである南開大学に所属する曹雪涛(Cao Xuetao)博士に対して指摘されているミスコンダクトの疑義に関する記事。Cao博士はトップレベルの免疫学者として有名ですが、ミスコンダクトの指摘に少なくとも1年は専念することを宣言しているBik博士によって60の論文に問題があることが指摘されています。Cao博士は論文が示す結論に影響を与えるものではないと主張する一方で、自分にPIとしての管理責任があることを認め、学術誌とともに対応することを明言しています(Leonid Scheneiderによる記事)。中国のトップ研究者による不正の指摘であったため、Bik博士は特定の国を対象にした指摘ではないことを後日コメントせざるを得ませんでした。Bik博士は約1300の指摘をPubPeerで実施しており、対象となった研究者には日本人も含まれています。

The science institutions hiring integrity inspectors to vet their papers. Abbot, A. Nature, 2019

ドイツのFritz Lipmann InstituteがイタリアのResisという企業と契約し、研究所から投稿される論文を事前に点検するというニュースを軸にした記事。こうした予防措置は本質的なものではないので、外部から不正を指摘されないレベルの巧妙な不正論文に変わるだけかもしれません。研究所のモチベーションは、ミスコンダクトの発覚に伴う経済的な損失をコンサルタント企業との契約費と比較して合理的な方を選択したということであるようです。そもそもミスコンダクトが起きにくくするには?という観点のコメントはどこにも出てきません。Natureの関心はそこにはないのかもしれません。

Before and After Photoshop: Recursive Fraud in the Age of Digital Reproducibility. Biagioli, M. Angewandte Chemie, 2019

論文を作成、編集するための電子ツールとミスコンダクトのあり方の変化に関する議論。

Citation Contamination: References to Predatory Journals in the Legitimate Scientific Literature. Rick Anderson, The Scholarly Kitchen, 2019

捕食学術誌をいくつか選んで、掲載論文がどの程度引用されているかを調査した記事。あくまで部分的な話ではありますが、捕食学術誌の数を考えれば無視できる話ではないかもしれません。コメントにありますが、どういう文脈で引用されたか、あるいはグループ内での自己引用がどの程度かなど、さらに詳しく調べる余地はあるでしょう。しかし、平均的な研究者であればネガティブな文脈でわざわざ誰も知らないような学術誌の論文を引用しないと思いますので、ある程度意味のある結果だと思います。要約から判断して自分の仮説にマッチした論文を引用するようないい加減な態度の研究者もおそらく存在するでしょう。

気付いていないのはPIだけ?Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 8, 2019

この調査では、研究に取り組む姿勢やその実際について、研究室主宰者(PI)と構成員は同じものを見ているにも関わらず、その認識が異なっていることが示されています。PIが健全な研究室と考えていても、実際にはPIの抱える研究費獲得への焦燥感が投影されているようなラボでは、PIへの迎合は容易にミスコンダクトにつながるでしょう。IFや研究費獲得実績をもとに研究者を評価することを通じて、PIとして相応しい能力があるかという観点は軽視されるようになりました。近年、研究公正の議論の中でもメンタリングは重要なテーマとして注目されています。

'Bad science': Australian studies found to be unreliable, compromised. Liam Mannix, The Sydney Morning Herald, 2019

Retraction Watchのデータベースは、これまで研究領域の一部でしか知られていなかった撤回論文を可視化するものであり、様々な解析が可能な資料と言えます。オーストラリアでは複数のトップ大学において大量の撤回論文があることが改めて注目されています。ここでも研究機関ではない、公正局的な組織の設置が話題に上っていますが、有力な研究者による反対もあるようです。公正局の設置の前にまだやることはある、研究コミュニティの自浄努力が必要という主張はよくあるものですが、公正局の設置を否定する説得力のある意見とは言えないでしょう。

Sweden Passes Law For National Research Misconduct Agency. Chia-Yi Hou, The Scientist, 2019

スウェーデンでは、カロリンスカ研究所におけるPaolo Machiariniによる臨床研究の不正事件や、ウプサラ大学のOona LönnstedtによるScience誌の論文におけるミスコンダクトなど、一流研究機関における不正事件が相次ぎました。どちらの事件も非常に教訓的で、研究機関が調査の主体であることの限界を如実に示すものでした。ミスコンダクトの判定は二転三転し、事実をもって粘り強く活動した告発者やその支援者が最終的には真相を明らかにしたものと言えるでしょう。こうした事件を受けてスウェーデンでは研究不正を監視するための機関が設立されました。わが国でも理化学研究所、東京大学とトップレベルの研究機関で不正が相次いでいますが、その教訓はこのような形で活かされることはなく、むしろその後、さらに悪質な隠蔽行為や、不正に当たらないことを強弁する姿勢が目立つようになってきました。彼我の相違は今後の研究環境に大きな影響を及ぼすことでしょう。

パウロ・マッキャリーニ(研究者倫理、白楽ロックビル)

ウウナ・ロンステット(研究者倫理、白楽ロックビル)

The Macchiriani Case: Timeline, Karolinska Institute

Investigation finds Swedish scientists committed scientific misconduct. Nature, 2017

NIH SCIENTIST A SUICIDE AMID PROBE OF PAPER. The Washington Post, 1987

eLife誌の編集長であるMichael Eisen博士の父親は、NIHの研究不正調査の過程で自死を遂げています(2019年の本人のtweet)。30年以上前の事件ですが、研究機関による調査の問題点は当時から指摘されています。今、この記事を読んでも教訓があるというのは、研究不正調査のあり方に改善が見られない証でもあるといえるでしょう。わが国においても不正調査に伴う自死を何度も経験しながら、未だに調査方法のガイドラインすらありません。研究機関が調査を主導する場合、1)不正認定を避けるために事実を歪曲、あるいは意図的に調査を実施しない、2)不正が発生する全体的な構図を隠蔽するためのスケープゴートを設定する、といった問題点があります。告発者は誠実であるが故に責任の一端を厳しく追求されることが大きなストレスになり、また事実関係について研究機関側が描いた構図にはめられてしまうことがしばしばあります。

Nature yanks article that was actually advertisement on controversial stem cells. The Niche. Knoepfler LAB stem cell blog, 2019

東北大学で見出された幹細胞、Muse細胞は、iPS細胞とは異なり、国内のひとつのラボからの論文が主要な報告であり、再現性の確認や発展的な研究に関する国外からの報告は限られています。関連するベンチャー企業が設立されており、国内ではNEDOが中心になって支援しています。記事はSTAP細胞のnetにおける検証でも有名な、Knoepfler博士のブログ記事です。現在この記事は撤回されていますが、Nature誌で広告という形でMuse細胞の臨床応用について取り上げられています。ブログ記事にもなぜこのような紛らわしいことをNature誌がやっているのかが疑問視されています。医療イノベーション推進センターが太字で強調されており広報活動の一環なのかもしれませんが、関連するベンチャー企業も存在する中、広告がどのように受け止められていたかが懸念されます。

China introduces ‘social’ punishments for scientific misconduct. Nature, 2018

中国では社会的信用の数値化、可視化の取り組みが話題になっていますが、このシステムを利用して研究不正を犯した研究者を社会的に制裁するという枠組みが導入されることが決まったようです。

French science behemoth launches research-integrity office. Butler D. Nature, 2018

フランス国立科学センター(CNRS)では大きな研究不正問題が明るみに出ましたが、そうした事態を受けてアメリカのORIに相当する組織が設立されることになりました。

Publication misconduct: changing the conversation. Farley S. Springer Nature, 2018

Springer NatureグループのResearch Integrity Directorによる記事。相当なフラストレーションがあることがうかがえる記事で、最後は研究公正に向けた連携をよびかけています。自らが所属するNatureグループから変えていくという姿勢は結構ですが、Editorへの饗応や利益相反問題、sexyなトピックを優先するあまり専門的なreviewerの助言に耳を傾けない、といったNatureへの批判に対しては沈黙状態です。そこから始めることが望まれているのではと思います。

What a massive database of retracted papers reveals about science publishing’s ‘death penalty’. Brainard J, You Jia, Science, 2018

Retraction Watchの撤回論文データベースの公開にあわせた、論文撤回に関する特集記事。読み応えがあります。研究不正の実態は闇に包まれているところがあるわけですが、それでもデータベースによってこれだけの知見が得られています。

Austrian agency shows how to tackle scientific misconduct. Nature, 2018

オーストリアにおける研究公正の実践についての紹介記事。1)迅速で毅然とした対応、2)法的な問題を必要以上に怖れない、3)ひとつの方針で全てを間に合わそうとしない、4)法的な整備の必要性、といったポイントがあげられています。政治的な解決が求められますが、要は解決する意志があるのかということかもしれません。Funding Agencyや官庁は訴訟リスクを懸念することが多いですが、判例が蓄積しないことには法曹における研究不正の理解も深まりません。そうした我慢ができるかどうかということも問われています。

Institutional Research Misconduct Reports Need More Credibility. Gunsalus CK, Marcus AR, Oransky I. JAMA. 319, 1315-1316, 2018.

ミスコンダクト案件に対する調査報告書が玉石混淆であるのは、アメリカでも同じであるようです。この論文では、調査報告書に含まれるべき情報をチェックリストの形式で提案しています。文科省も調査報告書の書式のガイドラインを示しているわけですが、それを逸脱した際に、調査報告書の再提出が要請されるわけではありません。要は運用のところで骨抜きになっているわけです。本論文は、Retraction Watchの主宰者も共著者となっています。白楽先生の解説:「もっと信頼できるネカト調査報告書を」研究倫理(ネカト)、白楽ロックビル、2018年

Researcher at the center of an epic fraud remains an enigma to those who exposed him. Kuphershmidt, K. Scienceinsider, 2018

見立病院、弘前大学、慶應大学の三機関が関与する臨床研究の不正事件の記事。これまで曖昧でしたが、不正行為を認定された研究者は自死をしていたことが明らかにされています。臨床研究の不正は、1)後続する臨床研究のデザインに影響を与える、2)治療ガイドラインに虚偽の情報が掲載されてしまう、3)これらを通じて患者に著しい悪影響がある、という点で基礎研究の不正と比較してダイレクトに社会に損害を与えます。本件の問題点は、1)あり得ないデザインの多数の臨床研究論文に共著者が気付かないのはなぜか(臨床研究は倫理委員会で審査されていたのか)、2)共著者の全員がギフトオーサーであるという調査結果を信頼して良いのか、3)突出した研究業績をもとに競争的資金を獲得していた共著者の責任は看過して良いのか、といったところにあります。記事の中では、共著者の弘前大学の学長(減給処分を受けていますが、公的な場での説明はありません)はノーコメントですが、一方で、慶應大学の教授が当該研究者は趣味的に不正を行う「オタク」であったという信じがたい発言をしています。一人の研究者の異常さに全てを押しつけて風化を待つというやり方が通用する時代ではないと思います。Retraction Watchの不正研究者のリーダーズ・ポールで日本が突出しているのは何故か?という問いかけが文中に出てきます。研究公正への取り組みが遅れており、またそのことを気にもかけないということが国際的にも広く知られるようになりつつあります。

サイエンス誌があぶり出す「医学研究不正大国」ニッポン」榎木英介、 Yahooニュース

Tide of Liesと題してScience誌に大きく取り上げられたこの記事についての背景の解説。

Examining the impact of research misconduct, and delays to its correction, on vitamin K reviews and guidelines. Alison Avenell, Andrew Grey, Mark Bolland, Greg Gamble. World Conference of Research Integrity, 2019

一連の研究論文の疑義を指摘、追求してきたチームによる報告。2019年に香港で開催された研究公正国際会議の発表スライドのPDFです。

Nine pitfalls of research misconduct. Gunsalus CK, Robinson AD. Nature, 2018

A table of Tragedies: 1. Temptation, 2. Rationalization, 3. Ambition, 4. Group and authority pressure, 5. Entitlement, 6. Deception, 7. Incrementalism, 8. Embarrassment, 9. Stupid systems.

研究機関のトップのintegrityに対する姿勢の重要性や、ラボメンバーが有害な研究活動を知ったときの手続きの整備などが取り上げられています。いずれも日本では手つかずの問題です。

Sacked Japanese biologist gets chance to retrain at Crick institute. Cyranoski D. Nature, 2018

東京大学の分生研における研究不正で懲戒解雇相当処分となった研究者の留学時の指導教員が、リハビリプログラムとしてこの研究者を受け入れているということを伝える記事。研究者としての再就職は厳しいだろうという見通しが述べられています。

・「アニル・ポティ」研究倫理(ネカト)白楽ロックビル、2018年

興味深い記事が多いので個別に取り上げていませんでしたが、アニル・ポティのデューク大学のケースはもっと注目されて良いと思います。研究機関が研究公正においてどのような役割を果たすべきなのか、そして実状はそこからどれだけ離れているのかを考察することができます。

・誌上シンポジウム「公正な研究活動を推進するには」薬学雑誌138巻4号、2018年

公正な研究活動を推進するには」小出隆規

日本における研究不正の実例とメディアでの取り上げられ方」榎木英介

アカデミアにおける研究不正への取り組み」安井裕之

AMEDにおける研究公正への取組」鈴木裕道

研究公正を目指す取り組み:現状と新しい動き」田中智之

平成29年の薬学会シンポジウムの記録です。いずれもPDFでダウンロードできます。

Researchers have finally created a tool to spot duplicated images across thousands of papers. Nature, 2018

PubMedでオープンアクセスとなっている760,000の論文を対象に、画像の使い回しを検出するツールの性能を検証した論文に関する記事。Bikの論文では検出は手作業でしたが、ソフトウェアを開発することによりさらに数多くの論文を対象とした解析が実施できるようになったようです。回転や拡大縮小、色合いの修正などは判定には影響を与えないようです。また、異なる論文をまたぐ形での使い回しが全体の43%を占めるという結果は、いわゆるミスコンダクトハンターの目をくぐり抜けているケースがまだあることを示唆しています。

Bioscience-scale automated detection of figure element reuse. Acuna DE, Brookes PS, Kording KP. bioRxiv, 2018

・「医学研究における不正行為の法的責任ーディオバン事件を手がかりとしてー」増成直美、山口県立大学学術情報、11号、2018年

ディオバン裁判の一審判決において違和感のあるところは、「学術雑誌への掲載が即ち医師の処方にポジティブな影響を与えるものではない」という判断です。ARBが極端に売れたのは国際的に見れば日本だけであり、製薬企業の販売促進活動の中で、論文として公表された臨床研究が大きな役割を果たしたことは関係者のよく知るところです。当該論文が存在しなければ大々的な広報も説得力のないものとなっていたでしょう。意図的な不正行為は保険財政を毀損したものであり、厳罰が適当だと思いますが、ノバルティスの責任を真摯に問えば国内の医学部の出血が避けられないという予測が厚労省による中途半端な告発を招いたように思います。

・「不正疑惑論文発見の真相」(PDF) 早稲田嘉夫 金属 88巻1号 75-88 2018年

東北大学の調査委員会は同大学の前総長にかけられた不正疑義について、重投稿やデータの使い回しに関する疑義は認めつつも、全体としては研究不正ではないと結論しました。一方で、不正疑義を指摘した教員たちに対する名誉毀損の訴訟では、総長側が勝訴を収めています。研究不正問題における課題や矛盾を凝縮したような事件ですが、この記事では研究論文を精査した際に見出された疑義について丁寧に説明されています。研究機関と専門家である研究者との見解が大きく相違したままという事案が増えていますが、その結果「研究機関に保護される」研究者の暴走を招いていると思います。研究機関が率先して学問を破壊するような調査報告書を出さざるを得ない現状は改めなければいけないです。目に見えるまでは時間がかかると思いますが、誰の目にも明らかになるころには当該研究領域の荒廃は大きく進んでいるでしょう。

Why scientists need to do more about research fraud. Grant, R. P., The Guarduan, 2018

Guardianは定期的に研究公正の記事を発信しています。この記事は研究不正に遭遇する実体験を描いたものです。よくあるエピソードということもできますが、実際がどのようなものであるかを紹介することはミスコンダクトを理解する上で役立ちます。

Due deligence. Sakabe, K. ASBMB Today, 2017

米国生化学・分子生物学会の会報に連載されていた特集記事。おもに生化学領域における画像の取り扱いが取り上げられています。

The importance of being earnest in post-publication review: scientific fraud and the scourges of anonymity and excuses. Stebbing J, Sanders, DA. Editorial, Oncogene, 2017

ミスコンダクトが指摘された際のよくある言い訳の例。1.おかしくないよ、2.生データはもうないんだ、3.よく見て見ろ、ちょっと違うだろう、4.コントロールだからいいだろう?結果は同じさ、5.未熟な同僚のせいなんだ、6.彼は外人なので論文に要求される基準がわからなかったんだ、7.結果の再現性は間違いないよ、8.誰かが私を陥れようといているんだ。

・「博士人材の研究公正力」松澤孝明 情報管理

博士人材の研究公正力(1):グローバル化時代の研究倫理教育」60巻6号、2017年

「博士課程カリキュラム全体の中でモジュールとして、段階的に標準化(基準化)された研究倫理教育を実施していく必要がある」:志向倫理をベースに、「適切な行動を選択する能力」を学ぶために継続的・反復的トレーニングが必要であることが指摘されています。

博士人材の研究公正力(2):研究倫理教育の類型学」60巻7号、2017年

研究コミュニティのレイヤーや、研究者自身のライフステージに応じた研究倫理教育のあり方について議論されています。精密な議論は大切ですが、我が国の実例があまりに後進的であることもまた感じざるを得ません。

博士人材の研究公正力(3):博士の意識と研究倫理教育」60巻10号、2017年

日本の博士課程在籍者は研究倫理に対する意識が非常に低いレベルにある可能性が指摘されています。研究不正というネガティブな用語が影響して、研究倫理の位置づけが「適切な研究活動を行う」という最終的な目標から離れたところにあるのではないかという考察です。オハイオ州立大学Weinberg教授(経済学)の「人材が研究の最も重要な成果物の一つである」という言葉が紹介されています。国際的に通用する一人前の研究者(もちろん、そこには研究公正の意識を持つことが含まれます)を育成するという意識が我が国では弱いのではないでしょうか。

Society recommends 9 retractions for co-author of researcher with record number of retractions. Retraction Watch, 2017

撤回論文数世界一で知られる事件の調査において、お互いの同意のもとギフトオーサー関係にあったことが明らかとなった研究者には、他にも独立した不正論文がありました(それを指摘する論文:Evidence for non-random sampling in randomised, controlled trials by Yuhji Saitoh. Anaesthesia, 72, 17-27, 2017)。日本麻酔科学会は最初の調査ではこの不正を見いだすことができませんでしたが、外部からの指摘を受け9論文の撤回を学会として勧告しました。

How a Retired Scientist’s Questionable ‘Institute’ Convinced the Internet That Cancer Was Cured. Alex Kasprak, Snopes, 2017

万能薬として注目を集めているGcMAF (Gc protein-derived macrophage activating factor)の背景を取材した記事。優れた研究者が晩年に臨床に関する仮説に傾倒し、研究不正まがいのことまでやってしまうというストーリーは、メガビタミン療法のポーリングを想起させます。種々のがんに治療効果があるという論文はいずれも不適切な実験手法が疑問視されて撤回されています(Retrcation Watchの記事)。GcMAFは改良版が医療法人再生未来により提供されており、自由診療ということで実際に治療に用いられているようです。2020年においてもこの医学的根拠を欠く治療薬の調製方法に関する論文が神戸医療産業都市推進機構から発表されているところは闇が深いです(Pubpeerの指摘)。医学研究において確固たる地位のある研究者がなぜこのような危ない橋を渡っているのか不思議ですが、慢性化した倫理観の欠如があるのかもしれません。

・「東大研究不正調査発表~医学部教授をおとがめなしにした東大が失ったもの」榎木英介(MRIC、医療ガバナンス学会)Ordinary_researchersによって告発された22報に対する東京大学の調査報告の問題点をまとめています。ガイドラインを遵守するということと、研究機関が社会的責任を果たすこととは同列では考えられません。研究コミュニティからの信頼を失うことは短期的には影響が小さいという判断のようですが、関係者が一線を退いてしばらくした頃に答がでるのではと思います。お膝元の医学部の学生はもはや基礎医学研究を見限っているのではないでしょうか。参考:「東大医学部、創立以来の危機」、学生が公開質問状(医療維新、m3.com)、東京大学医学部医学科 有志(学生による公開質問状)

Despite policy's weaknesses, NSF to reiterate stance on teaching good research habits. Mervis, J. Scienceinsider, 2017

米国科学アカデミーのFostering Integrity in Researchでも強調されていましたが、研究公正の推進における研究機関の責任は極めて大きいものがあります。Funding agencyは研究機関の取り組みを評価するという形で関わることができるわけですが、現実には様々な課題があります。

・「告発された東京大学研究不正」NHK News Web、2017

匿名の研究者集団と思われるOrdinary_researchersによって告発された東京大学医学部、同分子細胞生物学研究所(分生研)の不正調査に関する記事です。丁寧に経緯、および問題点が説明されています。分生研の大型不正は二度目で、今回も大物研究者であったこと、14億8千万円という巨額の研究費などが騒がれていますが、これらに注目することは本質を見失うことにつながります。どうしてこのようなことが続くのか、研究者を取り巻く環境に問題はないのか、研究機関は責任を果たしたのかといった、構造的な問題にメスを入れる必要があります。

・「研究公正を推進するためには何が必要か?」田中智之、ガチ議論、2017

研究公正の推進における研究機関の役割は重大ですが、現状の制度設計では研究公正に向けたインセンティブは弱く、むしろ不正隠蔽の誘因が大きいです。

「医学研究者は販売促進に関与すべきでない」学会が警鐘 NHK News Web、2017

日本医学会連合研究倫理委員会の提言、「わが国の医学研究者倫理に関する現状分析と信頼回復へ向けて」(PDF)に関する報道発表です。記事では製薬企業との関係にフォーカスがありますが、提言は広く研究公正に関するものです。

・「科学への真の貢献:その一手段としての論文撤回」飯田秀利、オンライン検索、38巻、144-152、2017年

Front. Plant. Sci.誌における筆者の論文撤回にまつわるエピソードです。論文撤回は、ミスコンダクトの結果起こるものが注目を集めがちですが、本来は誠実に進めていた研究が実は間違いであったというときにこれを研究コミュニティに伝えるための手段でもあります。筆者は植物のある遺伝子変異株を用いた研究において、その形質が実は別の遺伝子の変異に基づくものであることに気付きます。筆者の迅速な論文の撤回と関係者への発見の周知は、研究コミュニティにおいて高く評価されました。激しい競争の中、撤回のための実験を実施することは至難の業と言えるでしょう。Retraction Watchにも記事として取り上げられています。コメント欄も注目。These things can happen in every lab:” Mutant plant paper uprooted after authors correct their own findings. Scudellari, M. Retraction Watch, 2015.

・「粉飾された臨床試験の判別法:臨床試験のすべての関係者へ」(PDF) 奥村泰之(医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構)臨床評価、45巻、25-34、2017年

臨床研究においてメインの評価で期待した結果が得られない際に、メインの否定的な結論を隠してサブの解析の結果をポジティブに主張することは、問題の多い慣行です。特にAbstractでミスリードをすることの影響は大きいです。こうしたいわゆるspinと呼ばれる行為を「粉飾」として実例をあげ、粉飾をどう見分けるかが議論されています。論文では正確に結果が評価されていても、それが引用される際に粉飾されるという例も興味深いです。本文では出版(公表)バイアスの問題も指摘されています。Ben Goldacreの指摘やFostering Integrity in Researchでも提言されていますが、特に臨床試験では、ネガティブな結果を公開すること、および統計的なデータは全て公開することに対して強いインセンティブを与えなければいけないです。

Fostering Integrity in Research. The National Academy of Sciences, Engineering, and Medicine. 2017

米国の科学アカデミーの研究公正にかかる委員会の報告書。QRPからDRP (detrimental research practice)という意識改革(FFP以外のミスコンダクトの有害性を認識するべき)、第三者機関設置の重要性、研究不正を生む「システム」への注目、不正の実態調査の必要性、研究不正に対応するためのルールの統一、といった指摘が重要なポイントではないでしょうか。→Retraction Watchの解説記事。Scienceの解説記事

今回の提言について抄訳しました。

Bad Incentives Push Universities to Protect Rogue Scientists. Marcus, A. & Oransky, I. Slate, 2017

最近発覚したスター研究者のミスコンダクトの事例を取り上げ、大学をはじめとする研究機関が「金の卵をうむガチョウ」を擁護する背景を解説しています。公的資金にはその使途についての説明責任があること、これを徹底できるのは政府機関であることが示唆されています。

Study group to probe causes behind research misconduct. The Japan News, 2017

読売新聞の記事。AMEDによる「研究公正高度化モデル開発支援事業」採択課題のひとつの紹介です。20の比較的著名な不正ケースが聞き取りの対象で、500の研究機関の学生、院生を対象とした書面調査も企画しているそうです。2019年に取りまとめの予定とのことです。現状の研究機関による不正調査では踏み込めない側面が明らかとなることを期待しています。Retraction Watchでは台湾の事例とあわせて報道されています。

Years of Ethics Charges, but Star Cancer Researcher Gets a Pass. Glanz, J. & Armendariz, A. The New York Times, 2017

Carlo Croceに関する研究不正疑義に関する記事。Sloppyでfashionableな研究の問題、hypeと呼ばれる過剰な成果の喧伝、共著者数の増加による責任の分散、疑義をhonest errorと主張すること、告発者への圧力(精神錯乱者扱い)といった、問題のある有力研究者の特徴が丁寧に描かれています。一方で、研究機関は巨大な研究費を得たスター研究者の不正を認めることができないという、利益相反を抱えることについても具体的な証言を得ています。研究機関の質の低い調査報告書を却下するということが制度的に不可能な我が国では、この記事のような不正の追及は難しいでしょう。

U.S. researchers guilty of misconduct later won more than $100 million in NIH grants, study finds. Scienceinsider, 2017

過去25年間の284名の研究不正認定があったケースについて、その後のキャリアを調査しています。半数近くが研究の世界に復帰し、中には大きなグラントを得ている研究者もいます。一方で、発覚時の職位が低いケースでは復帰できていないことが多いようです。復帰については様々な意見がありますが、個々のケースで事情は異なることから、詳細な研究不正調査を実施し、その結果を公開することが、適切な判断につながるのではないでしょうか。

・「東京大学の研究不正の調査のあり方に関する質問主意書」第192回国会(臨時会)2016年

Stealth Research and Theranos: Reflections and Update 1 Year Later. Ioannidis JPA. JAMA, 316, 389-390, 2016.

Theranos事件を振り返るJAMAの記事。診断では次々と新たなアイデアの事業が立ち上がっていますが、どの程度それらにエビデンスがあるかというと怪しいものが多いです。乱立する診断手法は患者にとっての新たな脅威となる可能性があります。わが国においても"Stealth Research"の危険性に目を向けるべきです。

・「トップダウン型研究不正の手法解明ー捏造・アカハラ研究室でいかに生き残るか?東北大学金属材料研究所の例から学ぶ」原田英美子(滋賀県立大学)金属、86巻12号、2016年

研究不正問題においてもっとも深刻で解決すべき問題は、ここで取り上げられている「トップダウン型研究不正」です。これまで若手教育や研究倫理教育教材の開発などが話題になっていたのは、この問題に注目が集まることを避けるためではないでしょうか。「風通しの悪い研究室には研究不正が多い」という有名な経験則は、要するにアカハラの問題を遠回しに指摘しているだけです。研究費の浪費や人事の失敗といった不祥事を免責にするのであれば、せめて研究室内で何が起こっていたのかくらいは完璧に調査しなければ、研究不正にまともに取り組むことはできないでしょう。ここで取り上げられている東北大学の事件は「研究不正はない」という驚くべき調査報告書が出てしまいましたが、このような結論ありきの欺瞞に満ちた調査を続けるということは、今後も莫大な研究費が不正研究に費やされることを容認することです。そして優れた若者はそのような研究の場からは去って行くでしょう。

・「研究不正から読み解くもの」成戸昌信 経営センサー188巻、16-21(東レ経営研究所、2016年、PDF)

・IDE大学セミナー「研究倫理教育の挑戦 -不正防止から能力構築へ-」(京都大学、2016年)

研究不正に対する個人的な感想と個人的な取り組み -現場とお上の感覚のズレ-」中川真一(北海道大学薬学研究院)pdf資料として公開されています。不正行為と研究者の距離について、研究者ならではの心情を吐露されています。ここまで語れる研究者は少ないですが、語らなければこの問題に適切に取り組むことはできないと思います。

特集「研究倫理」(南山泰之編、情報の科学と技術 66(3)、2016年、巻頭言)全ての記事がオープンアクセスになっています。

オープンサイエンス時代の研究公正(林和弘)

研究不正と研究データガバナンス(小林信一)

海外の新事例から学ぶ「ねつ造・改ざん・盗用」の動向と防止策(白楽ロックビル)

査読の抱える問題とその対応策(佐藤翔)

学生への倫理教育と研究ガバナンス(岡部晋典、逸村裕)

・「公開セミナー:研究公正の推進に向けて」(沖縄科学技術大学院大学、2016年)

講演者(ニコール・フェジャー(欧州研究公正局ネットワーク(ENRIO)議長)、黒木登志夫、田中俊憲)のスライドをダウンロード(PowerPointファイル)することができます。いずれも興味深い内容です。

・「誠実な研究活動のために(Part1, Part2)」田中 智之 ファルマシア 52(2), 131-135, 2016, 52(4), 317-321, 2016

平成25年3月の薬学会シンポジウムの誌上まとめとして投稿しました(内容は本サイトのシンポジウム紹介記事の要約です)。

・「研究不正の深層」(小田垣孝、東京電機大学理工学部、物性研究・電子版、PDF)2016年

・「研究不正と社会の関係〜幹細胞研究におけるSTAP細胞を例として」(八代嘉美、京都大学、PDF)哲学 (67), 96-109, 2016年

生命科学における研究不正、特に幹細胞領域における特徴が解説されています。Pubpeerでも幹細胞分野は投稿数が多いことで目立つ領域です。

・「生命科学の研究倫理〜なぜ不正が絶えないのか」(PDF)(榎木英介、近畿大学医学部)KEIO SFC JOURNAL vol. 15, 2015年(慶應義塾大学湘南藤沢学会

近年の不正事例、背景の事情がコンパクトにまとめられています。

・「研究不正と健全化」(編:小林良彰、日本学術会議連携会員、慶應義塾大学法学部)学術の動向 12月号 2015年

文科省の審議依頼に対する日本学術会議からの回答「科学研究における健全性の向上について」の解題に相当する特集です。執筆者が数物系、法学系に偏重しており、問題となっている生命科学からの発言がないところに、問題の根深さが表れています。執筆者の提言や認識は妥当なものですが、一方で生命科学に特有の問題への切り込みはできていないように思います。文部科学省科学技術・学術政策局長はこうした提言を受理しています。第三者的な調査委員会の設置をはじめとする具体案は実現するのでしょうか。

Vigilant Scientists. PubPeer Blog 2015

Michael Blattが自らが編集長であるPlant Physiology誌において発表した記事(Vigilante Science. Michael Blatt, Editorial, Plant Physiol. 2015)に対するPubPeerからの応答。PubPeerをはじめとする出版後査読は科学にとっての脅威であるという意見に端を発した議論は興味深いです。Michael BlattのEditorialについたPubPeerのコメントは360を越えています。匿名による疑義の告発や批判は科学の健全なあり方ではないという意見は一見してもっともなのですが、研究者コミュニティにおける権力の偏在(研究費の配分審査や人事)や名誉毀損による訴訟リスクを考慮すれば、匿名の議論は科学研究の健全さを維持するために必要という意見も成り立ちます。

What pushes scientists to lie? The disturbing but familiar stray of Haruko Obokata. Rasko, J. & Power, C. The Guardian, 2015

STAP事件を契機に執筆された記事ですが、過去の研究不正事件を取り上げるだけではなく、科学における再現性の重要性がきちんと指摘されており、現代の科学において何故それがないがしろにされる傾 向があるのかが分析されています。AmgenとBayerの研究者によってそれぞれ明らかにされた、「生命科学におけるトピックとして有名な研究の中で再現できたのは10%程度」というショッキングなニュースにもふれています。

・「研究不正問題――誠実な研究者が損をしないシステムに向けて」片瀬久美子(SYNODOS) 2015年

現在の我が国における研究不正調査の枠組みに内在する問題点が、分かりやすく解説されています。

・「研究不正の法と倫理ー多角的視点から関係者の利益を考慮して」松本俊輔、相模女子大学紀要、79、2015年

・「研究不正を容認する構造」匿名(岡山大学による報告「研究活動に係る不正行為に関する調査結果について」に関する意見)2015年

岡山大学における研究不正告発者の解雇事件の問題点を指摘するサイトにおける意見。

・「知の質とは ーアカデミック・インテグリティの視点からー」平成27年度大学質保証フォーラム(独立行政法人大学評価・学位授与機構)2015年

Academic IntegrityとはResearch Integrityを包含するより大きな概念だと思いますが、専門家が社会に信頼されるためにはIntegrityこそが重視されるべきであり、参考になる議論が行われています。発表資料が公開されています。

・「研究成果の発表と研究倫理〜STAP問題から考える〜(PDF)」中村征樹、科学技術コミュニケーション第18号、81~89、2015年

研究成果をどう適切に伝えるか、そして進行中の研究がもつ不確実性にどう取り組むかという点が言及されています。

・「STAP細胞論文のゆくえ」(山崎茂明教授講演、日本記者クラブ)2014年

会見抄録(PDF)とYouTubeリンクが掲載されています。研究不正を予防するための基本的な姿勢とはどうあるべきかを学ぶことができます。

・「我々は研究不正を適切に扱っているだろうか」(小林信一主任、国立国会図書館調査及び立法考査局)2014年

・「新しい研究不正ガイドラインの論点」—ガイドラインの課題とガイドライン後の課題— 2014年

研究不正規律の検証、および文科省の新ガイドラインに関する論点の検証です。ガイドライン策定の背景の議論、参考にされた事案等を理解することができます。披告発者に対する過剰な保護など、研究者が違和感を覚える箇所についての背景の説明は興味深いです。

・「RCR教育の現状と課題」(札野順教授、金沢工業大学)講演:2014年(JST)

・「我が国における重大な研究不正の傾向・特徴を探る(2014)(PDF)」菊地重秋、中央大学・通信教育部機関誌『白門』2014年

・「我が国における重大な研究不正の傾向・特徴を探る(PDF)」菊地重秋、『IL SAGGIATORE』40号 2013年

・「我が国ににおける研究不正(ミスコンダクト)等の概観ー新聞報道記事から」菊地重秋 埼玉学園大学紀要 2009-2014年

その(いずれもPDF)

・「わが国の研究不正の特徴と国際比較」松澤孝明参事役(JST)講演:2014年

・「わが国における研究不正 公開情報に基づくマクロ分析」松澤孝明参事役(JST) 情報管理 2013年

・「日本の新自由主義的学術研究政策の失敗の象徴としてのSTAP細胞問題ー博士号取得者倍増と競争主義の高唱の中で」中嶋久人 東京の「現在」から「歴史」=「過去」を読み解くーPast and Present

研究指導における人的リソースを手当てすることなく博士数を急増させたポスドク1万人計画、競争原理に基づいた科学技術政策、両者の当然の帰結としての「STAP細胞事件」であることが論じられています。

The Culture of Scientific Research in the UK. Nuffield Council on Bioethics 2014

質の高い研究とはどのようなものか、科学研究の文化についての調査結果がまとめられています。競争の影響や、Research Governance、Research Integrityといったキーワードについて議論が行われています。

Using the Fraud Triangle to Explain Scientific Misconduct. Organizing Creativity, 2014

Donald R. Cresseyが提唱した「不正のトライアングル」が研究不正においても援用可能であることを指摘した論説。

Agency for change. Nature, 509, 8, 2014

Japan’s proposed reforms to science monitoring are welcome but long overdue.日本の研究不正の事例と対応が取り上げられていますが、議論は表面的です。

‘Rehab’ helps errant researchers return to the lab. Cressey, D. Nature, 493, 147, 2013

不正研究者を追放しないオプションを選択した際には、更正についても考える必要があります。不正研究者のリハビリについての論説です。2012年にORIに寄せられた疑義は419件で前年の2倍であるという記述も見られます。アメリカの研究機関は年平均3-5件の研究不正案件を抱えているという調査結果も参考になる数値です。

Challenging the integrity of research. de Lange, C. Naturejobs, 2012

研究者にとって重要な7つの資質があげられています。Honesty, Fairness, Objectivity, Reliability, Skepticism, Accountability, Openness

・「「科学の公正性」をめぐる米国と我が国の動向」牧田浩典(日本学術振興会ワシントン研究連絡センター、PDF)、2012年

米国における研究公正問題への取り組みに関する歴史的経緯、2005年頃の日本の研究公正への取り組みの状況が紹介されています。

Do rebuttals affect future science? Banobi, JA, Branch, TA, Hilborn, R. Ecosphere, 2, 37, 2011

先行研究の不備や誤りを修正する報告は科学における自浄作用として重要ですが、近年ではそれらが適切に引用されていなかったり、あるいは逆に先行研究をサポートするものとして引用されるといった問題が生じています。

Scientific Fraud: Autism and Child Vaccines. Zimbelman, M. Fraudbytes, 2011

これはライフサイエンスのブログではないのですが、プレッシャーが強い一方で、規制がない状況では、私たちは研究者のintegrityに頼るしかないということが指摘されています。

白楽ロックビルのバイオ政治学

生化学、分子生物学領域の研究者には有名な白楽ロックビル氏のブログです。研究倫理に関する情報もかなりの蓄積があります。

・生物医学雑誌への統一投稿規定(2010年改訂版) (Uniform requirements for manuscripts submitted to biomedical journals: Writing and editing for biomedical publication, J. Pharmacol. Pharmacother. 2010)

医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)による統一投稿規定。発表倫理という意味で、研究公正に通じる規定が含まれています。精読すると実際には準拠されていない事例が多いことに気付きます。オーサーシップの問題や疑義が生じた論文の適切な取り扱いなども知ることができます。和訳(PDF)が医学論文翻訳・校正サービスから提供されています。

Falsification Charge Highlights Image-Manipulation Standards. Vogel, G. Science 322, 356, 2008.

Special Online Collection: Hwang et al. Controversy --Committee Report, Response, and Background. Science, 2006

黄禹錫による幹細胞研究の不正事件に関するScienceの総括ページ。

Image manipulation: CSI: cell biology. Pearson, H. Nature 434, 952-953, 2005.