参考図書

鑑定不正−カレーヒ素事件」河合潤(2021年)

和歌山カレーヒ素事件において行われた鑑定結果に対する疑義をまとめたものです。この事件では前年に完成したSPring-8を用いて、高度な科学的捜査により容疑が証明されたことになっていますが、その内実はお粗末な実験操作であったことが明らかにされています。いずれも大学実習レベルの基本的な科学研究のデザイン、解析が出来ていないことによるもので、ミスと考えることは難しいです。鑑定人はSPring-8を用いた微量元素分析の一人者としての地位を固め、日本分析化学学会の学会賞も受賞していますが、一方で鑑定の際の虚偽が影響してSPring-8を用いた分析化学の水準は低いままであり、学問分野としての発展も起こっていないようです。裁判の資料や論文等、公開された資料からでも、研究不正事件として調査する上で十分な理由があるように見えます。

科学者をまどわす魔法の数字、インパクト・ファクターの正体—誤用の悪影響と賢い使い方を考える」麻生一枝(2021年)

インパクト・ファクター(IF)の話題だけで一冊とは…と思いましたが、十分一冊の本になるだけの情報があることを認識しました。個々の研究者は優れた発想をもっているものですが、集団で取り扱われると無力であることがよく分かります。正規分布よりははるかにべき分布に近い、論文当たり被引用数を、平均値で評価しているという、そもそも統計量としても問題のあるIFですが、まだまだその威光は生命科学では強いものがあります。DORAをはじめIFを研究評価、研究者評価に利用することをやめることを求める活動が継続しています。

発表倫理—公正な社会の礎として」山崎茂明(2021年)

国際医学情報センターの医学情報誌「あいみっく」に主に掲載された、山崎茂明先生の最近の論考をまとめたものです。STAP細胞事件以後という位置づけができると思いますが、私たちは十分な教訓を得ないまま、再びTide of Liesと称された捏造事件や、大阪大学・国立循環器病センターの不正事件といった研究不正に直面しています。山崎先生は、科学研究はその成果を発表するときに完結するという言葉で、発表倫理の重要性を早くから指摘されてきました。捕食出版の跋扈、査読制度の危機、Paper Millの登場と、発表倫理はますます様々な危険に曝されるようになってきました。Lancetの誕生時のエピソードが描かれている章がありますが、社会改良家としての顔をもつ設立者のトーマス・ウェイクリーと、ウェイクフィールドの不正論文を撤回せずに批判された現在の編集長であるリチャード・ホートンとの姿勢の相違に、Lancet誌の変節を感じてしまいます。主流医学誌の編集者は、利益相反を適切に開示することができるでしょうか。ここに集められた論考を読んで、改めて研究者にとって誠実さが第一であることを振り返っていただきたいです。

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相」ジョン・キャリールー(関美和、櫻井祐子訳)(2021年)

最も成功したスタートアップ企業のひとつであったセラノスの登場から退場までを、ウォールストリート・ジャーナルの調査報道に従事する記者が描いています。セラノスは一滴の血液から様々な検査結果を得る夢のマシンを掲げて登場します。現在、注目を集めているリキッドバイオプシーの先駆けといえるでしょう。しかし、残念ながらそれは単なるアイデアに過ぎず、社会から寄せられた期待に比例して集まった資金は、空虚に浪費されていきます。一般向けにはシリコンバレーで得られた教訓として読まれることと思います。本サイトとしては、リーダーであったエリザベス・ホームズの科学研究の軽視(蔑視に近いところがあります)、専門家の警告が社会には十分に届かなかったこと、知財を絡めた秘密主義のリスクといったところが、注目点です。ホームズは出鱈目な検査によりたくさんの人が被った健康リスクについて一切の謝罪をしていません。医療人には謙虚な姿勢と倫理観が要請されるわけですが、経済を重視しすぎると不適切な人たちが参入するようになるわけです。この事件は対岸の火事ではなく、わが国においても例えばSTAP細胞プロジェクトでは理化学研究所は最後まで特許にこだわりを見せていました。こちらに短い書評を書いています。

RAW DATA」ペルニール・ロース(日向やよい訳)(2020年)

2015年に原著が発表されています。著者は分子生物学領域で著名なEMBO J.の編集長を務めた研究者で、本書にもその経験がいかんなく盛り込まれています。未読の方にはネタバレになってしまいますので細かくは紹介できませんが、ライフサイエンスの研究者であれば細部に至るまで楽しむことができる小説と言えるでしょう。一方で、これは現代のライフサイエンス研究のまっただ中にいる一流研究者の実感が率直に表現されているという点で価値の高い資料でもあります。ORIのシミュレーション教材であるThe Labでは不正の起こったラボを率いる現代的な一流研究者の師は、研究活動の理想像、本来のあり方を示唆する存在として登場するのですが、本書では研究活動の理想はどこにも描かれていません。ひたすら現状の中でなんとか生き残ろうとする研究者のリアルな姿が描かれており、研究者の中には不快感を催す方もいるでしょう。本書では(現実にはしばしば見かける)サイコパス的人物は登場せず、極めて有能な研究者が不正を犯してしまうという設定になっています。和訳の付録として、著者へのインタビューがあるのですが(訳者によるものなのか分かりませんが、鋭い質問があります)、インパクトファクター至上主義が否定されるわけでもなく、不正そのものについても比較的寛容な意見(「いずれは消えていく」派ですね)が披露されており、研究者のもつべき規範について何かが語られるわけでもないことが気になりました。著者は、研究の素晴らしさ、魅力についても登場人物に語らせていると答えているのですが、本書を読んで研究者になりたいと思う若者は皆無ではないでしょうか。

研究不正と歪んだ科学ーSTAP細胞事件を越えて」榎木英介編著(2019年)

リンク先に目次がありますが、STAP細胞事件から5年経過した現在、改めてこの事件から何が教訓として得られたのか、そして研究者コミュニティはどう変わったのか(あるいは変わっていないのか)が議論されています。こうして振り返ると、未だに変化のない側面というのは、経済活動や研究者(および周辺の人たちの)マインドに由来するものであることが分かります。経済活動の側面は何らかのペナルティがない限り、制御することは難しそうです。マインドに関しては、近年の研究活動のあり方の変化が、研究に関わる人のあり方を変えていることへの反省が必要でしょう。

STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」:編著者の榎木さんによる記事。STAP事件以降のコミュニティのあり方に対して厳しい指摘が行われています。研究公正は研究活動の根幹にあるべき問題ですが、そもそも重要とは考えていない研究者、官僚がいかに多いかには嘆息させられます。毎日新聞をはじめ、メディアでも取り上げられる機会が増えてきましたが、一部の研究者に見られるような不遜な態度を続けていると自浄作用のはたらかない集団という烙印を押されてしまうでしょう。

生命科学クライシス」リチャード・ハリス、寺町朋子訳、篠原彰解説(2019年)

生命科学研究の危機を余すところなく描いた重要な著作です。生命科学研究を始める方にとっては必読ではないでしょうか。不正問題のみならず、再現性を得ることの難しさ、学問領域としての未成熟な側面などを学ぶことができます。こちらに短い書評を書いています。

13歳からの研究倫理」大橋淳史(2018年)

文部科学省は2002年よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)という制度を開始し、高校における科学教育の振興をはかっています。広報ではSSH発のユニークな研究の事例が紹介されますが、研究活動の訓練を受けた経歴のない指導者がリードすることによる深刻な問題も同時に指摘されています。即ち、科学研究の進め方として不適切なものや、意図しない研究不正が多発しています。本書のような中高生を対象とした研究倫理のテキストの必要性はそんなところから生まれています。SSHでFFPやQRPが多発するのは指導のリソースが不足していることに起因する問題であり、長年問題が指摘されながら一向に見直されることがないことは大変残念なことです。イギリスのGCSE改革において試行された「放射性廃棄物」をテーマにした授業など、サイエンスに親しむカリキュラムは実験ばかりではないと個人的には思います。

医学研究・臨床研究の倫理 わが国の事例に学ぶ」井上悠輔、一家綱邦(2018年)

大学における講義を意識した構成で、コンパクトに重要な事例が網羅されています。それぞれの事例は教訓が重ならないように配慮されており、全体を通して読むことで俯瞰的な視点を得ることができます。

疑惑の科学者たち 盗用・捏造・不正の歴史」ジル・アルプティアン、吉田春美訳(2018年)

フランスの科学ジャーナリストによる研究不正の事例紹介。読み物としては面白いかもしれませんが、不正の背景に関する考察はごく浅いところまでしか踏み込まれていません。STAP細胞事件の項目を読むと、間違いや誤解が含まれており、英語で事件の詳細を発信することの重要性を感じます。こうした著作を通じて日本の研究不正が国際的に知られるわけですから、背景の説明や、より深い考察を英語で発信していくことは大切だと思いました。

研究者のコピペと捏造」時実象一(2018年)

研究不正の実例が多数紹介されていて、研究公正に向けた取り組みについても紙幅が割かれています。著者のスタンスは楽観的なもので、今後はより研究不正が減っていくという予想をお持ちなのかもしれません。自然科学論文の盗用については寛容な姿勢で、昨今の流れとは異なる意見が述べられています。

科学者の研究倫理 化学・ライフサイエンスを中心に」田中智之、小出隆規、安井裕之(2018年)

日本薬学会年会における2回のシンポジウム、およびこのwebサイトの作成を通じて得た知見をベースに、現場の研究者の目線から研究倫理のテキストブックを執筆しました。研究倫理を理解する上では、研究活動とはどういうものであるのかを知ることが大切です。多くの研究者は研究活動の中で出会う様々な事象をメンターと議論する中で研究倫理を学びますが、研究者の考え方の根本には共通した哲学があります。また近年国の基礎研究支援が低下する中、社会と研究者との関係にも緊張が生じています。これから研究者を目指す大学生、大学院生、そして彼らを指導する研究者の方に手に取っていただきたいです。

研究倫理の確立を目指してー国際動向と日本の課題」東北大学高度教養教育・学生支援機構編(2017年)

「知識基盤社会におけるアカデミック・インテグリティ保証に関する国際比較研究」(基盤研究B、2011-2013)の成果をまとめたもの。近年我が国でも政府からの研究支援が制限されてきたことが話題になっていますが、ウィスコンシン大学のWARFの事例は興味深いです。アメリカの事例以外に、イギリスの地球温暖化スキャンダル、ドイツ、中国、オーストラリアの事情が詳解されています。国内で実施されたアンケートの結果からは、2012年の時点では我が国の研究倫理に対する認識は非常に劣ったものであったことがうかがえます。

研究公正とRRI」科学技術社会論学会編(2017年)

薬学研究」(スタンダード薬学シリーズⅡ)日本薬学会編(2017年)

スタンダード薬学シリーズは薬学教育モデルコア・カリキュラムに準拠した薬学部教科書のシリーズです。第1部「研究の心構え」を田中が執筆しました。「研究倫理」「研究の進め方」「研究成果のプレゼンテーション」の3項目です。臨床系学部の中でラボトレーニングがカリキュラムとして義務づけられているのは薬学部のみです。

責任ある研究のための発表倫理を考える」東北大学高度教養教育・学生支援機構編(2017年)

ミスコンダクトの多くは、論文やプレスリリースといった発表の場がきっかけで発覚します。「発表倫理」に注目することは、そのもとにある研究活動を見直すことにつながります。第Ⅰ部は「研究倫理の動向と発表倫理」、第Ⅱ部は「言語教育から見た盗用問題」というくくりでまとめられています。後半は生命科学とは距離がありそうに見えますが、書く技術の欠如が結果として不正につながるという構図は実験科学においても共通しているところがあり、教育の重要性を感じます。

赤い罠 ディオバン臨床研究不正事件」桑島巌(2016年)

一連の臨床研究の結果に早い段階から疑義を唱えていた著者によるディオバン事件に関する著作です。臨床研究に通じていない医学部教授たちによる臨床研究不正が起こった背景について詳しく解説されています。研究実施時に不正に関与し、そのデータをもとに宣伝に加担し、国の保険財政に損害を与えた医師たちが、何の刑事責任も問われず、今も経済的に恵まれた生活を送っているという事実に暗澹とさせられます。こうした結末が、不正をしてでも権力を得たいというモチベーションにつながるのではないかと思います。再発防止の取り組みを行うためには、事実上免責となった関係者への聞き取り調査による全体像の理解が欠かせないと思いますが、裁判を理由としてうやむやになってしまうのかもしれません。

研究不正」黒木登志夫(2016年)

研究者が研究不正問題に網羅的に言及するという事例は少なく、白楽ロックビル氏の一連の活動が大変貴重なものであったわけですが、日本学術振興会の学術研究フォーラムにおいても講演された黒木登志夫氏による本書は、今後研究不正を理解しようとする方が手に取るべき一冊になるでしょう。研究者ならではの視線は、不正が起こる原因、不正に対する研究者の態度を理解する上で重要なものです。Amazonの書評(2016年6月3日閲覧):現役研究者を含め、書評も興味深いです。

科学の健全な発展のためにー誠実な科学者の心得」日本学術振興会「科学の健全な発展のために」編集委員会(2015年)

簡潔かつ網羅的に研究倫理の様々な側面が解説されています。教材として使う場合には、短い記述の背景の事情について講師が十分理解しておく必要があるでしょう。

科学論文のミスコンダクト」山崎茂明(2015年)

科学者の発表倫理」山崎茂明(2013年)

パブリッシュ・オア・ペリッシュ」山崎茂明(2007年)

科学者の不正行為—捏造・偽造・盗用」山崎茂明(2002年)

ORI研究倫理入門:責任ある研究者になるために」Steneck N(翻訳:山崎茂明)

著者は欧米においてもまだ注目を集めていなかった時期から研究不正に着目し、その実態、および米国でのORI設立に至る社会との関係といった動向を紹介してきました。発表倫理の重要性に関する指摘は多くの論者に参照されています。著者の解析は、研究倫理を考える上で重要なポイントを明らかにしており、それらの指摘は今なお有効で対応が求められています。いずれの著作も推薦しますが、「パブリッシュ・オア・ペリッシュ」は研究公正問題の論点と、著者の主張を理解する上で、最初に読むべきというのが私の感想です。

捏造の科学者 STAP細胞事件」須田桃子(2015年)、文庫版(2018年)

研究不正、疑わしい研究活動、そして誤解を招く過剰な広報といった、研究不正事件の典型ともいえるSTAP細胞事件を追った毎日新聞記者によるドキュメントです。理化学研究所が前に出して宣伝した若手研究者のイメージで語られることの多いこの事件ですが、深刻に捉えるべきなのはその周囲の研究者や官僚の責任です。幹細胞研究のトップ研究者を失ったこの事件については、まだまだ解析すべき課題が残されていると思います。

偽りの薬ーバルサルタン臨床試験疑惑を追うー」河内敏康、八田浩輔(2014年)、文庫版(2018年)、文庫版解説(HONZ、柳田邦男)

本書はバルサルタンに関連する臨床研究が社会的に注目される「ディオバン事件」となるきっかけをつくった毎日新聞記者によるドキュメントです。直接取材した記者たちによる報告は、この事件の実相を知る上では欠かせないものです。「患者不在」で医学の理想からほど遠い人物がしばしばピラミッドの頂点に立つのは何故か、この点は今なお業界ではタブーであり、まともに議論されることがありません。外資系企業ではコンプライアンスが厳しく問われるなどとよく言われますが、ディオバン事件に深く関わる営業本部長がベーリンガーインゲルハイムジャパン社長に就くといった業界の問題点も見え隠れしています。

医師もMRも幸せにする患者のための情報吟味ーディオバン事件以降の臨床研究リテラシー」山崎力(2014年)

臨床研究における根幹ともいえる統計学ですが、臨床統計学は今もってその重要性に見合う取り扱いを受けていません。臨床研究の落とし穴を分かりやすく解説していますが、著者の指摘を十分理解するためにはある程度の予備知識が必要でしょう。

背信の科学者たち—論文捏造はなぜ繰り返されるのか」(2014年)ウィリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド(訳:牧野賢治

しばらく絶版状態でしたが、大阪大学の仲野徹教授により再版が訴えられ現在は入手可能です。本書は論文捏造、研究不正の様々なケースを知る上で優れた参考資料です。何が不正かという問題は当たり前のことが多く、退屈な印象すら与えることがありますが、具体的なケースを読めば何故研究不正が起こるのか、どうして周囲は気づかないのかといったことについての理解が深まります。国内でも隠れたベストセラーであることが知られています(科学書に関しては異例にネット書評の多い本です)。一方、執筆された時代を反映していますが、科学のもつ検証を通じた洗練のプロセスにふれずに、過剰な相対化(評論と科学研究を同等におくなど)が行われている点は注意が必要でしょう。

片瀬久美子さんの書評(ブック・アサヒ・コム(朝日新聞))

嘘と絶望の生命科学」榎木英介(2014年)

強烈なタイトルに面食らう読者も多かったようですが、生命科学の研究者の多くには驚きはなかったのではないでしょうか。まずは実態を世の中に知らしめるという意味で大きなインパクトのある出版だったと思います。科学と社会の関係をどう捉えるかという視野の大きな議論も非常に大事なものだと改めて思います。

Science Talksにおけるインタビュー記事:日本版AAASの話題も出てきます。科学研究をやめてしまうという選択肢があり得ない以上、研究に関わる人たちがもっと元気がでるような工夫は今後ますます必要になってくるでしょう。それは必ずしも国に頼るということではないのかも知れません。

Scientific Integrity~Text and Cases in Responsible Conduct of Research. (4th Ed.) Macrina, FL. ASM Press, 2014.

大部の著書ですが入手したもののまだ読めていません。事例が豊富に掲載されており、研究倫理教育のネタ本としても有用ではないでしょうか。

理系なら知っておきたいラボノートの書き方」岡崎康司、隅藏康一/編(2011年)

実 験ノートの作成法の標準とはどんなものかという関心をお持ちの方も多いと思います。自分が研究室で伝授されたノートの取り方で良かったのか、確認する上で もこうした書籍は役に立ちます。当初は特許の証拠資料として整備されてきたrecordingの手法ですが、ラボ内での実験の再現性の確保、論文に疑義が 生じた場合の証拠として、今後はその指導の重要性が高まることは間違いないでしょう。

科学研究者の事件と倫理」白楽ロックビル(2011年)

既にやや入手困難になっているようですが、「バイオ政治学」を提唱する著者の活動のひとつである「研究倫理」についての蓄積が紹介されています。現在はブログで活発に発信されています。

科学者をめざす君たちへ」米国科学アカデミー編、翻訳:池内了(2010年)

On Being a Scientist-A Guide to Responsible Conduct in Researchの翻訳です。研究者の責任ある行動とはどういうものなのかが、簡潔にまとめられています。

研究者の三つの義務として冒頭で以下の三点が説かれていることが印象的です。

1.研究者相互の信頼を尊重する

2.専門家としての規範を固く守る

3.公衆に奉仕する

論文捏造」村松秀(2006年)

NHK特集番組「史上空前の論文捏造」の際の取材をもとに執筆されました。ベル研究所のヘンドリック・シェーンは超伝導分野における新星としてScience、Natureといった一流誌に研究を発表し、ノーベル賞に最も近いという評価を得ますが、その研究内容は捏造でした。研究不正を取り巻く様々な問題点を実例に基づき学ぶことができますが、その構図は驚くほど理化学研究所のSTAP問題と似ていることに気付くことと思います。

化学者の倫理」J・コヴァック、翻訳:井上祥平(2005年)

他の領域と比較して化学領域では研究倫理に関する論説が少ないということが執筆の動機として述べられていますが、生命科学の研究者にとっても有用です。「ケーススタディに学ぶ」は多数の例があげられており、ワークショップの例題としても使えます。専門家の倫理のあり方、贈与経済的な科学者コミュニティのあり方などが議論されています。

「ご冗談でしょう、ファインマンさん」リチャード・P・ファインマン(岩波現代文庫)

科学者によるエッセイの中では最も有名なシリーズかもしれませんが、ノーベル物理学賞を受賞し、物理学の優れた教科書も執筆したファインマンの著作です。最終章の「カーゴ、カルト、サイエンス」は科学研究のコアとして必要な誠実さについて取り上げています。

Ethical Issues in Biomedical Publication. Jones AH & McLellan F. The Johns Hopkins University Press, 2000.

Fraud and Misconduct in Biomedical Research. Wells F & Farthing M. Royal Society of Medicine Press, 2008.

Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Pubilcation of Scholarly Work in Medical Journals. updated in 2014 (PDF)